転生した月の乙女はBADエンドを回避したい

瑞月

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4.入学式 2

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 慌てて講堂に入ると、もう入学式が始まるところだった。

(本当、私何やってるんだろう……)

 はやる息を抑えて、案内された所定の場所へ並ぶ。
 静かな講堂に、式を始めるベルが鳴り響く。

 今年のこの王立魔法学園への入学生は100名ほど。
 領土の広さ、この学園の大きさを考えると、今年はとても少ないのだと思う。
 建国以来その力で国土を満たし、潤してきた月の女神の魔力が薄まっているのだ……と街で漏れ聞いたことがある。昨今この国では魔力を持つ者が産まれなくなってきた、それこそが証左だと。
 茶色の土の魔力の色を蔑んでおきながら、昨今は同じ茶色でも魔力も持たない者が生まれることが珍しくない。

 この国アルストロメリアは大陸の南西の端に位置する。周囲を大国に囲まれた決して大きな国ではない。
 だが、領土の気候は穏やかで、年中通じて果物や農作物がとれ、花々が咲き乱れる。そして、他国と接する北の国境部分には大きな山脈、西側は荒れて航海することは叶わない内海がある。
 建国時の神話では、月の女神の力によって、この国を守るように七晩にて山脈がたち、海が渦を巻き始めたという言い伝えがある。
 その自然の要塞がある為、他国とは外海を通ってのルートでの限られた交易の方法しかなく、閉鎖的な王家が権力を握っていることもあり、ほぼ鎖国状態だ。

  (でもなぁ~……、魔力のない者でも使える魔導具の発展は目覚ましいらしいし、BADエンドがあるくらいなんだから、月の魔力ってそんなに重要なのかなぁ……?)

「これからも我が国の発展に尽力し、益々の成長とー……」

 今は壇上で、王太子であり学生代表であるアルレーヌが式辞を述べている。
 周りの生徒は男女変わりなく見惚れて、ぼーっとアルレーヌを見つめている。

 壇上で堂々と式辞を述べるアルレーヌは、豊かな金髪を結ばぬまま、肩程に垂らしている。
 透き通る白い肌、整った鼻梁、美しい蒼の瞳。体型はすらりと繊細な体躯だ。
 王族の正装は白地に金の刺繍で百合と月の文様を施した、一目で上質だとわかる美しいもの。アルレーヌは、これぞ乙女ゲームのメイン攻略対象!といった風情の、女神の如く美しい。

(うぅぅ、最初っから会っちゃうなんて……。せめてこれ以上イベントは進展しませんように……)

 私は、そのキラキラとした王子の顔をできるだけ見ないように、目線を下げた。

「セレーネさん、大丈夫?気分が悪い?」

 そっと肩口から声を掛けられて視線をあげた。そこには今日知り合ったキャロラインの顔があった。
 キャロラインは優しい緑色の髪をしている女の子だ。その髪をふんわりと片側に三つ編みにしている。はにかんだ顔がとってもかわいい。
 緑の髪は風の属性。割と濃い色をしているから魔力量も多いんだろうなぁ。
 ゲームのことを考えるあまり、知らずにきつく結んでいた唇をといて、微笑みをかえした。

「ありがとう、大丈夫。 ちょっと立ちくらみがしていただけだから」
「辛いようなら先生を呼ぶから言ってね? あ……、ちょうどアルレーヌ殿下の式辞が終わったわね。 殿下も素敵だけど、近衛でついてらっしゃるキース様も素敵ね……!」

 キース……!

 私は改めて壇上を見上げた。
 王子のアルレーヌが壇上から降りる際に、すっとその後ろに従った、その人。
 先ほど会ってしまった近衛のキース・アナトリア。王子の身を守るために、この学園に一緒に入学することになった人物で二人目の攻略対象だ。
 本当に限られた者にしかなることが出来ない近衛騎士。そのなかでもその力が認められて、学園でアルレーヌの傍に仕えるために抜擢されたので、周りよりも年上で、年齢は20歳。

 今日は式典なので、近衛だけに許された紺色に金の縁取りが入った軍装に身を包み、水の属性のなかでも上位に位置する氷の属性をもつ青の髪を揺らしながら優雅に微笑んで、学生の列に一礼をする。
 その髪は後ろに一つに結ばれていて、その清廉さが、透き通った水色の瞳も相まって氷の騎士様そのものだ。

(あぁ、確かに素敵……。二人並んでいると、本当に絵になる、眼福ぅ……神様有難う……!)

 好きだったゲームのキャラを生で見ることが出来るのは、素直に嬉しい。でも、キースもヤンデレなのよぉお!
 
 GOODエンドでは、でろでろ甘やかしで、その愛の深さ故、外出も許してもらえない。即ちほぼ軟禁。
 BADエンドでは、愛憎の果てにどこにも逃げられないように足の腱を切られる。そして監禁。
 
 いやいやいや、愛の深さとか何とか言っちゃっても、どっちにしろ監禁じゃんね!?
 王子と共に、主従そろってどうしようもない性癖だな!

 エンディングはどちらも、見る人によっては究極の愛の形と言われる美しいスチル。
 そのエンドに至るストーリーもあまりの切なさに涙なしでは語れなくて、歴史に残るヤンデレBADエンドなんてレビューを見たこともあるほど。
    でも現実に自分がされるかもしれないとなると、本当お近づきになりたくない……。
 眺めているだけで十分です、はい。この距離感でお願いします。

「次は先生である魔道士様の紹介があるのね。 セレーネさんは土属性でしょ? 学園で魔力がもっと開化するといいわね!」
「そうだね……、でも私は魔法はそこそこでも……何とかいい仕事に就けるといいかなぁ……」

 そうして、壇上にあがる数名の魔道士を見上げる。(あぁ、やっぱりいるよね……)そこには3人目の攻略対象である闇の魔道士オーランドがいた。
 
 オーランドは黒い髪に黒の瞳。
 黒い魔道士のローブから僅かに覗く顔。
 ローブを羽織っていてもわかる線の細い体型、大きな瞳。
 見た目は14,15歳ほどの、少年といってもいいような風貌をしている。
 でも希少な闇の魔力もちで、すーーっごく強い。
 この乙女ゲームは戦闘シーンも多いんだけど、オーランドはその中でも1,2を争うくらい強い。
 実は他国からの間諜で、その任務の一環でこの学園の魔道士をしているんだけど、GOODエンドでは、この国の刺客に追われながら私と二人仲良く亡命。
 BADエンドではその刺客に襲われて、私が瀕死になって、闇の魔力を暴走させこの国を闇に染めるんだっけか……。
 多分BADエンド、あの傷じゃあ私生きてないよな……。

 このゲームそれでなくとも分岐わかりづらいんだし、最後の最後までGOODかBADかわからない。そんな危ない橋渡って死にたくない。
 そして少年のような見た目って……。可愛いとは思うけど、今の私の中身はアラサ―だから罪悪感半端ないし、そもそもショタ属性ないんだよなー私。

 ふぅっとため息をこぼし、私はまた視線を下げた。
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