ばかやろう 〜たった1つの愛〜

ネギモバ

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トンズラ

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「コウスケ先輩、この貯金箱いくらぐらい貯まりましたかね?」


仕込みのとき、青ちゃんが店の招き猫の形をした大きな貯金箱をカラカラと振りながら訊いてきた。


「さあ? 100万円くらい入ってるといいな」


この貯金箱は、毎年恒例のチェーン店の慰安旅行での我が本店専用として1年間貯金しているものだ。


旅費とは別の慰安旅行で店単位での宴会などの自由に使える金。


主にお客さんが御好意で入れてくれる。


酒を飲んで気が大きくなった勢いで五千円札や一万円札を入れてくれるのを何度か目にした。


店の女の子も男性従業員も、もちろん俺も入れた。500円だけどね。


ーー。


俺が仕込みで1本千円で飛ぶように売れるミネラルウォーターの空ビンに指示による水道水を入れていると、店長と波多野先輩が出勤して来た。


3時だ。3時に男性従業員は全員揃う。


ただ、店長の教育の一環として、波多野先輩はカウンターで小学一年生の勉強をやらされていた。


波多野先輩22歳。


22歳といえば大卒の年齢だが学力が小1なんだ。


店長いわく、本来ならチーフである波多野先輩は店の会計も出来ないといけないが、足し算引き算もままならず、小1で習う漢字も書けない。


会員制の店だから、お客様の名前を覚えるのは必須で、お客様がお席に通されたら最速で名前の書いてあるボトルを用意しなくちゃいけない。


料理の腕前と経験年数だけで店のナンバー2になった波多野だが、優しい店長は、これからの波多野の人生の為にも最低限生きて行ける様に国語と算数を教えていた。


だが波多野にとって、7歳も年下かつ後輩の俺が目の前に居る状態で自分の名前を平仮名で『はたの』と練習している状態が屈辱(くつじょく)でたまらないんだ。


後輩にとって先輩は絶対的存在なのに。


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