上 下
150 / 150
【最終章】背中とお腹

150ページ

しおりを挟む


「元美容師さんのお婆さんの前にアタシの髪を切ってくれていたのは、ガサツだけど一生懸命なお父ちゃん。

不器用な仕上がりのオカッパ頭でも、アタシだけに注がれた愛情は、今でも心の中でニッコリ笑顔です。

貧しかったけど揺るぎない。お父ちゃんにもらった愛には一切ブレがない一本道。

どんなに立派な肩書きやお金を持っていても、芯のブレている人には魅力は感じません。

あなたの教えから学んだ物作り、人の為へ紡ぐ夢を叶えるタケシの魅力を獲得し、

世の中全ての人が求む限りなき夢を、心ある繋がりを、永続させる会社が出来ました。

赤ちゃんの頃からずーっと一緒のクマちゃん。

一心同体のクマちゃん。

寒さで眠れぬ夜も、涙で濡れた枕も一緒。

ずーっとアタシのお守りクマちゃん。

お父ちゃんが仕事で居ないから寂しかった、貧しかった夜にクマちゃんが励ましてくれるの。

『お父ちゃんはね、ユリアの為に一生懸命なんだよ』ってね。

だからどんなに辛い時も前を向いて生きられました。

お父ちゃんは言ってましたね。

『勇気ある者は、たとえ全財産を失っても、勇気そのものは決して失わない』

貧しさの不幸から好転させる秘訣を、人を愛する事で体現するお父ちゃんの背中。

その背中から見返りを求めない本物の愛を学びました。

武骨に見えて、唯一無二の愛を現すお父ちゃんの背中。

背中です。

アタシはあなたの背中を観て育ち、今、幸せです。

心の底から来るこの想い、伝えさせて。

アタシは!

お父ちゃんの子で!

本当に本当!! 良かった!!」





手紙を読み終えたユリアは涙を流し、こちらに寄る。


ああ、涙が……たまんねェ。


ユリアはくしゃくしゃの泣きっ面をして俺に言う。


「お父ちゃん、恩返しがあるの。アタシのお腹を触ってみて」


「え?……ま、まさか!?」


「あなたの背中を観て育ったアタシ、その愛を全て注いでくれたこの体、お腹に、新しい命が宿りました」


背中とお腹。


俺はひざまづき、ユリアのお腹に耳をあてた。


「おお……俺の孫!」


「最後に、1つだけお願いがあるの」


「……何だ?」


「アタシの一生の宝物、クマちゃんを、この子にあげてもいい?」


感動で涙が止まらない。


「ーー当たり前だ! ばかやろう!」





【ばかやろう ~たった一つの愛~】


【完結】


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...