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2.過ぎ去った夢

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泣き明かしたその夜、夢の中で美久に逢った。
彼女は、笑っていた。
とびきりの笑顔で。
夢を見ているという認識を持てていなかったバカ同然の俺は、「美久!」とおもわず叫んだ。

〈1883日前〉
その叫びと同時に夢は終わりを告げ、孤独になった現実せかいへと引き戻され、逃れようの無い事実に打ちのめされる。

……ダン! …ダン!

 気持ちのやりようが分からなく、物にあたるように、自身の拳をベッドに叩きつける。
痛みが拳に伝わり、打ちつけた箇所は真赤に染め上がった。
 なぜ、彼女の変化に気づいてあげることが出来なかったのか…!
悔やんでも悔やみきれない。
ベッドから起き出て、部屋の中を自責の念に囚われながら、グルグルと若干早足で荒い息を立てながら俺は練り歩いた。
 罰を与えたい気分だ。自身にも、
……………………………奴らにも。
部屋の壁に向かって立ち、脳裏に焼きついている奴らの貌を思い浮かべ、ベッドでやったのと同様に拳を作って殴る。
…殺意を込めて。
「くそ…、くそ…、絶対…殺す……」
 数回、殴りつけるとベッドに叩きつけた時とは異なる痛みが奔った。
…壁も、…拳も血だらけになっていた。

………人間の体って、弱いのな…。ほら、こんな簡単に傷付く

 穴が開くわけでもなく、血が付いただけの壁を睨んで、力の無さを思い知った。
そりゃ、当然だ。
子供の頃から、俺は『弱虫』の部類ジャンルだった。徹底して『争い事』が嫌いだった。その上、
美久のほうが、断然強かった。かわいい系統のはずなのに、がき大将みたいな奴だった。
彼女がよく言っていたのは、「男は強くならないと大事な人を守れないぞ」ということだった。親からの受け売りなのか、テレビの影響なのか、それが口癖だった。
彼女がそういった目に遭い、命を絶たなくてはいけない状況にまで追い詰められていたのは、彼氏である俺のせいでもあった。
タラレバを話したところでどうしようもないが、仮にあの場で俺が何かしらの武術に長けていたら己を犠牲にしても助けるコトは出来ただろう。
だから、こうなった以上、俺に出来る事は彼女を陥れた奴らへの『復讐』。
それだけだ。
「待ってろ…、仇、必ずとってやるからな……」
その目に奴らへの復讐の炎をたぎらせ、俺は制裁することを誓った。

===================

 彼女の夢は、『歌手として芸能界に出て、自分の歌で世間を元気にすること』だった。
 オーディションを何回も受けて、やっと合格した芸能プロダクション。
 そこは多数のアーティストも輩出していて、彼女は「これでやっとデビュー出来る!」と喜んでいた。
 そこからだ。やれ整形だの、枕だのしないと楽曲の提供はしないと言われていたのは。
 昔からどこか弱い面を出さなかった彼女。苦汁を飲み干す覚悟をして了承したのだろう。

 どんどん、変わっていった。

 色っぽくもなっていった。
それから、仕事が忙しい為か彼女とはややしばらく連絡が取れなくなった。
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