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第一章の4
おじいちゃんたち
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「おじいちゃん!」
抱きついたおじいちゃんは、手ざわりが悪かった。カサカサと乾いた音がして、つかんでもつかんでも手ごたえがない。
「真名。オレ、おじいちゃんじゃないよ。おじいちゃんが大切にしてくれた資料の一つ」
おじいちゃんじゃない、という事実だけは理解できた。少し離れて改めて見てみると、おじいちゃんよりも若い気がする。ちょっと背も低い。
「つくもがみが変化するときは、持ち主の顔かたちを真似ることが多いようだ。そういうあたしもその一人なんだが」
文子の説明を聞きながら、見当違いのことを考えていた。妖怪が変身するときは、マンガのたぬきみたいに、煙を出してドロンと変わるのかと思っていた。手品の早変わりみたいに、一瞬にして#__へんげ__#しちゃうんだ。
「でも、昨日見た本のつくもがみは、全員子どもだったわよ。それがどうして急におじいちゃんの姿になるの?」
私の認識では、おじいちゃんの蔵書の中でも特に愛着の深い十数冊がつくもがみとなって歩き出したはずだ。それが昨日見た子どもたち。
「そうなんだが、大切なのは霊魂が宿っていることであって、見かけの姿はどうでもいいんだ。もとの本の形のままでもいいし、人間を真似て変化してもいい。各々気に入った姿で過ごすんだ。昨日全員が子どもの姿をしていたのは、つくもがみとしては新米の生まれたて、という意識が強かったのだろう」
おじいちゃんの姿をしたつくもがみ君は、ふところに手を入れて腕組みした姿でうんうんとうなずいている。
「じゃあ、もしかしてみんな自由に姿を変えられるの? みんなでおじいちゃんになることもできる?」
大好きなおじいちゃんたちに囲まれて暮らす生活なんて、素敵だわ。
うっとりした私の前に、ぴょこん、ともう一人のおじいちゃんが現れた。
「あ、おじいちゃん!」
一人目とは違う服、作務衣を着たおじいちゃん。
「おじいちゃんじゃないからな」
あわてて釘を刺す文子。
「分かってるけど」
単純にうれしい。動いているおじいちゃんをまた見られるなんて。私がよろこんでいるのを見て、次々とおじいちゃんが増えていく。よく見ると少しずつ違う。ほくろまで再現しているつくもがみ君もいれば、自由に今風の服を着たり髪型をアレンジしたりしている子もいる。
「君はちょっと若すぎるよ」
「いやいや、若いときからの付き合いだから。ぼくが一番そっくりだ」
「おれのほうが似てるだろう」
おじいちゃん物真似大会みたいになっている。
「みんな、どうせならこの姿で過ごしてちょうだい。おじいちゃんに囲まれてるみたいで楽しいわ」
私が頼むと、文子が割って入ってきた。
「おい、お前は人間界に帰るんだろう? こいつらに真似させる必要なんてないだろうが」
文子は私がここにいることを快く思っていないみたい。
「あの、文子、さん」
「文子でいい」
「私をここに置いてもらえませんか? 私はこの子たちのことをよく知っているし」
「それはできない」
文子の返事は冷たかった。
「ここは人間たちが異界と呼ぶ場所。妖怪たちが住む世界だ。この世界にはこの世界のルールがある」
「どういうルール? 私がここにいても災いが起こるわけでもなし、置いてくれてもいいでしょう? あ、そうだ。私、働きます。文子のお手伝いします」
「子どもが何言ってんだい。まるで話にならないよ」
「子どもって。文子だって私と同じくらいの年なのに」
「見かけで判断しないで。あたしだってつくもがみの一人だよ。最低でも百年は生きてるんだから。さっきも言ったけど、この姿は私をかわいがってくれた持ち主に似せてるだけで、本質とは関係ない」
