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第4話 勘違い家族の「熱い」来訪
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その日、公爵邸の正門前に、一台の馬車が止まった。
降り立ったのは、アークライト男爵とその家族だ。
彼らは当初、死を覚悟していた。
“灼熱公爵”の領地は、近づくだけで肌が焼ける「死の土地」だと聞いていたからだ。
しかし、目の前の光景は、彼らの予想を裏切るものだった。
「……おい。どういうことだ、これは」
門の向こうに広がるのは、
色鮮やかな花々が咲き乱れ、青々とした若葉が揺れる、この世の楽園。
「見て! あんなに綺麗な花が……」
「あの恐ろしい熱気もまったくないわ」
父は数秒、その庭を忌々しげに睨みつけ――そして、下卑た笑みを浮かべた。
「なるほど! そういうことか!」
「化け物公爵は、ついに自爆して死んだんだ! 死の間際に溜め込んだ魔力が一気に解放され、この庭を狂い咲きさせたに違いない!」
父の中では、すべての辻褄が合った。
熱源が消えたから、熱波が消えたのだと。
「今の屋敷は空っぽだ! 誰かに取られる前に、金をすべて回収するぞ!」
父は乱暴に扉を叩いた。
ダンダンッ!!
「開けろ! 公爵の死体はどこだ!? 遺産管理権を持つ、アークライト男爵が来たぞ!」
◇ ◇ ◇
静まり返った屋敷に、聞き覚えのある怒声が響き渡る。
私はビクリと体を震わせた。
あの声を聞くだけで、屋根裏部屋の寒さと痛みが蘇る。
「……リリス」
すかさず、腰に回された腕が力を増した。
背中から伝わる、灼熱の体温。
「怯えるな。……俺の『命綱』を震わせる愚か者は、俺が消す」
アレクセイの声は低く、地獄の底から響くようだった。
玄関ホールには、土足で踏み込んできた三人の影。
「おや? やはり自爆したんだな!」
父が勝ち誇り、母が計算高く目を光らせる。
「リリスも一緒に燃え尽きたでしょうし、この財産はすべて、私たちが――」
そこで、母が言葉を詰まらせた。
「……え?」
階段の上に立つ、私たちに気づいたからだ。
焦げ跡一つないアレクセイと、彼に抱かれ、最高級ドレスを纏った私。
「な、なんで……!?」
妹のミリアが叫んだ。
「なんで生きてるのよ! お姉ちゃんは『燃えるゴミ』として出したじゃない! それに、その男の人……誰!?」
熱が収まったアレクセイは、銀髪に赤い瞳を持つ、国宝級の美青年だ。
「……アレクセイ・ヴォルガノスだ。勝手に殺さないでもらえるか」
冷ややかに告げると、ミリアの頬がボッと赤く染まった。
「うそ……かっこいい……! お母様、あんな素敵な人が公爵様だったの!?」
父が咳払いをして、強欲な笑みを浮かべる。
「ふん、生きていたなら尚更だ。おいリリス、降りてきなさい。閣下、その女は我が家の『出荷ミス』です。すぐに回収します」
「代わりに、私の次女ミリアを差し上げますよ。彼女なら魔力もありますし、貴方の妻にふさわしい」
ミリアが媚びるような上目遣いで、アレクセイを誘う。
「初めまして公爵様♡ お姉ちゃんみたいな氷の女より、私の方がずっと温かいですよ?」
アレクセイは無表情のまま、私を抱き直した。
腕の中で、彼の心臓が早まる。ドクン、ドクン、と。
「……断る。俺に必要なのは、この『冷たさ』だけだ。帰れ。二度と俺の敷地を跨ぐな」
「なっ、生意気な……! こうなったら実力行使だ!」
父が懐から、家畜用の「魔封じの鎖」を取り出した。
「リリス! お前はアークライト家の所有物だ!」
ヒュッ!
鎖が蛇のように空を飛び、私の手首に巻き付いた。
「きゃっ!」
父が鎖を思い切り引っ張る。
私は物理的な力で、公爵の腕の中から引きずり出された。
その瞬間。
世界が、変わった。
――ブチィッ!!
何かが切れる音がした。
「……が、はっ……!!」
アレクセイが胸を押さえ、膝をついた。
私という「冷却材」を失った魔力炉が、瞬時に臨界点を超える。
ボウッ!!!!
彼の全身から、紅蓮の炎が噴出した。
「あ、あつっ!? なんだこれ!?」
「いやぁぁぁ! ドレスが焦げてる!!」
ミリアと母が悲鳴を上げた。
化粧が熱でドロドロに溶け出し、顔面が崩壊していく。
父の持つ鎖も赤熱し、ジュウジュウと音を立てた。
「あつッ!! 手が、手がぁ!!」
私は床に投げ出されたが、不思議と熱くはなかった。
ただ、アレクセイが心配でたまらない。
「アレクセイ様!!」
彼は床に片膝をつき、充血した赤い瞳で虚空を睨んでいた。
口元からは白い蒸気が漏れている。
「……返せ。俺の……俺の『鎮痛剤(リリス)』を……返せぇぇぇぇッ!!!」
ドンッ!!!!
