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11.ハネムーンチョコレート
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宮下くんからされた、こめかみのキスのことは、決して知られてはならない。
いや、あれは抱き寄せた時にちょっと掠めただけでキスだったかどうかも怪しいけれど、どちらにせよ抱き寄せられただけでアウトな気がする。
私はエルの返事を待たず、スワロフスキーでハートが描かれた大仰なピンク色の箱をあけ、中に入っているハート型のトリュフに手を伸ばした。
洋酒のような甘くて後に残る匂いが、鼻腔をくすぐる。
「え、リコそれ」
「え? 美味しそうだね、これ食べていいでしょ?」
「もちろんいいけど、リコそれ」
「ん~~美味しい、ガナッシュが濃厚ー」
ちょっと無茶な話題転換だったのは百も承知だが、想像よりも甘いチョコは私の舌の上でとろりと溶けて、濃い存在感を残したまま喉を伝った。
トーリアにもバレンタインてあるのかな? そういえばエルが出張に行ってる間に、バレンタインのチョコレートを渡しそびれていたっけ。
エルの更なる追求を逃れようとしたのは明白だっただけに、チョコレートを食べた私に、エルは複雑な表情を滲ませている。
「あれ……もしかして、私へのお土産じゃなかった、とか?」
エルの醸し出す雰囲気にいたたまれないものを感じて、私はそう尋ねた。
「いや、全然いいんだけど……。リコ大丈夫?」
「? なにが?」
「それ……、獣人の番の為の催淫剤、──媚薬なんだけど」
「え!?」
どくん、
声を発するのと、私の鼓動が強く打たれたのは同時だった。
みるみる全身に汗が滲み、お腹の奥が大きく鼓動する。
「……っ、える、これ……なんで……?」
「獣人の蜜月は長いから。獣人同士なら耐えられるけど、ヒトだと途中でへばっちゃうでしょう。だから、ハネムーン用に買ってきた」
「え、えぇええ~~~……」
ハネムーンって……、私は間抜けな声を発しながらその場に座り込んでしまった。
ドクン、ドクンと高鳴る鼓動が、心臓の在処を伝えてくる。
あまりに強すぎるチョコの効果に、「こ、これは合法なやつ……?」と吐息混じりにエルに問いかけていた。
だって、こんなに即効で血流良くなるとか大丈夫なの? 死ぬんでは?
エルはへたりこんだ私の背中をさすりながら、「もちろん。違法なものなんて輸入できないよ。トーリアだけでなく世界で愛用されてるよ」とかなんとか言っている。
愛用って。
私は涙を目に浮かべながら、エルの顔を見あげようとした。
これは催淫効果とかなんとか以前にヤバい気がするし、私は別にエルとの間に催淫されなくても十分すぎるほど感じてるから必要ないし。
どうにかこの効果を排出することは……、そう目で訴えるために、エルの瞳を見つめようとして──。
「うっっ」
呻き声をあげたのは、私だった。
「リコ?」
何これ何これ!?
私の頭が混乱の中に突き落とされる。だって、だって目の前のエルが……。
「え、やだ嘘…………」
「は?」
「な、なんかエルが」
「リコ、大丈夫? 水飲む?」
「…………かっこいい…………」
私が零した言葉に、エルが目を丸くする。
やだ、かっこいい。
高校時代の3年間とちょっと付き合って、再会して3ヶ月くらい経って。
旧知の仲のはずなのに。
それなのに今、目の前にいるエルの姿が、長年ファンだったアーティストにとうとう会うことができたかのように、涙が出そうなくらい、ハチャメチャにカッコよくて魅力的に見える。
エルから漂う甘い香りも、胸を掻きむしりたいくらいにクラクラする。
まつ毛にかかりそうな長い前髪、驚きに見開かれてる金色の瞳、スっと通った鼻も、薄い唇も。
へたな芸能人よりも整っていて。
感じさせる気品が、王子様みたいで。ちょっと気を抜くと、自ら抱いてって迫りそうな程だ。
こ、こんなひとに私抱かれてたって??