たくさんのおじいちゃんたちが、私と文子のやりとりをハラハラしながら見守っている。
抱きついたおじいちゃんは、手ざわりが悪かった。カサカサと乾いた音がして、つかんでもつかんでも手ごたえがない。
「真名。オレ、おじいちゃんじゃないよ。おじいちゃんが大切にしてくれた資料の一つ」
おじいちゃんじゃない、という事実だけは理解できた。少し離れて改めて見てみると、おじいちゃんよりも若い気がする。ちょっと背も低い。
「つくもがみが変化するときは、持ち主の顔かたちを真似ることが多いようだ。そういうあたしもその一人なんだが」
文子の説明を聞きながら、見当違いのことを考えていた。妖怪が変身するときは、マンガのたぬきみたいに、煙を出してドロンと変わるのかと思っていた。手品の早変わりみたいに、一瞬にして#__へんげ__#しちゃうんだ。
「でも、昨日見た本のつくもがみは、全員子どもだったわよ。それがどうして急におじいちゃんの姿になるの?」
私の認識では、おじいちゃんの蔵書の中でも特に愛着の深い十数冊がつくもがみとなって歩き出したはずだ。それが昨日見た子どもたち。
「そうなんだが、大切なのは霊魂が宿っていることであって、見かけの姿はどうでもいいんだ。もとの本の形のままでもいいし、人間を真似て変化してもいい。各々気に入った姿で過ごすんだ。昨日全員が子どもの姿をしていたのは、つくもがみとしては新米の生まれたて、という意識が強かったのだろう」
おじいちゃんの姿をしたつくもがみ君は、ふところに手を入れて腕組みした姿でうんうんとうなずいている。
「じゃあ、もしかしてみんな自由に姿を変えられるの? みんなでおじいちゃんになることもできる?」
大好きなおじいちゃんたちに囲まれて暮らす生活なんて、素敵だわ。
うっとりした私の前に、ぴょこん、ともう一人のおじいちゃんが現れた。
「あ、おじいちゃん!」
一人目とは違う服、作務衣を着たおじいちゃん。
「おじいちゃんじゃないからな」
あわてて釘を刺す文子。
「分かってるけど」
単純にうれしい。動いているおじいちゃんをまた見られるなんて。私がよろこんでいるのを見て、次々とおじいちゃんが増えていく。よく見ると少しずつ違う。ほくろまで再現しているつくもがみ君もいれば、自由に今風の服を着たり髪型をアレンジしたりしている子もいる。
「君はちょっと若すぎるよ」
「いやいや、若いときからの付き合いだから。ぼくが一番そっくりだ」
「おれのほうが似てるだろう」
おじいちゃん物真似大会みたいになっている。
「みんな、どうせならこの姿で過ごしてちょうだい。おじいちゃんに囲まれてるみたいで楽しいわ」
私が頼むと、文子が割って入ってきた。
「おい、お前は人間界に帰るんだろう? こいつらに真似させる必要なんてないだろうが」
文子は私がここにいることを快く思っていないみたい。
「あの、文子、さん」
「文子でいい」
「私をここに置いてもらえませんか? 私はこの子たちのことをよく知っているし」
「それはできない」
文子の返事は冷たかった。
「ここは人間たちが異界と呼ぶ場所。妖怪たちが住む世界だ。この世界にはこの世界のルールがある」
「どういうルール? 私がここにいても災いが起こるわけでもなし、置いてくれてもいいでしょう? あ、そうだ。私、働きます。文子のお手伝いします」
「子どもが何言ってんだい。まるで話にならないよ」
「子どもって。文子だって私と同じくらいの年なのに」
「見かけで判断しないで。あたしだってつくもがみの一人だよ。最低でも百年は生きてるんだから。さっきも言ったけど、この姿は私をかわいがってくれた持ち主に似せてるだけで、本質とは関係ない」
たくさんのおじいちゃんたちが、私と文子のやりとりをハラハラしながら見守っている。
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