爆発的な熱風が屋敷を揺らした。
「助けてくれぇぇ! 熱い! 死ぬ! 灰になるぅぅ!!」
のたうち回る家族。
まさに、彼らが私に望んだ最期そのもの。
けれど、このままでは屋敷ごと吹き飛んでしまう。
止められるのは、世界でただ一人。
私しか、いない。
(続く)
降り立ったのは、アークライト男爵とその家族だ。
彼らは当初、死を覚悟していた。
“灼熱公爵”の領地は、近づくだけで肌が焼ける「死の土地」だと聞いていたからだ。
しかし、目の前の光景は、彼らの予想を裏切るものだった。
「……おい。どういうことだ、これは」
門の向こうに広がるのは、
色鮮やかな花々が咲き乱れ、青々とした若葉が揺れる、この世の楽園。
「見て! あんなに綺麗な花が……」
「あの恐ろしい熱気もまったくないわ」
父は数秒、その庭を忌々しげに睨みつけ――そして、下卑た笑みを浮かべた。
「なるほど! そういうことか!」
「化け物公爵は、ついに自爆して死んだんだ! 死の間際に溜め込んだ魔力が一気に解放され、この庭を狂い咲きさせたに違いない!」
父の中では、すべての辻褄が合った。
熱源が消えたから、熱波が消えたのだと。
「今の屋敷は空っぽだ! 誰かに取られる前に、金をすべて回収するぞ!」
父は乱暴に扉を叩いた。
ダンダンッ!!
「開けろ! 公爵の死体はどこだ!? 遺産管理権を持つ、アークライト男爵が来たぞ!」
◇ ◇ ◇
静まり返った屋敷に、聞き覚えのある怒声が響き渡る。
私はビクリと体を震わせた。
あの声を聞くだけで、屋根裏部屋の寒さと痛みが蘇る。
「……リリス」
すかさず、腰に回された腕が力を増した。
背中から伝わる、灼熱の体温。
「怯えるな。……俺の『命綱』を震わせる愚か者は、俺が消す」
アレクセイの声は低く、地獄の底から響くようだった。
玄関ホールには、土足で踏み込んできた三人の影。
「おや? やはり自爆したんだな!」
父が勝ち誇り、母が計算高く目を光らせる。
「リリスも一緒に燃え尽きたでしょうし、この財産はすべて、私たちが――」
そこで、母が言葉を詰まらせた。
「……え?」
階段の上に立つ、私たちに気づいたからだ。
焦げ跡一つないアレクセイと、彼に抱かれ、最高級ドレスを纏った私。
「な、なんで……!?」
妹のミリアが叫んだ。
「なんで生きてるのよ! お姉ちゃんは『燃えるゴミ』として出したじゃない! それに、その男の人……誰!?」
熱が収まったアレクセイは、銀髪に赤い瞳を持つ、国宝級の美青年だ。
「……アレクセイ・ヴォルガノスだ。勝手に殺さないでもらえるか」
冷ややかに告げると、ミリアの頬がボッと赤く染まった。
「うそ……かっこいい……! お母様、あんな素敵な人が公爵様だったの!?」
父が咳払いをして、強欲な笑みを浮かべる。
「ふん、生きていたなら尚更だ。おいリリス、降りてきなさい。閣下、その女は我が家の『出荷ミス』です。すぐに回収します」
「代わりに、私の次女ミリアを差し上げますよ。彼女なら魔力もありますし、貴方の妻にふさわしい」
ミリアが媚びるような上目遣いで、アレクセイを誘う。
「初めまして公爵様♡ お姉ちゃんみたいな氷の女より、私の方がずっと温かいですよ?」
アレクセイは無表情のまま、私を抱き直した。
腕の中で、彼の心臓が早まる。ドクン、ドクン、と。
「……断る。俺に必要なのは、この『冷たさ』だけだ。帰れ。二度と俺の敷地を跨ぐな」
「なっ、生意気な……! こうなったら実力行使だ!」
父が懐から、家畜用の「魔封じの鎖」を取り出した。
「リリス! お前はアークライト家の所有物だ!」
ヒュッ!
鎖が蛇のように空を飛び、私の手首に巻き付いた。
「きゃっ!」
父が鎖を思い切り引っ張る。
私は物理的な力で、公爵の腕の中から引きずり出された。
その瞬間。
世界が、変わった。
――ブチィッ!!
何かが切れる音がした。
「……が、はっ……!!」
アレクセイが胸を押さえ、膝をついた。
私という「冷却材」を失った魔力炉が、瞬時に臨界点を超える。
ボウッ!!!!
彼の全身から、紅蓮の炎が噴出した。
「あ、あつっ!? なんだこれ!?」
「いやぁぁぁ! ドレスが焦げてる!!」
ミリアと母が悲鳴を上げた。
化粧が熱でドロドロに溶け出し、顔面が崩壊していく。
父の持つ鎖も赤熱し、ジュウジュウと音を立てた。
「あつッ!! 手が、手がぁ!!」
私は床に投げ出されたが、不思議と熱くはなかった。
ただ、アレクセイが心配でたまらない。
「アレクセイ様!!」
彼は床に片膝をつき、充血した赤い瞳で虚空を睨んでいた。
口元からは白い蒸気が漏れている。
「……返せ。俺の……俺の『鎮痛剤(リリス)』を……返せぇぇぇぇッ!!!」
ドンッ!!!!
爆発的な熱風が屋敷を揺らした。
「助けてくれぇぇ! 熱い! 死ぬ! 灰になるぅぅ!!」
のたうち回る家族。
まさに、彼らが私に望んだ最期そのもの。
けれど、このままでは屋敷ごと吹き飛んでしまう。
止められるのは、世界でただ一人。
私しか、いない。
(続く)
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