転生した月の乙女はBADエンドを回避したい

瑞月

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5.属性判定

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 入学式が終わると、次は魔道具を使って、その魔力の属性の判定を行うことになった。そこで向かったのは、魔法の実験やらなんやらを行うという、研究棟。
 そこの定められた個室に一人ずつ向かい、そこで改めて魔道士に判定を行ってもらう。髪色だけでは分からない、隠れた素養があるかもしれないから、入学時に念のためもう一度行う。

 もう一度というのは、以前に魔力の属性判定に行ったことがあるからだ。
 この国では産まれて出生の届が出されると、すぐに王立の聖教会で魔力の測定をしなければならない決まりがある。そこで魔力を持つ者が、成人後に学園の入学を許可されるのだ。私も教会に引き取られてすぐ判定を受けた。そこで微量ながら土の魔力が認められて、入学することができた。

 私の月の魔力は聖属性に属するもので、恐らく今の世界では私しかいない。
 前世の知識が甦ったあの日、私は初めて月の光の下で魔力を顕現し、自分がこのゲームの世界でのヒロインであると確信した。
 実はあの後も何度か月の魔力を試してみたけれど、あまり長い時間は月の魔力を使えなかった。
 数十分経つと、吸い込まれるような感覚がして、姿が元に戻ってしまう。そして、月の魔力は文字通り、夜しか使えなかった。

 月の魔力は癒しの力。そして、愛する者に多大な魔力を授ける力がある。
 月の女神を崇拝している聖教会の旗頭である王家なんて、国威の為に、魔力の強い子孫の繁栄のために是が非でも欲しい力だろう。他国にくれてやるなんて持っての他のはずだ。
 ……まぁ、とりあえずまずはひたすら隠す! 一択です!!

 この属性判定はオーランドのイベントが発生する。属性判定を行うのは教師である、オーランドだ。
 このイベントは強制なので、おとなしく定められた部屋に向かう。研究棟は様々な建物の中でも、装飾が控えめで、廊下はまるで前世でいう病院のように簡素だ。廊下に数脚の椅子が並べられて、そこで順番を待つ。

(今は昼で髪色も変化してないし、土の魔力しか出ないはず……)

 なんにせよ、攻略対象に近づくのは緊張するよう。

「……次、セレーネ・アイルス嬢、どうぞ……」

 入り口に立つローブを目深に被った職員に促されて、椅子を立った。その容貌はまるで秘密結社の一員のようだ。さっき遠めに見たオーランドといい、なんだか怖い……。

「失礼します……」

 扉を開けると、廊下とは違うむわっとした香の香りと、生温い空気に包まれる。
 思ったよりも狭い室内には窓もなく、ほの暗い照明だけが灯っている。
 床には掘り出したままの大きな魔石の原石や、何に使うのか分からない魔道具が置かれている。吹き抜けになっているのか、どこまで上が広がっているのか分からない高い天井からは、水晶や鉱石や魔石が細かい装飾となって、すだれのように垂れ下がり、照明に反射してチラチラと妖しく輝いていた。

 奥に小さな机と、向かい合わせに椅子がある。奥に座るのは黒いローブから微かに顔が覗く人物、……オーランドだ。

「セレーネ・アイルスです……、よろしくお願いします」

 おずおずと椅子に座り、オーランドの表情を窺ってみたが、俯きローブを被るオーランドの表情はわからなかった。
 机の上には厳めしい装飾を施した魔道具がある。立派な台座の水晶玉のようなものだ。
 オーランドはそれに手をかざして、もう片方の手で私の手を握る。

 そして、その時初めてローブの下からのぞいたオーランドの大きな瞳が、私を見つめてきた。

(うわぁ……、吸い込まれそうな黒の瞳……!)

 真っ黒なまつ毛に縁どられたその瞳はより瞳の印象を濃く、鮮烈にしている。今はかっこいいっていうより、可愛い、黒い大きな瞳の小動物みたい。攻略対象にあった緊張からなのか、その瞳の力にか、私の鼓動はドキドキと高鳴った。
 どれくらいそうしていたかわからない。たっぷり数十秒はそうやって見つめあう。

 そうしていると、ふんわりと甘い香りが漂った。

(香の香り……? どこかで嗅いだことがあるような……?)

 その時、ぽぅ……っと目の前が明るくなった。
 先ほどまで透明だった水晶玉の中が、渦を巻くように茶色の光と微かに白の粒が灯っている。

「うん……。君の、力は土、だね……。でもなんでかな……? すごく、暖かい気がする……。何かが埋もれている。こんなの見たことが、ない。なんだろう……? ……君、すごく、いい匂いがする……ね?」

 オーランドは私の頬に鼻を寄せる。
 気が付けば、机を挟んで向き合って座っているはずなのに、いつの間にかすごく顔が近い……!

「僕は鼻がいいんだ……、魔力の匂いを、感じる。大きな魔力の残渣……、食べちゃいたいような、甘い匂い……」

 ぺろっ

「!!!! 先生!?」

 ほ、頬をなめられた-------!!??

「あ、君、ごめんね?ぼぉっとしちゃったみたい」

 ニッコリと微笑む、オーランドに、私はぱくぱくと口を開け閉めするだけで、何も言い返すことができない。

「君は、セレーネ・アイルス、ね。君の属性は土だよ。ふふふ、美味しそうな匂いの土の魔力持ちさん、覚えておくよ」

 オーランドの言葉に、数舜遅れて自分の頬に熱が走るのを感じた。なんで? なんで舐める? このイベントにそんな描写なかったよね??っていうか、いやいやいや、私のことなんて覚えないでください…!!

「あ、ありがとうございました! 失礼します!」

 私は半ば強引に握られた手を引き抜き、バタバタと逃げるようにして部屋を出た。
 このままここに居たらヤバイ。私の本能がそう告げていた。


 ――――パタン

 閉じられた扉の中、静寂が戻った室内。
 暗闇のなかに光る微かな灯りと反射する光は、まるでそこが室内ではなく、一つの宇宙のようだ。

 そこで魔道具の水晶玉には未だ先ほどの光が灯っている。
 今は先ほどの茶の色は殆ど消え、キラキラとした金粉をまぶしたような光のみが残っていた。

「ふぅん……、土の魔力を纏っているとは、面白い子が掛ったね……。さて、これから、忙しくなるねぇ……」

 そう独り語ちると、水晶玉をついっと撫で、「ふふ、楽しみだな」と言って、また微笑みを浮かべた。微かな明かりに照らされた赤い唇だけが、不吉な色に浮き上がっていた。


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