「え、無理」
「リコ?」
「~~~~っ、その、声で私の」
名前を呼ばないで、そう言いながら、エルの身体を遠ざけようとしたけれど、ガッチリと抱き込まれてしまった。
近すぎるエルの匂いが鼻腔いっぱいに広がり、目眩がする。
やだ、無理、その顔でその身体で私に近づかないで。
カッコよすぎて、心臓がもたない。
「どうしたの?」
「ひぅっ、み、耳元で話さないでぇ」
「敏感になってる?」
「あっ、ち、 違うの、える、エルが」
「俺が? なぁに?」
エルが私の耳元で意地悪な声で囁いた。ちゅ、と耳朶に口付けを落とされて、その刺激だけで、私の秘部がじゅんと潤ったのがわかる。
──これは、ヤバい……!
私の内心の焦りとは裏腹に、エルが触れてくるその部分が熱くて、もっともっとって求めているのも確かで。
こんな状態でセックスなんてした日には、自分が自分じゃなくなってしまう気がする。
「ふーん……、ハネムーン用だって勧められたんだけど、そういえば効能に番に出会った時の獣人の興奮を再現するって書いてあったんだよね」
「え、」
「俺がリコに出会った時に感じたこと、知りたい?」
エルのくちびるが私の首元に降りてくると、その柔らかな刺激だけで、達してしまいそうになって身体を強ばらせた。
エルの匂いが、体温が、私の身体に火をつけて、ごうごうと煽ってくる。
「いらないっ……、知らなくて、いい」
「ふふ、いいから聞いてよ。まずね、リコの方から香りがしたんだ。鼻腔よりも、もっと深い部分で感じる香りが」
「あっ……!」
エルは私を大きなクッションの上に横たえると、部屋着越しに乳首をかぷりと口に含んだ。
その刺激で、私は背中を反らせてビクビクと震えた。
まだ触れられていない部分が切なくて、脚を擦り合わせると、エルはその金色の瞳に濃い情欲の色を灯して微笑んだ。
「香りに誘われて見つめた先には、見たこともないくらい可愛い子がいて。この白い肌も、黒い髪も。薄茶の瞳も、赤い唇も、リコを構成する全てが美しくて、胸がどうしようもなくザワついて」
話を続けながらもエルの手は休まらない。
喘ぎながら見上げた、ボタンを外したエルがすごくセクシーで。
その姿を目にするだけで、私の身体の感度が益々上がっていく。
ぐっしょりと部屋着が濡れるほどに服越しに乳首を弄んだあと、私のショートパンツをショーツごと引き下ろした。
外気に触れた秘所がひやりとして、どうしようもなく濡れてるのがわかる。
「あ、ぁ、やっ」
「──美味しそうで」
「っっ!!!」
じゅぷり、とエルのものが性急に埋め込まれる。
一度もそこに触れられずにいたというのに、私のそこははしたなく涎を垂らしてそれを迎えいれた。
僅かな抵抗もなくぐぷぐぷと埋め込まれたそれが、エルの言う通り、美味しくて気持ちよくて。
一息に挿入したまま、私にキスを落として焦らしてくるエル。
自ら腰を揺らそうとするが、固く抱きしめ動きを制されて、それも叶わない。
「あっ、える、動いてぇ」
「ほぉら、ダメだよ。話の途中でしょ」
「あっあっ、えるぅ」
「このまま話を聞いて? あ、リコの今感じてることも教えてほしいな。ほら、頑張って」
上気した頬で、琥珀に揺れる潤んだ瞳をして。悪魔のように美しくエルは微笑みを浮かべた。
「リコ可愛い」「リコ大好き」
「気持ちよくて泣いちゃったの? かわいいね」「ダメだよ、自分で触ったら」
私はもう意味のある言葉を吐くこともできなくて。
ひたすらに甘ったるい声が響いているのを、どこか他人事のように聞いていた。
快感が上滑りして、どうしようもなくて。
でも感情よりも何よりも、身体の奥が熱くて渇いていて。どうにかこの渇きを鎮めてほしいのに、エルは動いてくれない。
