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第三章 新魔王誕生編
小鬼族の鬼国攻め
しおりを挟む山脈は雪で白い。けど、大陸の陸地に雪は滅多に積もらない。皆寒い中駆け回っている。
ワタシ達もシュエンの指導で刀を振る毎日を過ごした。
そして冬が過ぎ、春が来た。
村の人口はおよそ二千人、その内のおよそ百人の鬼族が練気で空を駆けた。この村で生まれ育った大鬼族が一定数いるが、彼らには厳しいようだ。闘気の精度が上がったためにパワーが凄まじく上がったが、スピードは小鬼族には敵わない。
皆かなり戦力がアップしたが、特に著しく成長を遂げたのはテンだ。
術の成長だけじゃない、封印されていた500年を取り戻すかの様に身体が成長している。シュエンよりも大きくなり、ワタシやアレクサンドと変わらなくなって、声も低くなった。
身体が大きく成長したため、魔力量は更に増え、薙刀の扱いにも余裕が見られる。練気を使った移動はテンにハマったらしく、とんでもないスピードで移動する。その速度から繰り出される薙刀術は以前の比では無い。
ワタシ達はシュエンの指導で刀を学んだ。
基本としているのは仙神剣術だが、刀を振り続けメインの武器と遜色なく扱えるようになっている。
ベンケイの屋敷。
ワタシ達四人と村の代表達が集まっている。
ベンケイとその弟子たち、サンキチと元山賊達、それにテン。
「ここにいる者だけでもかなり戦闘能力が上がったわね」
「うむ、ここにいない者もかなりの成長を遂げている。皆が本気で暴れたらどうなるか恐ろしいのぉ」
「そろそろ鬼国を落とそうか」
「いよいよか、イバラキはオラに殺らせてくれよ」
「今のテンなら問題無いでしょ」
ベンケイがすくっと立ち上がった。
「少し待っておれ」
そう言って、屋敷の奥の鍛冶場に入り一本の薙刀を持ってきた。
「こいつはワシが生涯で打った薙刀の中でも最高傑作じゃ。鬼国に復讐する事があれば、一番の戦士に託そうと思うておった。テン、お前は間違いなくこの村一番の戦士じゃ。こいつでイバラキをぶった斬ってこい」
室内でも鋭く光っている。
間違いなく特級品だ。
「こんな良い薙刀……いいのか?」
「当然じゃ、お前はそれを扱うに相応しいと思うから託す。あと、サンキチ達も後で鍛冶場の好きな物を取ってこい。奥の鍵付きの倉庫内は全て一級品じゃ」
「いいのか!?」
「あぁ、戦力が上がるに越したことはない。皆でスズカとオーステンの弔い合戦じゃ!」
『オォ――ッ!』
「ワタシ達の武具の整備もお願い出来るかしら?」
「うむ、預かろう」
「じゃあ、新しい武器に慣れる事も必要でしょ。決戦は十日後でどうかしら」
皆静かに頷いた。
「鬼国の親や友人はいいのか?」
「オラァ達は親にすら差別されてきた。勝手に逃げるか死ぬだけだろ。友人なんてここにいる奴らだけだ」
「そう。じゃあ、十日後にここに集まりましょ」
◆◆◆
更に鍛錬を積む者、新しい武器を試す者、決戦に備えて休む者。それぞれの時を過ごし、十日が経った。
ベンケイの屋敷の前に、二千人の村人が武装して並んでいる。
「ここにいる皆は、大鬼族達に煮え湯を飲まされてきた者達じゃ。身体が小さいと言うだけで、親兄弟や友人達からも差別を受けてきた者達じゃ。それも今日で終わりじゃ! あの愚王とその側近共を叩っ斬る! それでも我らを差別するような奴らは皆殺しにしてしまえ!」
『オォ――ッ!!!』
ベンケイ爺さんの演説で士気は最高潮だ。
「ワシらには他種族の仲間がおる。皆で魔力を抑えて鬼国に近づき、彼らがまずイバラキの居城に攻撃を仕掛ける。それを開戦の合図に皆で攻める!」
「派手な花火を上げるわよ! 皆、ついてらっしゃい!」
皆が練気を使った浮遊術を扱う。今は早朝、各自昼食用の軽食を用意し、夕方の到着を目指す。
夕食時を狙って襲撃だ、酒に酔っている所を叩く。
予定通り日が沈むまでには鬼国付近に到着した。皆が魔力を完全に抑えて待機している。
日が沈み夕飯時、炊煙を見届ける。酒を嗜んでいる時間だろう。
