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10.指輪の意味は
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エルが出張に行っている間、家の中は随分と寂しくなってしまった。
エルは私の家に来る度に、たくさんの食材と一緒に、色とりどりのブーケを手土産にしてくれて。
大きな花束を生けるには家にある花瓶だけじゃ足りないから、小さなグラスに入れて洗面所や、トイレにドレッサーに置いて回る。それはまるで灯火のように、家中で彩りを灯してくれる。
それが1ヶ月もいないとなると、当然全てが枯れてしまった。
色を失った一つ一つがいちいち淋しくて、ゴミ箱に入れる毎に、なんとも言えない淋しさが込み上げてくる。
今日はいよいよエルが帰ってくる日。
私は朝から、部屋の中を掃除していた。
溜め込んでいた食器を洗って、洗濯を終えたシーツを乾燥機にかけたところで、ひとつため息をついた。
次は掃除機もかけないと。
(エルに会って、なんて言おう)
家事をこなしながら、頭の中ではこればっかりを考えている。
指輪ありがとうって? 驚いたけど嬉しい、これからも一緒にいようね──そんな感じ?
それとも、私たち付き合ってもいないのに、指輪なんて貰えないよ、とか?
あの雪の日から3ヶ月。
いい大人がやる事やって、散々世話を焼いてもらっておいて、付き合ってないとか言えるわけないよな……。
人でなしすぎる。
「うーん……」
机に置いたぬいぐるみをひと撫ですると、これをくれた日の宮下くんの顔が浮かんでくる。
宮下くんには一応断ったけれど……、もっとよく考えてみてと言われてそのままだ。春から一緒に働くようになったらどうしたものだろう。
春って言っても、4月までもうあと2か月くらいしかないし。
あの調子で押されて、私は揺らがないでいられるのかな。
そうして今日何度目かもわからないため息を落としたところで、インターホンが響いた。
「あぁ、やっと顔が見れたよ、リコただいまーー」
「お、おかえり、エル。お疲れ様」
玄関ドアを開けると、入ってきた勢いのまま、ぎゅっと強く抱きしめられる。
あぁ、エルの匂いだ。
色々ひとりでうだうだと考えていたくせに、エルの匂いを感じた瞬間、涙がこぼれそうになった。
エルの匂いは甘くて、そして胸の奥の大事な部分がぎゅうっと握られるような、そんな感覚になる。
「ん、」軽く唇が触れるだけのキスが性急に深められて。
エルの舌が、私の舌をからめとり、口の中をむさぼるように嘗め回す。エルはまだ靴も脱いでないって言うのに。
すっかりと高めあった息を吐き出して顔を合わせると、前髪の奥で隈が浮かぶ目を細めた。
頬も前に会った時よりも心なしかやつれているようで。
少し悪い顔色が長旅の疲れを伝えている。
「リコに会えなくて、本当にキツかった……。たくさんお土産買ってきたからね」
「う、うん。ありがとう」
エルの匂いに、安堵と愛しさと、そして少しの罪悪感を含んだ息苦しさを感じてしまう。
もう一度ぎゅっと抱きしめられてから身体を離すと、出張にしては大きなスーツケースを持ち上げて、やっと部屋に入ってきた。
「あ、これも」そう言って手渡されたのは、芍薬とガーベラのピンク色でまとめた花束。
運ばれてきた華やかな香りに、またこの部屋の中に明かりが灯ったことを感じた。
エルに会えて嬉しい、一か月が長くて私も寂しかった。
でもここ最近考えこみすぎていて、なんとなく受け応えがぎこちなくなってしまう。
そんな私に気付いているのかいないのか、ネクタイを緩めながらエルは上機嫌だ。
開いたスーツケースから次々と、お土産を出していく。
その量は、お土産というより、何かの仕入れをしてきたっていう方がピッタリなくらい。
お土産の山に気を取られそうになるけど、気になることは早めに訊いておくに限る。
私は、おずおずと口を開いた。
「エル、あの指輪って……」
「気に入ってくれた? あれは未完なんだけど、トーリアの獣人の伝統的な贈り物なんだよね。あぁ、いいね、そのデザインやっぱりリコに似合う」
「あ、うん、すごい可愛くて気に入った……。伝統的な贈り物? っていうことはこれって」
「うん、婚約指輪だよ」
──oh、やっぱり。
ですよね、知ってました、知ってました。そうしどろもどろと取り繕う私をよそにエルはにこにことしている。
あれ? 表情や口調は機嫌よさげだけど、でもどことなく黒い気配を漂わせているような?
