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佐々木ももんが

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第一章の1 真名

真名

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 幸か不幸かでいうなら、私は不幸だと思う。
第一の不幸は、人よりも少々かわいい目立つ顔立ちに生まれてきてしまったこと。一見幸せなことのように思うかもしれないけれど、女子が集団をつくるとき、目立つ要素はマイナスに働く。女の子は自分と同じレベルの友だちを選ぶ傾向があるから。異質なものには近寄りがたいのだ。都会ならおしゃれをするグループとしてクラスの中心になれるのかもしれない。だけどここは田舎町。最寄りのコンビニまで車で十分かかるような場所では、嫉妬の対象にしかならいのだ。
「ちょっとかわいいと思って、調子に乗って」
 人生の中で一番数多く言われた言葉かもしれない。一度も調子に乗ったことなんてないのだけれど。
 幼稚園に通っているときからすでにそんな環境だったのに、小学生はまた一段ときつかった。今までは個人攻撃だったのが、集団攻撃をしてくるようになったのだ。小学一年生にして人生の絶望を味わった私は、心を病み体を壊し、家から出ることができなくなった。当時不登校という言葉は知らなかったが、言葉を覚える前に自分で体験することになった。小学校に入学して一か月、わずか七歳にして人生をドロップアウトしてしまったのである。
 それ以来、塾、フリースクール、家庭教師、いろいろと試してみたがどれもしっくり来ず、私が家にいても一人で勉強して優秀な学力を維持したため、両親もいろいろ試すのをやめてしまった。私が人間の存在する場所に行くのを嫌ったため、できるだけその意思を尊重するようにしてくれたのだ。
 私の人生のわずかながらの幸福は、両親が私の意見を聞き入れてくれたこと、そして信頼できる大人が少なくとも一人は存在したこと。
 私は昔からおじいちゃんが大好きだった。おじいちゃんは元大学教授で、とっても偉い人なのだ。引退してからは縁もゆかりもない田舎の土地に移り住み、悠々自適の生活を実践していた。そのおじいちゃんが、私の状態を聞き知って、
「田舎でのびのびと一緒に暮らそう」
 と言ってくれたのだ。わたしは喜び勇んで移り住んだ。学校へ行く気のない私は、両親と離れて、田舎のおじいちゃんと二人で暮らしていた。
  それから、私の人生は少しばかり幸せになった。田舎に住んだからといって私の人間嫌いが治ったわけでもなく、自然と親しむ趣味もないためあいかわらず部屋に閉じこもりっぱなしだったのだけれど、私自身が幸せを感じていたことが重要だ。ここにいれば安全。そんな場所を手に入れたのだ。
 そうして移り住んでから約一年。私は今八歳だから、一年のはず。学校に行っていないと学年も上がらず行事にもうといので、数を数えるのが苦手になってしまう。とにかく、あっという間に幸せ生活の終わりがやってきた。
 五月だった。普段は完全におじいちゃんの家にいるが、親がお盆やお正月の長期休みになると実家に戻るという、逆里帰り生活をしていた。ゴールデンウィークに呼び戻された私は、最寄りの駅までおじいちゃんに送ってもらい、一人で汽車に乗った。乗換駅まで父と母が迎えに来ていた。名物料理を食べたり、ショッピングをしたりして、おじいちゃんの家を出てから五時間。久しぶりの外出で、実家に戻ったときにはへとへとになっていた。 無事に着いたという電話報告をおじいちゃんの家にかけたが、誰も出ない。おかしいとは思ったものの、その日は全員疲れていたので、そのままにした。次の日、やはり電話に出ないおじいちゃんの様子を見るため母が一人で訪ねたところ、おじいちゃんは玄関先で倒れていた。救急車を呼んだが、手遅れだったそうだ。
 不幸な私の人生の中に、まだ不幸になる要素が残っていたのか、と絶望に包まれた。こんな不幸がまだ待ち受けていたなんて、とてもこの先生きていける気がしない。
 私は自分を責めずにはいられなかった。昨日別れたとき、何の異常も感じられなかった。具合が悪いという兆候が、どこかにあったのではないか。私しか気づく人はいなかったのに、何も気づけなかった。おじいちゃんが亡くなったのは鈍感な私のせいじゃないのか。
 せめて倒れたのが一緒にいるときだったら。せめて母が様子を見にいくのが昨夜のうちだったら。せめて、せめて。
  私はとんでもない考え違いをしていた。この世で一番の不幸は仲間外れや孤独だと思っていたが、違った。何よりの根源にして唯一の、まず第一に挙げるべき不幸は、この世に生まれてきてしまったこと。これ以上の不幸はこの世には存在しないと思う。八歳にして悟った世の中の真理だった。
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