疼いて疼いて仕方ないのに、そんな私の訴えをよそに、エルは私の脚の間に楔を埋めこんだまま、奥を擦り上げてもくれなければ、激しく揺すってもくれない。
「ひ、やあ……っ、え、えるぅ、も、そこ、やぁあ」
私がいやいやと首を横に振って訴えると、エルはもう熱く腫れてじんじんとする乳首を、ぢゅっと強く吸い付いて、カリっと歯をたててきた。
決して腰を動かしてくれないのに。
私を揺らして揺らして何もわからなくしてほしいのに。
それはせずに、乳首を苛め、花芽をぬるぬるとくすぐるだけで。
幾度となく与えられる弱くて甘い刺激に、もう何度目かもわからない快感が背筋を駆け上がっていく。
「える、あ……っ、~~~~~ッ」
浅い快感が弾けて、目の前がチカチカと白く明滅する。
気持ちいいのに、身体の奥の確かな存在感を放っているものを締め付けるだけで、奥には足りなくて。
浅くしか息を吐けないでいる私に、ようやく舐めるのを止めて、口づけを落としてきた。
「んっ、ん……、エルぅ……もう、もう動いてよぉお……!」
「は……、今日のリコってば、エッロ……」
そう熱い息を吐いたエルは、それでも一向に動こうとしてくれない。
エルの口づけをもっと強請るように首元をきつく抱きしめ、エルの熱に腰を寄せる。
もう、もっと強く奥まで入れて、揺すってほしいのに。
「なんで意地悪するのぉ」
もう私から溢れ出した蜜はお尻を濡らし、シーツを冷たくしているというのに、何故か今日のエルは頑なで。
なんで、どうして。
もう前だけでイキたくない。エルがもっと欲しい、のに。
身体の中だけで高まって燻ぶって行き場のない疼きと、困惑と混乱と。
強いお酒に酔っているような目眩のなか、気が付けば私はエルに縋り付いて涙を零していた。
熱く火照った顔の上を、冷たい涙が流れていく。
「リコ」
「もぉお……わたし、がエル、と付き合ってない、って言ったから……? エルわたしのこと嫌いになったから意地悪するのぉ?」
「……」
「だって、だってぇ……」
呂律も怪しい気がする。でも霞がかかってうまく思考を紡ぐことができない。
そんな私をエルは静かに見下ろして、言葉を発することはない。
そんな視線が責められているようで、悲しくて。
気が付けば私は子どものように、しゃくりあげて嗚咽していた。
「リコ、落ち着いて」
「ひっく……、だって、エルが、好き、だから……」
「リコ」
「好きだか、ら、終わっちゃうのが、怖いんだよぉ……」
私の言葉に、エルが息を呑んだのを感じた。
だけど、私はいよいよ涙が止めることができない。
一度出口を見つけた言葉は、私の口から流れ出して止まらなかった。
「始まったら、終わっちゃうじゃない。形にしたら、壊れるじゃない。もう……エルと離れたくない、のに」
「――――リコ、」
輪郭を持ってしまったら、ふわふわ揺れるこの想いに名前がついてしまったら、きっと壊れてしまう。
離れてしまったら、またうまくいかなかったら。
突然始まったものは、突然終わるかもしれないじゃない。
エルは私がいなくても日々を過ごせていたし、それは私も同じで。
結婚をしたからといって、不義をはたらくひとばかりの世の中で。
エルは獣人だから違うっていうけれど、私にはどういうものかよくわからない。それならいっそ形を持たないほうが、終わらないで済むって、そう思って。
熱に浮かされた私が、どれくらいそれを言葉にできていたかわからない。
気が付くと、エルは息が止まるほどにつよく、私を抱きしめていた。
「そんなこと考えてたの」
エルが悲しそうな怒りを孕んでいるような声を発した。
私は返事をすることもできず、エルの胸でしゃくりあげた。
「馬鹿だねぇ」
「ばっ、馬鹿……!?」
あれ、今いい話じゃなかったかな?
チョコで酔っぱらっている私にはわからないけれど、馬鹿とか言われること、言った?