「そんなの、普通に渡してくれれば良かったのに」
「んー? リコに離れてる間に俺のことたくさん考えてほしくて」
「あ、あのね、エル。でも……、私たちにはまだそういうの早いんじゃないかなって」
「そう?」
「うん。あの、だって私たち付き合って……、るの? いま」
ピシリ、と空気が凍り付いた。
(!?!?)
比喩的な意味ではない。そのときエルのほうから、獣化するときに感じたような、凍り付きそうな冷たい風が吹いたのだ。
でもそれは私が驚いて瞬きを数度繰り返すと、どこともなく消えてしまった。
「あれ? いまのって? あれ?」私が困惑するのをよそに、エルは有無を言わさぬ顔で微笑んだ。
それでなくても整ったエルの顔が微笑んでいるだけなのに、なんだろう、すごく怖い。
「もちろん付き合っているよね。俺とリコがセフレになるとかあるわけないよね? なに? リコは俺たちの関係をセフレだとでも思っていたの?」
うおぉ、エルの纏っている黒い気配が増した。
だってエルも付き合おうって言わなかったじゃないと言い返しそうになったけれど飲み込んで、なんとか「そうだよね、付き合ってない訳ないよね」と返した。
だが、私の返事にエルの黒い圧力が消えることはない。
「で、でも、まだ婚約はちょーっと早くない? だってまだ一緒に暮らす目途とかついてないしさ、少なくともあと半年とか1年とか──」
「あぁ、ちょうど後から話そうと思ってたんだけど、新年度からここから通える距離に異動が決まったんだよ。それで、ちょうどいい物件見つけたんだよね。こっから一駅隣なんだけど、きっとリコも気に入ると思う」
「え、」
そしてエルは間取り図が表示されたスマホの画面を私に差し出した。
恐る恐る受け取ると、そこに映るのは2LDKの広々としたリビングに、書斎まで付いた私には不相応すぎる大きな部屋だ。え、これ家賃高すぎでは? それになんでこれお風呂の浴槽が丸くなってるの?
私の疑問に答えるように、エルが「ジャグジーのとこにしたかったんだよね。リコと一緒に広々とお風呂にはいりたいし」と付け足した。
私は「へ、へえ~~~…」と間の抜けた返事を返すことしかできない。
私のもつエルのスマホを一緒に覗き込むようにして、エルが私の肩を抱く。
あ、エルの匂い好き。
でもいまエルに密着されるのは、嫌な予感しかしない。ちょっと距離をとろうとする私を見透かしたのか更にエルは体を寄せてきた。
「ねぇリコ」
「は、……はい」
「リコは何が不安なの? 何か怖いことでもある? 俺が獣人だったのが、いや?」
「そっそんなこと」
「リコが怖いなら二度とリコの前で獣化しないって誓うよ。それでもダメ?」
「いや、大きい犬のエルは嫌いじゃないから、全然獣化はしていいんだけど……」
エルを触っているうちに、動物にも平気になるかもしれないし。
大きな犬のいる生活とか、ちょっと憧れだし。
「じゃあ何を気にしてるの? ──まさか、ほかに気になる人でもできた、とか?」
「えっ」
突然の思いもよらなかった質問に、一瞬私の脳裏に宮下くんがよぎる。
私の思考なんて覗けるはずもないのに、そんな私の表情にエルはその美しい金色の瞳をすっと細めた。
「ねぇ、リコ。帰ってきた時から気になっていたのだけど。あのぬいぐるみ、誰からもらったの?」
エルは私の耳元で甘くささやくようにそう告げる。
エルが視線を投げたのは、宮下くんからもらったフクぽんのぬいぐるみだ。
私の好きなゆるキャラ。
ドラキュラみたいな牙を持つ猫が、手に持つ苺を口の周りを真っ赤にして貪ってるポーズをとっている。
情報量が多い。フクオカ関係ないし、どこらへんでフクでぽんなのか全然わかんない。でもそんなところが可愛い。
でも、なんでエルは今フクぽんが気になったの?
