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トンズラ
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しおりを挟む貯金箱をウイスキーの棚に戻す。
「おう、昼に来るなんて珍しいな」
「死んでないわね、良かった」
俺を心配して来たユリコいわく、失態は全従業員に轟いていた。ユリコ自身も暴力団なんて映画の世界の出来事で、まさか自分の店にケツ持ち(用心棒)が居るなんて初耳だと言う。
「大丈夫、体はな。ただこれから先、このチェーン店でやっていく自信がない……かも」
「実はアタシもお金で悩んで……」
そうユリコが口ずさんだ時、「ちわー! 毎度!」と氷屋の奥さんが元気よく入って来た。
マズイかも。
氷屋は我がチェーン全店に良質な氷を卸している。
特にこの奥さんは『歩く放送局』と揶揄(やゆ)され、何でも直ぐに言いふらすキャラだ。
店の女の子と付き合ったら罰金100万円かクビの2択しかないため、この宣伝カーにバレたら厄介だがもう遅い。
「あんたら 付き合ってんの?」
直球ドストライクをババアのカンのみで言いやがった。
「はい アタシのダーリンよ」
「おい! ……氷屋さん、冗談ですよ~ハハハ」
ユリコも氷屋も何なんだ。これ以上俺にストレスをくれるな!
正解を冗談と誤魔化せているのか分からないが、氷屋は「お盆前だというのに、もう松茸の季節かい?」と言い、ホワイトボードに書いてある今月のお勧めを見ている。
あ……松茸の在庫が無い!
しまった、店に来る前に松茸を仕入れるの忘れた!
色々あり過ぎて心にゆとりが無い。
「松茸を仕入れるの忘れた」
「アタシが買ってこようか?」
ユリコはこの偶然の即戦力に感謝しなさいと胸を張る。
「毎度どうもね~」と言い放送局は消えた。
「いや、うちは安い中国産の松茸を、如何にして高級な国産松茸として売るかがポイントなんだ。うちで売る中国産は松茸エッセンスを振りかけて誤魔化してるんだ。それに八百屋3件を値引き合戦にさせて更に値切りもするし、その3件の地図を書いてる時間が勿体無いし目利きも出来ないユリコじゃ無理だ」
「わかった わかった、じゃあ留守番するわ」
「うん、それは助かる。もう俺には失敗は許されねェ」
急いで松茸を買いに向かった。
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