つくもがみ図書館でお待ちしてます

佐々木ももんが

文字の大きさ
4 / 30
第一章の4

おじいちゃんたち

しおりを挟む
「おじいちゃん!」
 抱きついたおじいちゃんは、手ざわりが悪かった。カサカサと乾いた音がして、つかんでもつかんでも手ごたえがない。
真名まな。オレ、おじいちゃんじゃないよ。おじいちゃんが大切にしてくれた資料の一つ」
  おじいちゃんじゃない、という事実だけは理解できた。少し離れて改めて見てみると、おじいちゃんよりも若い気がする。ちょっと背も低い。
「つくもがみが変化するときは、持ち主の顔かたちを真似ることが多いようだ。そういうあたしもその一人なんだが」
 文子ふみこの説明を聞きながら、見当違いのことを考えていた。妖怪が変身するときは、マンガのたぬきみたいに、煙を出してドロンと変わるのかと思っていた。手品の早変わりみたいに、一瞬にして#__へんげ__#しちゃうんだ。
「でも、昨日見た本のつくもがみは、全員子どもだったわよ。それがどうして急におじいちゃんの姿になるの?」
 私の認識では、おじいちゃんの蔵書の中でも特に愛着の深い十数冊がつくもがみとなって歩き出したはずだ。それが昨日見た子どもたち。
「そうなんだが、大切なのは霊魂が宿っていることであって、見かけの姿はどうでもいいんだ。もとの本の形のままでもいいし、人間を真似て変化してもいい。各々気に入った姿で過ごすんだ。昨日全員が子どもの姿をしていたのは、つくもがみとしては新米の生まれたて、という意識が強かったのだろう」
 おじいちゃんの姿をしたつくもがみ君は、ふところに手を入れて腕組みした姿でうんうんとうなずいている。
「じゃあ、もしかしてみんな自由に姿を変えられるの? みんなでおじいちゃんになることもできる?」
 大好きなおじいちゃんたちに囲まれて暮らす生活なんて、素敵だわ。
 うっとりした私の前に、ぴょこん、ともう一人のおじいちゃんが現れた。
「あ、おじいちゃん!」
 一人目とは違う服、作務衣を着たおじいちゃん。
「おじいちゃんじゃないからな」
 あわてて釘を刺す文子。
「分かってるけど」
 単純にうれしい。動いているおじいちゃんをまた見られるなんて。私がよろこんでいるのを見て、次々とおじいちゃんが増えていく。よく見ると少しずつ違う。ほくろまで再現しているつくもがみ君もいれば、自由に今風の服を着たり髪型をアレンジしたりしている子もいる。
「君はちょっと若すぎるよ」
「いやいや、若いときからの付き合いだから。ぼくが一番そっくりだ」
「おれのほうが似てるだろう」
 おじいちゃん物真似大会みたいになっている。
「みんな、どうせならこの姿で過ごしてちょうだい。おじいちゃんに囲まれてるみたいで楽しいわ」
 私が頼むと、文子が割って入ってきた。
「おい、お前は人間界に帰るんだろう? こいつらに真似させる必要なんてないだろうが」
 文子は私がここにいることを快く思っていないみたい。
「あの、文子、さん」
「文子でいい」
「私をここに置いてもらえませんか? 私はこの子たちのことをよく知っているし」
「それはできない」
 文子の返事は冷たかった。
「ここは人間たちが異界と呼ぶ場所。妖怪たちが住む世界だ。この世界にはこの世界のルールがある」
「どういうルール? 私がここにいても災いが起こるわけでもなし、置いてくれてもいいでしょう? あ、そうだ。私、働きます。文子のお手伝いします」
「子どもが何言ってんだい。まるで話にならないよ」
「子どもって。文子だって私と同じくらいの年なのに」
「見かけで判断しないで。あたしだってつくもがみの一人だよ。最低でも百年は生きてるんだから。さっきも言ったけど、この姿は私をかわいがってくれた持ち主に似せてるだけで、本質とは関係ない」
 たくさんのおじいちゃんたちが、私と文子のやりとりをハラハラしながら見守っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

処理中です...