「え、あれは、会社のひとからのお土産、で」
「ふうん。随分とリコのことを気に入ってるんだねぇ。食べ物じゃなく、わざわざ手元に残るぬいぐるみをお土産かぁ。それで? リコは飲み会ででも受け取ったのかな? アルコールの匂いも残っているね」
「に、匂い……、残ってる?」
あれをもらってから随分経っていますけど?
確かに焼肉屋さんだったから、煙の匂いとか残っているのかな?
でも本当に? わかるの? 自称犬の獣人だから? エルが本当にわかってるのか、想像で言っているのか全然わかんない。
私の背筋を冷や汗が伝っていくのを感じる。
エルは私を後ろからぎゅっと抱きしめると、つむじや首筋にキスを落としていく。
「この部屋にあげたりはしていないようだけどねぇ……。でもリコと俺の間に横恋慕するような輩なんていたとしたら、――殺してやりたくなるよね」
「ま、まさかぁ……そんなわけある訳が、あっ! ね、ねぇエル! あの箱、可愛いね! あれって食べてもいいやつ?」
私は黒い気配を漂わせるエルからの追及を逃れようと、ちょうど山のように見えているお土産物の中の、ピンクのチョコレートの箱を指さした。
今聞こえた物騒な言葉は無視するとして、このままだと何を言い出すかわからない。
エルが私を抱く腕が緩んだのと同時にするりと抜け出し、リビングの床に転がる箱を手にした。怖いからエルの方は向くことができない。
「やっぱり獣人じゃないと厄介だな……、もっと遠くないとダメだったか」
とかなんとかよくわからない呟きが聞こえたけれど、宮下くんとのことに気が付かれたら、本当にエルが何を言い出すかわからない。
エルは私の家に来る度に、たくさんの食材と一緒に、色とりどりのブーケを手土産にしてくれて。
大きな花束を生けるには家にある花瓶だけじゃ足りないから、小さなグラスに入れて洗面所や、トイレにドレッサーに置いて回る。それはまるで灯火のように、家中で彩りを灯してくれる。
それが1ヶ月もいないとなると、当然全てが枯れてしまった。
色を失った一つ一つがいちいち淋しくて、ゴミ箱に入れる毎に、なんとも言えない淋しさが込み上げてくる。
今日はいよいよエルが帰ってくる日。
私は朝から、部屋の中を掃除していた。
溜め込んでいた食器を洗って、洗濯を終えたシーツを乾燥機にかけたところで、ひとつため息をついた。
次は掃除機もかけないと。
(エルに会って、なんて言おう)
家事をこなしながら、頭の中ではこればっかりを考えている。
指輪ありがとうって? 驚いたけど嬉しい、これからも一緒にいようね──そんな感じ?
それとも、私たち付き合ってもいないのに、指輪なんて貰えないよ、とか?
