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第5話 灼熱のざまぁと、永久就職
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「……返せ」
その声は、もはや人の言葉ではない。
地獄の釜が開く音だった。
「俺の……俺の『鎮痛剤(リリス)』を……返せぇぇぇぇッ!!!」
ドォォォォン!!!!
アレクセイ公爵の絶叫と共に、爆発的な熱波が吹き荒れた。
シャンデリアは溶け落ち、窓ガラスがすべて外側へと弾け飛ぶ。
制御を失った彼は、自らの熱で世界を焼き尽くす「生きた火山」だった。
「ひぃぃぃ! あ、あづい! あづいいぃぃ!!」
「髪が! 私の自慢の巻き髪がぁ!」
「お助けぇぇぇ! 灰になるぅぅ!!」
父、母、ミリアの三人は、あまりの熱さに床を転げ回る。
服は焦げ、化粧はドロドロに溶け落ち、まるで妖怪のような有様だ。
彼らが私に望んだ「燃えるゴミ」としての最期。
皮肉にも、今まさに自分たちがそうなろうとしていた。
(……そんなのは、嫌だ)
彼らを助けたいわけではない。
ただ、アレクセイ様が「人殺し」になるのだけは、絶対に阻止しなければ。
私は熱風に向かって駆け出した。
普通の人間なら即死する、灼熱の中心へ。
「アレクセイ様!!」
暴走する魔力を突き破り、私は彼に抱きついた。
ドサッ!
ジュウウウウウゥゥゥ…………ッ!
まるで巨大な鉄塊を水に沈めたような、凄まじい音が響く。
私の「魔力真空」が、彼から溢れ出る暴走魔力を吸い上げていく。
熱い。でも、火傷はしない。
彼の苦しみ、怒り、孤独な熱が、
私の体を通して、大気中へと霧散していく。
「……あ、……ぁ……?」
アレクセイの瞳から、狂気がスッと引いていく。
部屋を支配していた灼熱地獄が、嘘のように鎮火した。
「……リリス……?」
「はい。ここにいます。……もう、大丈夫ですよ」
「……馬鹿な。あの中で、無傷なのか……?」
「ええ。少しサウナみたいでしたが、ちょうどいいデトックスでした」
彼が力が抜けたように私を抱きしめ返す。
骨が軋むほどの、強さで。
「……よかった。……お前を、殺さずに済んだ……」
震える声。
彼は私を失うこと、そして傷つけてしまうことを、誰よりも恐れていた。
その時。
ガレキの床から、呻き声が聞こえた。
「うぅ……あ、あづい……水ぅ……」
「私の顔がぁ……」
黒焦げになった三つの物体。
アレクセイは氷のような冷徹な視線を、彼らに向けた。
「……おい。まだ生きていたのか」
「ひぃッ!?」
「彼女は欠陥品などではない。俺の命を繋ぎ、この国を守る、唯一無二の『断熱令嬢』だ。……貴様らごときが触れていい相手ではない」
「顔を鏡で見てから言え。化け物」
ミリアが悲鳴を上げて顔を覆う。
そこへ、騎士団が雪崩れ込んできた。
「そこにいる不審者たちを捕らえろ」
アレクセイは煤まみれの家族を指差した。
「罪状は『公爵暗殺未遂』および『国家重要保安部品(リリス)』の破壊未遂。……極寒の北の鉱山送りにしろ」
「こ、鉱山!? あそこは氷点下30度の死の世界だぞ!?」
「安心しろ。貴様らの脂ぎった体なら、少し冷やした方が長生きできるだろう。……連れて行け!」
「寒い! 助けてくれ!」という断末魔が遠ざかっていく。
さようなら。
かつて私を寒空に追いやった彼らは、これからは永遠の寒さの中で罪を償う。
完璧な、因果応報だった。
◇ ◇ ◇
その夜。
私は公爵の寝室にある、巨大なベッドに沈んでいた。
「……アレクセイ様。もう十分温まりましたから、そろそろ……」
「ならん。まだ足りない」
アレクセイは手足のすべてを使って、私を絡め取っていた。
いわゆる「タコさん抱っこ」の状態だ。
「……お前がいなくなったら、俺はどうすればいい」
耳元で、弱々しい声が聞こえた。
「またあの苦しい孤独に戻るのか……? もう無理だ。お前の冷たさを知ってしまったら、もう戻れない」
私は、彼の背中にそっと手を添えた。
指先から伝わる熱は、じんわりと心を溶かす、優しい温もりだった。
「戻らなくていいですよ」
「私も、貴方がいないと駄目なんです。……貴方がいないと、寒くて眠れないんです」
「リリス……」
アレクセイが顔を上げた。
赤い瞳が、熱っぽく私を見つめている。
「……愛している。俺の熱を受け止められるのは、お前だけだ」
「はい。貴方の熱を冷ませるのも、私だけです」
私たちは自然と唇を重ねた。
彼の唇は熱く、私の唇は冷たい。
その温度差が溶け合い、やがて心地よい「適温」になっていく。
(ああ、温かい)
「……ん。リリス、もう一回」
「えっ、まだするんですか? 明日もお仕事が……」
「知るか。俺はまだ熱いんだ。……責任を取って、冷やしてくれ」
甘えたようにすり寄ってくる、巨大な大型犬。
「……はいはい。わかりましたよ、私の旦那様」
私は彼を抱きしめ返す。
私の「冷却材」としての仕事は、一生終わることがなさそうだった。
(第1章 完)
その声は、もはや人の言葉ではない。
地獄の釜が開く音だった。
「俺の……俺の『鎮痛剤(リリス)』を……返せぇぇぇぇッ!!!」
ドォォォォン!!!!
