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第三章 新魔王誕生編

初仕事

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「どういう仕事をするの?」

 アジトの一室、皆とある程度言葉を交わし、部屋のリーダーのマックスに質問をする。
 
「マフィアと言うと聞こえが悪いけど、レパーデスの収入は主に不動産業とカジノ、金貸しだ。普通は銀行から引き落としだけど、払わない奴らもいる。そういう奴らの所には俺たち構成員が直接取立てに行く。払わなければ脅してもいい」
「へぇ、殺しはしないのね」
「いや、するよ。一般人には基本的には手を出さないけど、うちの組織に仇なす様な連中は殺していい。トリプレットとかだな、分からないように殺すけどな!」
「なるほどね」

 結構クリーンな組織なのね。
 もっと脅して金取ってるのかと思ってた。

「東の繁華街『ソレムニー・アベニュー』の土地のほとんどはレパーデスの所有だ。土地を貸すだけでかなりの収入になる。金貸しに関しては、銀行から借りられないような奴らに貸すから利息が高い。返せないやつが多いから取立てに行くことがほとんどだ。カジノで搾り取って借金させて、利息で更に搾り取るシステムだな」

 後はパブやバーを複数経営していて、店の警護も仕事の内のようだ。金を受け取り他の店の警護を請け負うこともあるらしい。街で暴れる冒険者や、一般人に危害を加える様なヤツの処罰は領主側の仕事だ。
 
 風俗業はしていないらしく、娼館等との競合は無いらしい。ボスが女性という事も関係しているんだろうか。気にしなさそうだけど。

 
「よし、早速だけど、俺に着いて来てくれ!」

 昼を過ぎてマックスについて行く。
 借金返済を滞納している男の家に行くようだ。

「よし、マモンだったっけ? お前行ってみな、方法は任せるよ!」
「あら、好きにさせてくれるのね。分かったわ」

 呼鈴を鳴らす。が、出てこない。
 誰かが中に居るのは間違いない、居留守ね。

「出てこないわね。よし、拷問したヤツから抜き取った記憶を流して込んでやろうかしら。場所は、あの辺ね」

 手をかざして記憶を対象に流す。
 脳に直接苦痛を与えると、同じような痛みを体験出来る。身体の損傷は無いけど。

『ギャァァァ――!』

 のたうち回っているようだ。バタバタと音がする。

「居るのは分かってるわよ、やめて欲しけりゃ出てきなさい!」

 男は飛び出てきて転げ回っている。

「居留守を使うとはいい度胸ね、もっと凄い物見せて欲しい?」
「やっ……やめてくれ! 払うから! でも……今は金がないんだ!」

 マックスの方を向いてコイツの借金額を聞く。

「4万ブールだ」
「それくらい普通に働けば返せるでしょ。さてはギャンブルね?」
「はい……」
「ギャンブルを辞めろとは言わないわ。一週間猶予をあげる、利息分をレオパルドに持ってきなさい。タダじゃないわよ? そうね……爪を一枚貰おうかしら」

「や……やめてくれ……」
 
 男の左腕を掴み、小指の爪を剥ぎ取った。

『ギャァァァ――!』
「一週間後持ってこなかったらもう一枚爪が無くなるわよ? 利息分だけで良いって言ってるの、必ず持ってきなさい」
「わっ、分かりました! 持っていきますから!」
「そう、じゃあ待ってるわね」

 何これ、スカッとするわ。

「お前、容赦ないな……天職じゃないのか……?」
「あぁ、能力との相性が抜群だ。まさか拷問相手の記憶まで持ってるとはね。その趣味の悪さには脱帽だよ」


 ◆◆◆
 
 
 その後もワタシ達三人はレパーデスで各自仕事をこなし、レトルコメルスに来て一年が経った。

 アレクサンドは今までの経験からバーやパブの経営に携わり、その才能を遺憾無く発揮して売上を大幅に伸ばした。

 サランは優秀すぎる秘書として、ボスの信頼を一身に受けている。

 ワタシは借金取立てのスペシャリストとして負債者を痛めつける毎日を送った。回収率が大幅に上がったらしい。ホント、ワタシには天職かもしれない。スカッとする。

 そこら中でトリプレットの構成員がちょっかいを出してくる。それを痛めつけるのも日課だ。

 その功績が認められてか、ワタシ達三人も幹部会議に出席するようになった。


 ある日、ヴァロンティーヌを激昂させる事件が起きる。
 
 ヴァロンティーヌのブティックの一つにトリプレットの構成員が強盗に入り、警護に入っていたレパーデスの構成員に瀕死の重症を負わせた。サランの回復術で幸い命に別状は無かったが、とうとう奴らは直接レパーデスに実害を与えた。
 店員と構成員の話によると、眼が緑色の男を先頭に店を襲撃してきたという。幹部が直接手を出して来たという事だ。