あの雪の日から3ヶ月。
いい大人がやる事やって、散々世話を焼いてもらっておいて、付き合ってないとか言えるわけないよな……。
人でなしすぎる。
「うーん……」
机に置いたぬいぐるみをひと撫ですると、これをくれた日の宮下くんの顔が浮かんでくる。
宮下くんには一応断ったけれど……、もっとよく考えてみてと言われてそのままだ。春から一緒に働くようになったらどうしたものだろう。
春って言っても、4月までもうあと2か月くらいしかないし。
あの調子で押されて、私は揺らがないでいられるのかな。
そうして今日何度目かもわからないため息を落としたところで、インターホンが響いた。
「あぁ、やっと顔が見れたよ、リコただいまーー」
「お、おかえり、エル。お疲れ様」
玄関ドアを開けると、入ってきた勢いのまま、ぎゅっと強く抱きしめられる。
あぁ、エルの匂いだ。
色々ひとりでうだうだと考えていたくせに、エルの匂いを感じた瞬間、涙がこぼれそうになった。
エルの匂いは甘くて、そして胸の奥の大事な部分がぎゅうっと握られるような、そんな感覚になる。
「ん、」軽く唇が触れるだけのキスが性急に深められて。
エルの舌が、私の舌をからめとり、口の中をむさぼるように嘗め回す。エルはまだ靴も脱いでないって言うのに。
すっかりと高めあった息を吐き出して顔を合わせると、前髪の奥で隈が浮かぶ目を細めた。
頬も前に会った時よりも心なしかやつれているようで。
少し悪い顔色が長旅の疲れを伝えている。
「リコに会えなくて、本当にキツかった……。たくさんお土産買ってきたからね」
「う、うん。ありがとう」
エルの匂いに、安堵と愛しさと、そして少しの罪悪感を含んだ息苦しさを感じてしまう。
もう一度ぎゅっと抱きしめられてから身体を離すと、出張にしては大きなスーツケースを持ち上げて、やっと部屋に入ってきた。
「あ、これも」そう言って手渡されたのは、芍薬とガーベラのピンク色でまとめた花束。
運ばれてきた華やかな香りに、またこの部屋の中に明かりが灯ったことを感じた。
エルに会えて嬉しい、一か月が長くて私も寂しかった。
でもここ最近考えこみすぎていて、なんとなく受け応えがぎこちなくなってしまう。
そんな私に気付いているのかいないのか、ネクタイを緩めながらエルは上機嫌だ。
開いたスーツケースから次々と、お土産を出していく。
その量は、お土産というより、何かの仕入れをしてきたっていう方がピッタリなくらい。
お土産の山に気を取られそうになるけど、気になることは早めに訊いておくに限る。
私は、おずおずと口を開いた。
「エル、あの指輪って……」
「気に入ってくれた? あれは未完なんだけど、トーリアの獣人の伝統的な贈り物なんだよね。あぁ、いいね、そのデザインやっぱりリコに似合う」
「あ、うん、すごい可愛くて気に入った……。伝統的な贈り物? っていうことはこれって」
「うん、婚約指輪だよ」
──oh、やっぱり。
ですよね、知ってました、知ってました。そうしどろもどろと取り繕う私をよそにエルはにこにことしている。
あれ? 表情や口調は機嫌よさげだけど、でもどことなく黒い気配を漂わせているような?
「そんなの、普通に渡してくれれば良かったのに」
「んー? リコに離れてる間に俺のことたくさん考えてほしくて」
「あ、あのね、エル。でも……、私たちにはまだそういうの早いんじゃないかなって」
「そう?」
「うん。あの、だって私たち付き合って……、るの? いま」
ピシリ、と空気が凍り付いた。
(!?!?)
比喩的な意味ではない。そのときエルのほうから、獣化するときに感じたような、凍り付きそうな冷たい風が吹いたのだ。
でもそれは私が驚いて瞬きを数度繰り返すと、どこともなく消えてしまった。
「あれ? いまのって? あれ?」私が困惑するのをよそに、エルは有無を言わさぬ顔で微笑んだ。
それでなくても整ったエルの顔が微笑んでいるだけなのに、なんだろう、すごく怖い。
「もちろん付き合っているよね。俺とリコがセフレになるとかあるわけないよね? なに? リコは俺たちの関係をセフレだとでも思っていたの?」
うおぉ、エルの纏っている黒い気配が増した。
だってエルも付き合おうって言わなかったじゃないと言い返しそうになったけれど飲み込んで、なんとか「そうだよね、付き合ってない訳ないよね」と返した。
だが、私の返事にエルの黒い圧力が消えることはない。
「で、でも、まだ婚約はちょーっと早くない? だってまだ一緒に暮らす目途とかついてないしさ、少なくともあと半年とか1年とか──」
「あぁ、ちょうど後から話そうと思ってたんだけど、新年度からここから通える距離に異動が決まったんだよ。それで、ちょうどいい物件見つけたんだよね。こっから一駅隣なんだけど、きっとリコも気に入ると思う」
「え、」
そしてエルは間取り図が表示されたスマホの画面を私に差し出した。
恐る恐る受け取ると、そこに映るのは2LDKの広々としたリビングに、書斎まで付いた私には不相応すぎる大きな部屋だ。え、これ家賃高すぎでは? それになんでこれお風呂の浴槽が丸くなってるの?