びっくりして顔を上げた私を、エルはとってもいい笑顔で見下ろしていた。
綺麗すぎて、いっそ怖くなるくらい。
その視線の強さは、肉食獣が獲物を捕らえる時のそれに似ていて、ぞくりと寒気がはしった。
その時突然、ぐちゅり、と音を立てて蜜を湛えた私の奥に、エルの熱塊が押し当てられた。突然与えられた刺激に、待ち望んでいたはずなのに、びくりと腰が逃げを打つ。
「え、える」
「獣人が、俺が、番を手放すと思う? リコのこと鎖を付けてでも二度と離さない」
その時、限界まで引き抜いた剛直が、どろどろに蕩けた泥濘に、一息に突き立てられた。
「あ、あ……ッ!」
噛みつくというようりも食らいつくされんばかりの深い口づけと共に、激しく最奥に叩きつけられ、一瞬で意識が飛びかける。
挿れたまま長い時間動かずにいたことで、まるで私の一部のように馴染み切っていたのだ。あまりに敏感になってしまったそこは、始まった激しい抽挿に、どこまでも快感の果てが見えない。
立て続けに達して、高みから降りてくることができなくて。
気持ちが良すぎて、もしかしたらもう私のそこは溶けてなくなってしまっているのかもしれない。
無理、と声にしたつもりなのに。
それでも手加減なしに強く穿たれるその激しさに揺さぶられて、私はもう意味をなさない声をあげることしかできなかった。
溢れる嬌声はエルの中に飲み込まれ、呼吸すら飲み込まれて。
「あー……動かないの、拷問だった……すごい、いい」
「あ、あ……ッやだぁ、もう」
「リコ愛してるよ、俺も一回イク、ね」
「やあ、あ────っっ」
ひときわつよく叩きつけられて、どくどくと熱い飛沫を注がれる。でも私の身体の熱は冷める気配がない。
気持ち良すぎて怖い。でも、まだ、もっと欲しい。
「える、えるもっとぉ」
「うん、たくさんしようね。リコが俺と離れられないって、身体でわかるまで、ね」
そして硬さを失わないエルにもう一度縋り付き、私は自ら腰を揺らした。
いや、あれは抱き寄せた時にちょっと掠めただけでキスだったかどうかも怪しいけれど、どちらにせよ抱き寄せられただけでアウトな気がする。
私はエルの返事を待たず、スワロフスキーでハートが描かれた大仰なピンク色の箱をあけ、中に入っているハート型のトリュフに手を伸ばした。
洋酒のような甘くて後に残る匂いが、鼻腔をくすぐる。
「え、リコそれ」
「え? 美味しそうだね、これ食べていいでしょ?」
「もちろんいいけど、リコそれ」
「ん~~美味しい、ガナッシュが濃厚ー」
ちょっと無茶な話題転換だったのは百も承知だが、想像よりも甘いチョコは私の舌の上でとろりと溶けて、濃い存在感を残したまま喉を伝った。
トーリアにもバレンタインてあるのかな? そういえばエルが出張に行ってる間に、バレンタインのチョコレートを渡しそびれていたっけ。
エルの更なる追求を逃れようとしたのは明白だっただけに、チョコレートを食べた私に、エルは複雑な表情を滲ませている。
「あれ……もしかして、私へのお土産じゃなかった、とか?」
エルの醸し出す雰囲気にいたたまれないものを感じて、私はそう尋ねた。
「いや、全然いいんだけど……。リコ大丈夫?」
「? なにが?」
「それ……、獣人の番の為の催淫剤、──媚薬なんだけど」
「え!?」
どくん、
声を発するのと、私の鼓動が強く打たれたのは同時だった。
みるみる全身に汗が滲み、お腹の奥が大きく鼓動する。
「……っ、える、これ……なんで……?」
「獣人の蜜月は長いから。獣人同士なら耐えられるけど、ヒトだと途中でへばっちゃうでしょう。だから、ハネムーン用に買ってきた」
「え、えぇええ~~~……」
ハネムーンって……、私は間抜けな声を発しながらその場に座り込んでしまった。
ドクン、ドクンと高鳴る鼓動が、心臓の在処を伝えてくる。
あまりに強すぎるチョコの効果に、「こ、これは合法なやつ……?」と吐息混じりにエルに問いかけていた。
だって、こんなに即効で血流良くなるとか大丈夫なの? 死ぬんでは?
