5 / 30
第一章の5
本物と偽物
しおりを挟む
ここに留まりたいという私に、文子が手を焼いている。
「ここにいたいというのは、どういう理由で? あんたの好きなおじいちゃんはここにはいないんだよ。全部偽物だって分かってるよね?」
「それは、分かってるけど」
おじいちゃんのいない世界なんて耐えられないんだもの。たった一人で元の世界に帰るくらいなら、異界とは言わず、本物のおじいちゃんと一緒に霊界に行ってもいいくらいだ。
「それにしても、驚いたな。こんなに仲間がいたとはね」
「本以外のつくもがみとも会ってみたいですねえ」
私と文子のにらみ合いに飽きたのか、おじいちゃんたちが好き勝手に動き回っている。庭を散歩している人までいる。緊張感が台無しだ。そういえば建物の中にずっといたけど、外の世界というのも人間界と似たような風景なのだろうか。
「帰れ帰れって言うけど、一体どこから帰れっていうの。来た道は本棚にふさがれてるけど、帰る道はあるのかしら」
私が反撃すると、文子はうっと言葉に詰まった。そして、私にではなく、うろうろしているおじいちゃんたちに向かって八つ当たりのように怒鳴り散らした。
「あんたたち、勝手に動くんじゃない! 正式な登録がまだ終わってないんだから! それと、持ち主の姿をするのをやめな」
文子に一喝されて、つくもがみたちはパッと姿を変えた。おじいちゃんは消え失せ、たちまち古書の姿になって本棚に戻っていく。
「あ」
あわてすぎて転んだのだろうか。文子の足元に、本というよりも一枚の紙切れが落ちている。私は拾いあげて、声をかけた。
「君は、三行半のみーくん。つくもがみになってたんだね。よかった。私の一番のお気に入りなんだ」
私はみーくんを本棚のあるべき場所に戻してあげた。私は文子に、気になっていたことを聞いてみた。
「さっきお庭に出ていたおじいちゃんがいたけど、ちゃんと本棚に戻ってきたのかしら」
「庭?」
文子が怪訝な顔をした。窓の外を眺めてつぶやく。外は松の木の下に灯ろうがあり、小さい池までしつらえてある、素敵な日本庭園だ。植物が生い茂りすぎていて、広いのか狭いのかはよく分からない。
「そんなはずはない。ここは少々特殊な造りになっていて、外に出られるようにはなっていない。今見えている庭もいわば映像のようなもので、直接空間がつながっているわけではない」
「でも、私見たのよ。おじいちゃんがお庭を歩いているところ」
文子は本棚の本を点検し始めた。
「全集が二そろい、一枚物の古文書が一、二、三……。全部そろっている」
文子は眉間にしわを寄せて考え込んでいる。何も言ってくれない。私は待ちきれなくて、自分から聞いてみた。
「ここに私以外の人間はいないの? 一人も?」
文子が言いにくそうに言う。
「ここは妖怪の住む異界だから、基本的に人間はいないはずなんだ」
「でも現に、私はここにいるわよ」
「そうなんだ。今の真名のように、つられて迷い込んできたとか、強い意志を持って移動してきたとか、そういう事情がないわけではない」
「じゃあ、死んだ人は?」
「人間と同じ。死んだ人間は霊界に行くから、ここともまた違う世界にいる。もちろん、今の真名のように迷い込んできたりする者はいる」
「それは例えば、死んだばっかりで自分の息場所が分からなかったりする人も来たりする?」
「そういうパターンが一番多いだろうな。お互いの世界を行き来するための道や交差点はあちこちに存在していて、ここはつくもがみたちを受け入れるためにわざと境界線に位置しているし」
「だったら!」
文子の説明をさえぎって、叫んでしまった。
「本物のおじいちゃんも、今この世界にいるんじゃないかしら。私、探しに行きたい」
文子は頭を抱えた。
「一番やってほしくないことだ」
やがて大きなため息と一緒に許可をくれた。
「仕方ないね。真名の言うことに一理ある。帰り道がふさがれてしまって、今は帰りようがない」
「じゃあ、ここにいていいってこと?」
「帰る方法が見つかるまで、ということだ」
「ここにいたいというのは、どういう理由で? あんたの好きなおじいちゃんはここにはいないんだよ。全部偽物だって分かってるよね?」
「それは、分かってるけど」
おじいちゃんのいない世界なんて耐えられないんだもの。たった一人で元の世界に帰るくらいなら、異界とは言わず、本物のおじいちゃんと一緒に霊界に行ってもいいくらいだ。
「それにしても、驚いたな。こんなに仲間がいたとはね」
「本以外のつくもがみとも会ってみたいですねえ」
私と文子のにらみ合いに飽きたのか、おじいちゃんたちが好き勝手に動き回っている。庭を散歩している人までいる。緊張感が台無しだ。そういえば建物の中にずっといたけど、外の世界というのも人間界と似たような風景なのだろうか。