 
「これより緊急幹部会議を始めます」

 アンダーボスの『フェリックス・シモン』の挨拶で会議が始まった。フェリックスはボスの実弟だ。

 他にはエヴァンを含む五人のカポと、その直属の部下が一人づつ。マックスもエヴァンの後ろに立っている。

 ボスは勿論、フェリックスもカポの五人も昇化した人族だ。実力も高い。

 長机の奥正面に腕と脚を組んだヴァロンティーヌが座っている。
 フェリックスが会議を進行する。

「さて、今日の議題ですが、皆もご存知の通り『三連符トリプレット』の構成員が我々の縄張りで悪さをし続けています。数がさらに膨れ上がり、ソレムニー・アベニューから客足が遠のく一因ともなっています。彼等は一般人にも平気で手を出す。領主も動き始めていますね。そしてとうとう、我々の管理する店を襲撃しました。これは奴らからの宣戦布告と受け取る事に致しましょう」

 フェリックスが喋り終えると、ヴァロンティーヌが口を開いた。

「トリプレットが私たちに害をなす前に対処してきたが、とうとう幹部が直接手を出してきた、もう我慢の限界だ。下っ端ばかり相手をしてもキリがない、あいつらの巣を直接叩く。その前に、私は領主に会ってこようと思っている。少し暴れても目を瞑れとな」

 ヴァロンティーヌは静かに喋ってはいるが、怒りを抑えているのがよく分かる。
 皆が無言で頷いている。

「領主達は私達とは対極の組織だ、うちの幹部をあまり会わせたくない。マモン、アレク、サラン、ついて来てくれ。明日の午後にしよう」
「了解よ、ボス」

 緊急幹部会議を終え、各自仕事に戻った。
 

 ◆◆◆
 
 
 次の日の午後。
 領主との面会予約は秘書のサランが済ませている。

「さて、行くよ」

 領主の屋敷に四人で歩いていく。
 門衛に応接室まで案内され中に入った。中には昇化した人族が座っている。

「いらっしゃい。久しぶりだね、ヴァロンティーヌさん」
「あぁ、領主になんてあまり会いたくはないけどな」
「まぁ、そう言わないでくれ。君達は蛇神の王ナーガラージャよりは話が通じる。いい関係を築きたいと思っているんだがね」

 彼がレトルコメルス領主『オリバー・リオン』か。
 物腰が柔らかく頭が良くて強い。領民からの人気は歴代でもトップだと聞く。

 挨拶もそこそこに、オリバーに対面して席に着く。

「早速本題に入るが、お前達も頭を悩ませているだろうトリプレットの事だ」
「あぁ、数が多い上にいざこざが多すぎて手が回らない。敵対組織の君達なら尚更だろう」
「私はあいつらのアジトを直接攻めようと思う。お前らもトリプレットが潰れた方がいいだろう?」
「間違いないね。で、私に会いに来たのは何か要件でも?」

 ヴァロンティーヌは少し間を置いて、組んだ腕を解いて話し始める。

「一週間目を瞑ってくれ、久しぶりに私たちは暴れる。領民には被害は出さないよ」
「それは、殺しを認めろということかな?」
「死者は出るだろうな、組織同士の抗争だ」
「認めるなどと言うと思ったかい? まぁ、領民からの通報が無ければ、私達が動くことはないがね」
「奴らのアジトは元々は牧場の跡地だ。街の外れでやたらと庭が広い。何をしても領民に被害が出ることはないよ」
 
「……ならば私達の耳に入ることは無いだろうね」
「お前は話が分かる奴で助かるよ、オリバー」
「よしてくれ、私達はあくまでも領民の味方だよ」
 
 話はついた様だ。
 トリプレットとの本格的な抗争が始まる。
 
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