エルはへたりこんだ私の背中をさすりながら、「もちろん。違法なものなんて輸入できないよ。トーリアだけでなく世界で愛用されてるよ」とかなんとか言っている。
愛用って。
私は涙を目に浮かべながら、エルの顔を見あげようとした。
これは催淫効果とかなんとか以前にヤバい気がするし、私は別にエルとの間に催淫されなくても十分すぎるほど感じてるから必要ないし。
どうにかこの効果を排出することは……、そう目で訴えるために、エルの瞳を見つめようとして──。
「うっっ」
呻き声をあげたのは、私だった。
「リコ?」
何これ何これ!?
私の頭が混乱の中に突き落とされる。だって、だって目の前のエルが……。
「え、やだ嘘…………」
「は?」
「な、なんかエルが」
「リコ、大丈夫? 水飲む?」
「…………かっこいい…………」
私が零した言葉に、エルが目を丸くする。
やだ、かっこいい。
高校時代の3年間とちょっと付き合って、再会して3ヶ月くらい経って。
旧知の仲のはずなのに。
それなのに今、目の前にいるエルの姿が、長年ファンだったアーティストにとうとう会うことができたかのように、涙が出そうなくらい、ハチャメチャにカッコよくて魅力的に見える。
エルから漂う甘い香りも、胸を掻きむしりたいくらいにクラクラする。
まつ毛にかかりそうな長い前髪、驚きに見開かれてる金色の瞳、スっと通った鼻も、薄い唇も。
へたな芸能人よりも整っていて。
感じさせる気品が、王子様みたいで。ちょっと気を抜くと、自ら抱いてって迫りそうな程だ。
こ、こんなひとに私抱かれてたって??
「え、無理」
「リコ?」
「~~~~っ、その、声で私の」
名前を呼ばないで、そう言いながら、エルの身体を遠ざけようとしたけれど、ガッチリと抱き込まれてしまった。
近すぎるエルの匂いが鼻腔いっぱいに広がり、目眩がする。
やだ、無理、その顔でその身体で私に近づかないで。
カッコよすぎて、心臓がもたない。
「どうしたの?」
「ひぅっ、み、耳元で話さないでぇ」
「敏感になってる?」
「あっ、ち、 違うの、える、エルが」
「俺が? なぁに?」
エルが私の耳元で意地悪な声で囁いた。ちゅ、と耳朶に口付けを落とされて、その刺激だけで、私の秘部がじゅんと潤ったのがわかる。
──これは、ヤバい……!