「ベンケイ爺さんの集落を見ても思ったが、鬼族の文化は龍族と似ているな」
「そうだね、仙族と魔族も少し似ている。パラメオント山脈で隔てられているからだろうか?」
「さて、そろそろ行こうかしら? 準備はいい?」
暴れたくて仕方ないワタシ達四人が、鬼王の居城に奇襲する算段だ。
「相手は数万の鬼族よ、とうとうあの自然エネルギーを使う時が来たかしら」
「あぁ、そうだな。キミが使うならボクはまだ温存しておこう」
頭上に練気のボールを多数作り、ノースラインの火山を噴火させた時に得たマグマの自然エネルギーと、火属性の魔力を一気に圧縮する。
「ボク達は風属性で更に燃え上がらせるとするか」
頭上の無数のボールはパンパンだ。
『火魔法 溶岩流』
マグマの自然エネルギーを詰め込んだ全ての圧縮魔法を、鬼王の居城に投げつけた。
火山の噴火に似た大爆発の後、溶岩の様に火が地を這う。鬼族に魔法は効かないが、ワタシの魔法は仙術を取り入れている。
「凄い威力ですわね……」
「もっとマグマが地を這うかと思ったけど、まぁ合格点ね」
『火遁 豪炎龍』
『仙術 熱嵐』
シュエンが更に龍の様に地を這う火術を放ち、アレクサンドとサランの風属性の仙術で更に燃え上がる。かなりの鬼族が燃え尽くされただろう。
鬼国は大惨事だ。
城下の者は国外に逃げていく。
燃えて崩れ落ちた居城からバタバタと大鬼族達が出てきた。その中に鬼王も居るだろう。ワタシの魔法を開戦の花火として、伏せていた小鬼族達が一気に攻め入る。
その内の百人の精鋭がその一団を取り囲んだ。
「ワタシ達も合流しましょ」
火の手が届かない開けた場所。
ベンケイとテン、サンキチ達が鬼王イバラキとその側近達と対峙している。
「イバラキよ、まさかワシらが攻めてこようとは夢にも思わなんだようじゃな」
「ベンケイ……おめぇらよくもオラの国を……夜襲とはなぁ、卑怯者ぉ」
「小さな集落を軍で攻めてくるのは卑怯では無いのか? お前が傾けた国じゃ、責任を取ってここで果てるがよい。お前の相手はこの男じゃ、見覚えがあろう」
薙刀を肩に乗せたテンが前に出る。
「おっ……おめぇは……あの時の鬼人かぁ!?」
「あぁ、500年も眠ってたんだ。あんたらに両親を殺された恨みは、オラにとっちゃこないだの事だ」
「誰が封印解きやがったぁ……おめぇらぁ! オラを守れぇ!」
「テン、周りのヤツらはワタシ達に任せて!」
「あの愚王に援軍など来ん。テン、イバラキ一人になるまで後ろで休んでおれ」
「あぁ、分かった」
一人一人がかなり大きい。
ベンケイ達より頭二つ分近く大きい。ただ、それだけだけど。
「さて、この刀の試し斬りには贅沢な相手ね」
「あぁ、そうだな。鬼族はかなり硬いと聞いたよ」
ワタシ達は今日、刀を腰に差している。
修練の成果を大鬼族にぶつけよう。
イバラキを護り、取り囲む者は50人程。相手は守りに徹している。精神的にも攻めるにはかなり容易な状況だ。
「さぁて皆、周りを切り刻んで鬼王を一人にしてやりましょ!」
刀を正眼に構える。
『剣技 剣光の舞』
多人数には連続技だ。
舞うように刀を振り回す。デュランダルよりリーチが長い、多人数戦には刀が良さそうだ。
アレクサンドもサランもいい顔で刀を振っている。いい玩具を手に入れた子供の様に。人の事は言えないけど。
「良く斬れるわね! 取り巻きなんて相手にならないわ!」
「練気術が無いと斬れなかったかもね、やはり硬いよ鬼族は」
闘気を纏った鬼族は確かに硬い。しかも大きい分、仕損じる事も多い。
周りからジワジワと鬼族を仕留めていく。
ベンケイの実戦を初めて見たけど、さすがは薙刀術の創始者、今までの鬱憤をぶつけるかの様に凄まじい勢いで斬り進んでいる。
「ハーッハッ! 木偶の坊達は斬り甲斐があるなぁ! 生き返った柳一文字が喜んでるぞ!」
シュエンが一番いい顔で斬り進んでいる。
魔力障害者には最高の舞台だろう。
大鬼族達の断末魔が辺りにこだまし続けている。皆の勢いは止まらない、一心不乱に武器を振り続けている。
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