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トンズラ
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しおりを挟む翌日の月曜日昼過ぎ。
俺は1人で店の仕込みに来ていた。
昨日は会長が若気の至りと、今回だけ『責任の所在は本店の店長に委ねる』とした。だが喫茶店の店長は会長の見えない所に俺を引きずり込んで半殺しにされた。
帰った寮では青ちゃんも冷たい態度。
青ちゃん本人としては善行を貫き通し、軽率に暴力団の若い衆を動かした責任が自分に降りかかるのを避けたいのだろう。交代で12時出勤する順番も今日が俺の当番。
俺は唯一の後輩すら味方ではなくなった。
波多野もホテトル(現在のデリヘル)嬢と一体どんなプレイをしたのか、部屋のザーメン(精子)臭いティッシュ等を俺のみに片付けさせ、半殺し後の体に更なる制裁を受ける。
昨夜は受けた暴力の痛みでほとんど寝付けず、やっと眠れた1時間ほどの睡眠から目覚めたら、右肩を脱臼していた。
波多野からの無慈悲な懲罰で脱臼し、病院に行こうにも水商売で働く俺には保険証も無い。
金も無いから自力でなんとか骨をはめた。
ボロ雑巾のような体。だが自然治癒に身をまかせるほかない。
俺の失態もチェーン店全体の噂になっているはず。体裁(ていさい)は最悪。
ああ……金も無い。
……金か。ウイスキーの並ぶ棚にこの1年間貯めた客からの慰安旅行向け貯金箱が目に入る。明日の盆休みからうちのチェーン店は慰安旅行だ。
高さ40㎝の招き猫型をした貯金箱を持ち上げ振ってみた。
カサカサーーカラカラ
振った感覚から、千円札も含めると数百枚の札が擦れるカサカサという音と、小銭が1枚だけ入っていると分かる。なにしろ、その小銭は俺が入れた500円玉だ。俺が入れたのが最低額で、みんな札を入れてくれる。
毎日見ている貯金箱はもう100万円くらいは入っていそう。
そう考えていたら、店の入り口から人が入って来た。
「お~い、大丈夫?」
ユリコだ。
コイツだけが俺の味方だ。
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