私の内心の焦りとは裏腹に、エルが触れてくるその部分が熱くて、もっともっとって求めているのも確かで。
こんな状態でセックスなんてした日には、自分が自分じゃなくなってしまう気がする。
「ふーん……、ハネムーン用だって勧められたんだけど、そういえば効能に番に出会った時の獣人の興奮を再現するって書いてあったんだよね」
「え、」
「俺がリコに出会った時に感じたこと、知りたい?」
エルのくちびるが私の首元に降りてくると、その柔らかな刺激だけで、達してしまいそうになって身体を強ばらせた。
エルの匂いが、体温が、私の身体に火をつけて、ごうごうと煽ってくる。
「いらないっ……、知らなくて、いい」
「ふふ、いいから聞いてよ。まずね、リコの方から香りがしたんだ。鼻腔よりも、もっと深い部分で感じる香りが」
「あっ……!」
エルは私を大きなクッションの上に横たえると、部屋着越しに乳首をかぷりと口に含んだ。
その刺激で、私は背中を反らせてビクビクと震えた。
まだ触れられていない部分が切なくて、脚を擦り合わせると、エルはその金色の瞳に濃い情欲の色を灯して微笑んだ。
「香りに誘われて見つめた先には、見たこともないくらい可愛い子がいて。この白い肌も、黒い髪も。薄茶の瞳も、赤い唇も、リコを構成する全てが美しくて、胸がどうしようもなくザワついて」
話を続けながらもエルの手は休まらない。
喘ぎながら見上げた、ボタンを外したエルがすごくセクシーで。
その姿を目にするだけで、私の身体の感度が益々上がっていく。
ぐっしょりと部屋着が濡れるほどに服越しに乳首を弄んだあと、私のショートパンツをショーツごと引き下ろした。
外気に触れた秘所がひやりとして、どうしようもなく濡れてるのがわかる。
「あ、ぁ、やっ」
「──美味しそうで」
「っっ!!!」
じゅぷり、とエルのものが性急に埋め込まれる。
一度もそこに触れられずにいたというのに、私のそこははしたなく涎を垂らしてそれを迎えいれた。
僅かな抵抗もなくぐぷぐぷと埋め込まれたそれが、エルの言う通り、美味しくて気持ちよくて。
一息に挿入したまま、私にキスを落として焦らしてくるエル。
自ら腰を揺らそうとするが、固く抱きしめ動きを制されて、それも叶わない。
「あっ、える、動いてぇ」
「ほぉら、ダメだよ。話の途中でしょ」
「あっあっ、えるぅ」
「このまま話を聞いて? あ、リコの今感じてることも教えてほしいな。ほら、頑張って」
上気した頬で、琥珀に揺れる潤んだ瞳をして。悪魔のように美しくエルは微笑みを浮かべた。
「リコ可愛い」「リコ大好き」
「気持ちよくて泣いちゃったの? かわいいね」「ダメだよ、自分で触ったら」
私はもう意味のある言葉を吐くこともできなくて。
ひたすらに甘ったるい声が響いているのを、どこか他人事のように聞いていた。
快感が上滑りして、どうしようもなくて。
でも感情よりも何よりも、身体の奥が熱くて渇いていて。どうにかこの渇きを鎮めてほしいのに、エルは動いてくれない。
疼いて疼いて仕方ないのに、そんな私の訴えをよそに、エルは私の脚の間に楔を埋めこんだまま、奥を擦り上げてもくれなければ、激しく揺すってもくれない。
「ひ、やあ……っ、え、えるぅ、も、そこ、やぁあ」
私がいやいやと首を横に振って訴えると、エルはもう熱く腫れてじんじんとする乳首を、ぢゅっと強く吸い付いて、カリっと歯をたててきた。
決して腰を動かしてくれないのに。
私を揺らして揺らして何もわからなくしてほしいのに。
それはせずに、乳首を苛め、花芽をぬるぬるとくすぐるだけで。
幾度となく与えられる弱くて甘い刺激に、もう何度目かもわからない快感が背筋を駆け上がっていく。
「える、あ……っ、~~~~~ッ」
浅い快感が弾けて、目の前がチカチカと白く明滅する。
気持ちいいのに、身体の奥の確かな存在感を放っているものを締め付けるだけで、奥には足りなくて。
浅くしか息を吐けないでいる私に、ようやく舐めるのを止めて、口づけを落としてきた。
「んっ、ん……、エルぅ……もう、もう動いてよぉお……!」
「は……、今日のリコってば、エッロ……」
そう熱い息を吐いたエルは、それでも一向に動こうとしてくれない。
エルの口づけをもっと強請るように首元をきつく抱きしめ、エルの熱に腰を寄せる。
もう、もっと強く奥まで入れて、揺すってほしいのに。
「なんで意地悪するのぉ」
