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涙は貧乏に勝る

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なんとか説明したい。


それも都合のいい説明を……。


「て、テレビっていうのはだなぁ、創造力を奪うんだぞ」


「そうぞうりょく?」


「創造力っていうのはだなぁ、ほ、ほら、ユリアの好きなクマちゃんだ。このぬいぐるみは、お父ちゃんの創造力があったから創れたんだぞ!」


「ユリア、クマちゃん大好き~」


「だろ! だからテレビなんかいらないよ」


「ユリア テレビいらな~い」


「ハハハ、いい子だなぁ」


だがこんないい訳が通用しなくなるのは時間の問題。


かつて『なんでママがいないの?』と聞かれた時は、いずれ来る問いだと予め予想出来たから、こう言った。


『ママは交通事故で死んじゃった』


本当は蒸発したんだけど、ユリアが捨てられたなんて言えないし、下手に『ママは海外で仕事してるから』なんてウソ言ったら成長する度に同じ質問を繰り返す。


酷とは思うが、物心がつく前に居ないもんは居ないと言った。ハッキリさせた。


テレビは金があれば買えるが、母親は金では買えない。





それからユリアが小学2年生になった夏の夕暮れ時、近所の公園に面倒をみてくれている隣の奥さんがユリアと相棒のクマちゃんを持って遊びに行った。


公園ではすでに同じ小学2年生のクラスメイトの男子とその兄の中学生が花火をしていたと隣の奥さんから聞いた。


俺はいつも仕事で、まさに貧乏暇なし。花火なんかユリアにやらせたことがない。


ユリアは花火を見て、その男子にこう言った。


「わぁ~きれい 見てていい?」


「ダメ」


「……なんで?」


「花火を見たかったら買えばいい」


「見るだけだよ~」


「お前んち、貧乏だから花火も買えないのか?」


「お父ちゃんはね~ 若いころに苦労をしておくと 大きくなったら やさしくなれるって言ってたよ~ ユリア びんぼうでも いい!」


「じゃあ、お前のぬいぐるみを打ち上げ花火の的(まと)にさせてくれたら花火やらせてやるよ。狙い撃ちだ!」


「だめ!」


隣の奥さんは このやり取りを見ておれず、その場からユリアを連れて花火を買いに行き、別の公園で一緒に線香花火をやったという。


ユリアはその男子とのやり取りは俺に言わなかった。


ただ一つ、線香花火がキレイだったことだけを俺に笑顔で報告した。


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