アレクセイ公爵の絶叫と共に、爆発的な熱波が吹き荒れた。
シャンデリアは溶け落ち、窓ガラスがすべて外側へと弾け飛ぶ。
制御を失った彼は、自らの熱で世界を焼き尽くす「生きた火山」だった。
「ひぃぃぃ! あ、あづい! あづいいぃぃ!!」
「髪が! 私の自慢の巻き髪がぁ!」
「お助けぇぇぇ! 灰になるぅぅ!!」
父、母、ミリアの三人は、あまりの熱さに床を転げ回る。
服は焦げ、化粧はドロドロに溶け落ち、まるで妖怪のような有様だ。
彼らが私に望んだ「燃えるゴミ」としての最期。
皮肉にも、今まさに自分たちがそうなろうとしていた。
(……そんなのは、嫌だ)
彼らを助けたいわけではない。
ただ、アレクセイ様が「人殺し」になるのだけは、絶対に阻止しなければ。
私は熱風に向かって駆け出した。
普通の人間なら即死する、灼熱の中心へ。
「アレクセイ様!!」
暴走する魔力を突き破り、私は彼に抱きついた。
ドサッ!
ジュウウウウウゥゥゥ…………ッ!
まるで巨大な鉄塊を水に沈めたような、凄まじい音が響く。
私の「魔力真空」が、彼から溢れ出る暴走魔力を吸い上げていく。
熱い。でも、火傷はしない。
彼の苦しみ、怒り、孤独な熱が、
私の体を通して、大気中へと霧散していく。
「……あ、……ぁ……?」
アレクセイの瞳から、狂気がスッと引いていく。
部屋を支配していた灼熱地獄が、嘘のように鎮火した。
「……リリス……?」
「はい。ここにいます。……もう、大丈夫ですよ」
「……馬鹿な。あの中で、無傷なのか……?」
「ええ。少しサウナみたいでしたが、ちょうどいいデトックスでした」
彼が力が抜けたように私を抱きしめ返す。
骨が軋むほどの、強さで。
「……よかった。……お前を、殺さずに済んだ……」
震える声。
彼は私を失うこと、そして傷つけてしまうことを、誰よりも恐れていた。
その時。
ガレキの床から、呻き声が聞こえた。
「うぅ……あ、あづい……水ぅ……」
「私の顔がぁ……」
黒焦げになった三つの物体。
アレクセイは氷のような冷徹な視線を、彼らに向けた。
「……おい。まだ生きていたのか」
「ひぃッ!?」
「彼女は欠陥品などではない。俺の命を繋ぎ、この国を守る、唯一無二の『断熱令嬢』だ。……貴様らごときが触れていい相手ではない」
「顔を鏡で見てから言え。化け物」
ミリアが悲鳴を上げて顔を覆う。
そこへ、騎士団が雪崩れ込んできた。
「そこにいる不審者たちを捕らえろ」
アレクセイは煤まみれの家族を指差した。
「罪状は『公爵暗殺未遂』および『国家重要保安部品(リリス)』の破壊未遂。……極寒の北の鉱山送りにしろ」
「こ、鉱山!? あそこは氷点下30度の死の世界だぞ!?」
「安心しろ。貴様らの脂ぎった体なら、少し冷やした方が長生きできるだろう。……連れて行け!」
「寒い! 助けてくれ!」という断末魔が遠ざかっていく。
さようなら。
かつて私を寒空に追いやった彼らは、これからは永遠の寒さの中で罪を償う。
完璧な、因果応報だった。
◇ ◇ ◇
その夜。
私は公爵の寝室にある、巨大なベッドに沈んでいた。
「……アレクセイ様。もう十分温まりましたから、そろそろ……」
「ならん。まだ足りない」
アレクセイは手足のすべてを使って、私を絡め取っていた。
いわゆる「タコさん抱っこ」の状態だ。
「……お前がいなくなったら、俺はどうすればいい」
耳元で、弱々しい声が聞こえた。
「またあの苦しい孤独に戻るのか……? もう無理だ。お前の冷たさを知ってしまったら、もう戻れない」
私は、彼の背中にそっと手を添えた。
指先から伝わる熱は、じんわりと心を溶かす、優しい温もりだった。
「戻らなくていいですよ」
「私も、貴方がいないと駄目なんです。……貴方がいないと、寒くて眠れないんです」
「リリス……」
アレクセイが顔を上げた。
赤い瞳が、熱っぽく私を見つめている。
「……愛している。俺の熱を受け止められるのは、お前だけだ」
「はい。貴方の熱を冷ませるのも、私だけです」
私たちは自然と唇を重ねた。
彼の唇は熱く、私の唇は冷たい。
その温度差が溶け合い、やがて心地よい「適温」になっていく。
(ああ、温かい)
「……ん。リリス、もう一回」
「えっ、まだするんですか? 明日もお仕事が……」
「知るか。俺はまだ熱いんだ。……責任を取って、冷やしてくれ」
甘えたようにすり寄ってくる、巨大な大型犬。
「……はいはい。わかりましたよ、私の旦那様」
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