もう私から溢れ出した蜜はお尻を濡らし、シーツを冷たくしているというのに、何故か今日のエルは頑なで。
なんで、どうして。
もう前だけでイキたくない。エルがもっと欲しい、のに。
身体の中だけで高まって燻ぶって行き場のない疼きと、困惑と混乱と。
強いお酒に酔っているような目眩のなか、気が付けば私はエルに縋り付いて涙を零していた。
熱く火照った顔の上を、冷たい涙が流れていく。
「リコ」
「もぉお……わたし、がエル、と付き合ってない、って言ったから……? エルわたしのこと嫌いになったから意地悪するのぉ?」
「……」
「だって、だってぇ……」
呂律も怪しい気がする。でも霞がかかってうまく思考を紡ぐことができない。
そんな私をエルは静かに見下ろして、言葉を発することはない。
そんな視線が責められているようで、悲しくて。
気が付けば私は子どものように、しゃくりあげて嗚咽していた。
「リコ、落ち着いて」
「ひっく……、だって、エルが、好き、だから……」
「リコ」
「好きだか、ら、終わっちゃうのが、怖いんだよぉ……」
私の言葉に、エルが息を呑んだのを感じた。
だけど、私はいよいよ涙が止めることができない。
一度出口を見つけた言葉は、私の口から流れ出して止まらなかった。
「始まったら、終わっちゃうじゃない。形にしたら、壊れるじゃない。もう……エルと離れたくない、のに」
「――――リコ、」
輪郭を持ってしまったら、ふわふわ揺れるこの想いに名前がついてしまったら、きっと壊れてしまう。
離れてしまったら、またうまくいかなかったら。
突然始まったものは、突然終わるかもしれないじゃない。
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エルは獣人だから違うっていうけれど、私にはどういうものかよくわからない。それならいっそ形を持たないほうが、終わらないで済むって、そう思って。
熱に浮かされた私が、どれくらいそれを言葉にできていたかわからない。
気が付くと、エルは息が止まるほどにつよく、私を抱きしめていた。
「そんなこと考えてたの」
エルが悲しそうな怒りを孕んでいるような声を発した。
私は返事をすることもできず、エルの胸でしゃくりあげた。
「馬鹿だねぇ」
「ばっ、馬鹿……!?」
あれ、今いい話じゃなかったかな?
チョコで酔っぱらっている私にはわからないけれど、馬鹿とか言われること、言った?
びっくりして顔を上げた私を、エルはとってもいい笑顔で見下ろしていた。
綺麗すぎて、いっそ怖くなるくらい。
その視線の強さは、肉食獣が獲物を捕らえる時のそれに似ていて、ぞくりと寒気がはしった。
その時突然、ぐちゅり、と音を立てて蜜を湛えた私の奥に、エルの熱塊が押し当てられた。突然与えられた刺激に、待ち望んでいたはずなのに、びくりと腰が逃げを打つ。
「え、える」
「獣人が、俺が、番を手放すと思う? リコのこと鎖を付けてでも二度と離さない」
その時、限界まで引き抜いた剛直が、どろどろに蕩けた泥濘に、一息に突き立てられた。
「あ、あ……ッ!」
噛みつくというようりも食らいつくされんばかりの深い口づけと共に、激しく最奥に叩きつけられ、一瞬で意識が飛びかける。
挿れたまま長い時間動かずにいたことで、まるで私の一部のように馴染み切っていたのだ。あまりに敏感になってしまったそこは、始まった激しい抽挿に、どこまでも快感の果てが見えない。
立て続けに達して、高みから降りてくることができなくて。
気持ちが良すぎて、もしかしたらもう私のそこは溶けてなくなってしまっているのかもしれない。
無理、と声にしたつもりなのに。
それでも手加減なしに強く穿たれるその激しさに揺さぶられて、私はもう意味をなさない声をあげることしかできなかった。
溢れる嬌声はエルの中に飲み込まれ、呼吸すら飲み込まれて。
「あー……動かないの、拷問だった……すごい、いい」
「あ、あ……ッやだぁ、もう」
「リコ愛してるよ、俺も一回イク、ね」
「やあ、あ────っっ」
ひときわつよく叩きつけられて、どくどくと熱い飛沫を注がれる。でも私の身体の熱は冷める気配がない。
気持ち良すぎて怖い。でも、まだ、もっと欲しい。
「える、えるもっとぉ」
「うん、たくさんしようね。リコが俺と離れられないって、身体でわかるまで、ね」
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