私の疑問に答えるように、エルが「ジャグジーのとこにしたかったんだよね。リコと一緒に広々とお風呂にはいりたいし」と付け足した。
私は「へ、へえ~~~…」と間の抜けた返事を返すことしかできない。
私のもつエルのスマホを一緒に覗き込むようにして、エルが私の肩を抱く。
あ、エルの匂い好き。
でもいまエルに密着されるのは、嫌な予感しかしない。ちょっと距離をとろうとする私を見透かしたのか更にエルは体を寄せてきた。
「ねぇリコ」
「は、……はい」
「リコは何が不安なの? 何か怖いことでもある? 俺が獣人だったのが、いや?」
「そっそんなこと」
「リコが怖いなら二度とリコの前で獣化しないって誓うよ。それでもダメ?」
「いや、大きい犬のエルは嫌いじゃないから、全然獣化はしていいんだけど……」
エルを触っているうちに、動物にも平気になるかもしれないし。
大きな犬のいる生活とか、ちょっと憧れだし。
「じゃあ何を気にしてるの? ──まさか、ほかに気になる人でもできた、とか?」
「えっ」
突然の思いもよらなかった質問に、一瞬私の脳裏に宮下くんがよぎる。
私の思考なんて覗けるはずもないのに、そんな私の表情にエルはその美しい金色の瞳をすっと細めた。
「ねぇ、リコ。帰ってきた時から気になっていたのだけど。あのぬいぐるみ、誰からもらったの?」
エルは私の耳元で甘くささやくようにそう告げる。
エルが視線を投げたのは、宮下くんからもらったフクぽんのぬいぐるみだ。
私の好きなゆるキャラ。
ドラキュラみたいな牙を持つ猫が、手に持つ苺を口の周りを真っ赤にして貪ってるポーズをとっている。
情報量が多い。フクオカ関係ないし、どこらへんでフクでぽんなのか全然わかんない。でもそんなところが可愛い。
でも、なんでエルは今フクぽんが気になったの?
「え、あれは、会社のひとからのお土産、で」
「ふうん。随分とリコのことを気に入ってるんだねぇ。食べ物じゃなく、わざわざ手元に残るぬいぐるみをお土産かぁ。それで? リコは飲み会ででも受け取ったのかな? アルコールの匂いも残っているね」
「に、匂い……、残ってる?」
あれをもらってから随分経っていますけど?
確かに焼肉屋さんだったから、煙の匂いとか残っているのかな?
でも本当に? わかるの? 自称犬の獣人だから? エルが本当にわかってるのか、想像で言っているのか全然わかんない。
私の背筋を冷や汗が伝っていくのを感じる。
エルは私を後ろからぎゅっと抱きしめると、つむじや首筋にキスを落としていく。
「この部屋にあげたりはしていないようだけどねぇ……。でもリコと俺の間に横恋慕するような輩なんていたとしたら、――殺してやりたくなるよね」
「ま、まさかぁ……そんなわけある訳が、あっ! ね、ねぇエル! あの箱、可愛いね! あれって食べてもいいやつ?」
私は黒い気配を漂わせるエルからの追及を逃れようと、ちょうど山のように見えているお土産物の中の、ピンクのチョコレートの箱を指さした。
今聞こえた物騒な言葉は無視するとして、このままだと何を言い出すかわからない。
エルが私を抱く腕が緩んだのと同時にするりと抜け出し、リビングの床に転がる箱を手にした。怖いからエルの方は向くことができない。
「やっぱり獣人じゃないと厄介だな……、もっと遠くないとダメだったか」
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