「帰れ帰れって言うけど、一体どこから帰れっていうの。来た道は本棚にふさがれてるけど、帰る道はあるのかしら」
私が反撃すると、文子はうっと言葉に詰まった。そして、私にではなく、うろうろしているおじいちゃんたちに向かって八つ当たりのように怒鳴り散らした。
「あんたたち、勝手に動くんじゃない! 正式な登録がまだ終わってないんだから! それと、持ち主の姿をするのをやめな」
文子に一喝されて、つくもがみたちはパッと姿を変えた。おじいちゃんは消え失せ、たちまち古書の姿になって本棚に戻っていく。
「あ」
あわてすぎて転んだのだろうか。文子の足元に、本というよりも一枚の紙切れが落ちている。私は拾いあげて、声をかけた。
「君は、三行半のみーくん。つくもがみになってたんだね。よかった。私の一番のお気に入りなんだ」
私はみーくんを本棚のあるべき場所に戻してあげた。私は文子に、気になっていたことを聞いてみた。
「さっきお庭に出ていたおじいちゃんがいたけど、ちゃんと本棚に戻ってきたのかしら」
「庭?」
文子が怪訝な顔をした。窓の外を眺めてつぶやく。外は松の木の下に灯ろうがあり、小さい池までしつらえてある、素敵な日本庭園だ。植物が生い茂りすぎていて、広いのか狭いのかはよく分からない。
「そんなはずはない。ここは少々特殊な造りになっていて、外に出られるようにはなっていない。今見えている庭もいわば映像のようなもので、直接空間がつながっているわけではない」
「でも、私見たのよ。おじいちゃんがお庭を歩いているところ」
文子は本棚の本を点検し始めた。
「全集が二そろい、一枚物の古文書が一、二、三……。全部そろっている」
文子は眉間にしわを寄せて考え込んでいる。何も言ってくれない。私は待ちきれなくて、自分から聞いてみた。
「ここに私以外の人間はいないの? 一人も?」
文子が言いにくそうに言う。
「ここは妖怪の住む異界だから、基本的に人間はいないはずなんだ」
「でも現に、私はここにいるわよ」
「そうなんだ。今の真名のように、つられて迷い込んできたとか、強い意志を持って移動してきたとか、そういう事情がないわけではない」
「じゃあ、死んだ人は?」
「人間と同じ。死んだ人間は霊界に行くから、ここともまた違う世界にいる。もちろん、今の真名のように迷い込んできたりする者はいる」
「それは例えば、死んだばっかりで自分の息場所が分からなかったりする人も来たりする?」
「そういうパターンが一番多いだろうな。お互いの世界を行き来するための道や交差点はあちこちに存在していて、ここはつくもがみたちを受け入れるためにわざと境界線に位置しているし」
「だったら!」
文子の説明をさえぎって、叫んでしまった。
「本物のおじいちゃんも、今この世界にいるんじゃないかしら。私、探しに行きたい」
文子は頭を抱えた。
「一番やってほしくないことだ」
やがて大きなため息と一緒に許可をくれた。
「仕方ないね。真名の言うことに一理ある。帰り道がふさがれてしまって、今は帰りようがない」
「じゃあ、ここにいていいってこと?」
「帰る方法が見つかるまで、ということだ」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
二年間の花嫁
柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。
公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。
二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。
それでも構わなかった。
たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。
けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。
この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。
彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。
やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。
期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。
――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる