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第14話 システム崩壊と、最高の再会
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ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!
聖地ヘヴンズ・ゲートの最深部、「白の間」の天井が音を立てて割れた。
そこから溢れ出したのは、目が眩むほどの純白の光。
リセットシステムが強制起動したのだ。
イグナシオ枢機卿の祈りに応え、世界の熱暴走を止めるための最終安全装置――「神の御手」が降臨する。
「見よ! これぞ神の裁きだ!」
イグナシオが狂喜乱舞して叫ぶ。
「世界を浄化するために、全てを無に帰すのだ! さあリリスよ、神の一部となり、その身を捧げよ!」
天井の裂け目から、巨大な「光の手」がゆっくりと降りてきた。
それは実体を持たない、純粋な魔力エネルギーの塊。
触れるものすべてを強制的に冷却し、原子レベルで分解・消滅させる、絶対的な虚無の権化。
その圧倒的な重圧に、アレクセイが私を背に庇うように立った。
「……チッ。デカいな」
彼は舌打ちをして、全身から再び紅蓮の炎を噴き上げた。
「リリス、後ろにいろ。俺が焼き尽くす」
「無理です、アレクセイ様」
私は冷静に告げた。
アレクセイの熱量は凄まじいが、相手は「システムそのもの」だ。
炎を放っても、そのエネルギーごと飲み込まれて冷却されてしまうだろう。
「あれに触れたら、貴方でも消滅します」
「だとしても! お前を渡すわけにはいかん!」
アレクセイが吠える。
光の手は、無慈悲に私たちへと迫ってくる。
逃げ場はない。
イグナシオが高笑いする。
「無駄だ無駄だ! 神の意思は絶対だ! 大人しく飲み込まれろ!」
……うるさいな。
私はため息をつき、アレクセイの腕を引いた。
「アレクセイ様。私を抱きしめてください」
「なっ……今か!?」
「はい。今すぐ、全力で」
私は彼の首に腕を回した。
「貴方の熱と、私の冷却。……二つを混ぜ合わせれば、理論上は『アレ』になります」
「アレ……?」
アレクセイは困惑したが、私の瞳を見て覚悟を決めたらしい。
彼は私を強く抱き寄せた。
「……離すなよ」
「はい」
私たちは、迫り来る神の御手の真下で、強く抱き合った。
ドクン!!
アレクセイの心臓から、爆発的な熱エネルギーが放出される。
同時に、私の体内にある虚無の核が、その熱を猛烈な勢いで吸い込み、中和していく。
プラスの無限大(熱)と、マイナスの無限大(冷却)。
相反する二つの極大エネルギーが衝突し、私たちの周囲に計算不能の特異点が発生する。
そして。
ズズズンッ!!
巨大な光の手が、私たちを押し潰そうと接触した──その瞬間。
ポゥン……。
気の抜けたような音が、部屋全体に響いた。
「……は?」
イグナシオの目が点になる。
私たちに触れた「神の御手」の指先が、まるで綿飴をお湯に入れたように、しゅわしゅわと溶けて消えていくのだ。
「な、なんだ!? 神の力が……消えていく!?」
光の手は、私たちを攻撃するどころか、私たちの周囲に漂う「空気」に触れただけで、満足げに霧散していく。
攻撃的な威圧感が消え、代わりに部屋を満たしたのは──とろけるような、心地よい温もりだった。
「……ふぅ。やっぱり」
私はアレクセイの胸の中で、うっとりと目を細めた。
「アレクセイ様の『灼熱』と、私の『絶対冷却』。二つが混ざり合って、ちょうどいい『ぬるま湯』の結界ができました」
そう。
今の私たちの周囲は、世界で一番居心地の良い「適温フィールド」になっている。
あまりに快適すぎて、神様の粛清プログラムさえも、「あ、ここ気持ちいいな。もう仕事しなくていいや」と戦意喪失してしまったのだ。
「ぬ、ぬるま湯だと……!?」
イグナシオが絶叫する。
「神の裁きが……! 世界のリセットが……! ただの足湯になったというのかぁぁぁッ!!」
「足湯じゃありません。全身浴です」
私は訂正した。
天井の裂け目から降り注いでいた光も、すべて適温のシャワーのように変わり、聖地全体を優しく包み込んでいく。
殺伐としていた「白の間」に、ポカポカとした陽だまりのような空気が満ちる。
「……リリス。これは……」
アレクセイが呆然と周囲を見回す。
「暖かいな。……いや、熱くも寒くもない。……完璧な温度だ」
「でしょう? これが私たちの愛の結晶です」
私は彼を見上げ、にっこりと笑った。
「神様も、この気持ちよさには勝てなかったみたいですね」
ガラガラガラ……ッ!
システムが強制停止した反動で、聖地の結界が崩壊を始めた。
イグナシオが頭を抱えて座り込む。
「終わった……。教会の威信が……。神の計画が……。こんな、こんなふざけた夫婦の戯れで……ッ!」
天井が崩れ落ち、青空が見えた。
降り注ぐ瓦礫さえも、私たちの「ぬるま湯結界」に触れると、ふわふわとした花びらのように変わって落ちてくる。
物理法則が仕事放棄している。
愛は、神の理よりも強し。
「帰りましょう、アレクセイ様」
私は彼の頬にキスをした。
「私たちの家に。……あそこが一番、温度調節がしやすいですから」
「……ああ。そうだな」
アレクセイは、崩れゆく聖地を背に、私を軽々とお姫様抱っこした。
その顔には、もう魔神のような狂気はない。
あるのは、世界一幸せな夫の、蕩けるような笑顔だけだった。
「離すなよ、リリス」
「ええ。一生、離しません」
こうして。
世界の危機は、夫婦の「ちょうどいい湯加減」によって、あっさりと水に流されたのだった。
(続く)
聖地ヘヴンズ・ゲートの最深部、「白の間」の天井が音を立てて割れた。
そこから溢れ出したのは、目が眩むほどの純白の光。
リセットシステムが強制起動したのだ。
イグナシオ枢機卿の祈りに応え、世界の熱暴走を止めるための最終安全装置――「神の御手」が降臨する。
「見よ! これぞ神の裁きだ!」
イグナシオが狂喜乱舞して叫ぶ。
「世界を浄化するために、全てを無に帰すのだ! さあリリスよ、神の一部となり、その身を捧げよ!」
天井の裂け目から、巨大な「光の手」がゆっくりと降りてきた。
それは実体を持たない、純粋な魔力エネルギーの塊。
触れるものすべてを強制的に冷却し、原子レベルで分解・消滅させる、絶対的な虚無の権化。
その圧倒的な重圧に、アレクセイが私を背に庇うように立った。
「……チッ。デカいな」
彼は舌打ちをして、全身から再び紅蓮の炎を噴き上げた。
「リリス、後ろにいろ。俺が焼き尽くす」
「無理です、アレクセイ様」
私は冷静に告げた。
アレクセイの熱量は凄まじいが、相手は「システムそのもの」だ。
炎を放っても、そのエネルギーごと飲み込まれて冷却されてしまうだろう。
「あれに触れたら、貴方でも消滅します」
「だとしても! お前を渡すわけにはいかん!」
アレクセイが吠える。
光の手は、無慈悲に私たちへと迫ってくる。
逃げ場はない。
イグナシオが高笑いする。
「無駄だ無駄だ! 神の意思は絶対だ! 大人しく飲み込まれろ!」
……うるさいな。
私はため息をつき、アレクセイの腕を引いた。
「アレクセイ様。私を抱きしめてください」
「なっ……今か!?」
「はい。今すぐ、全力で」
私は彼の首に腕を回した。
「貴方の熱と、私の冷却。……二つを混ぜ合わせれば、理論上は『アレ』になります」
「アレ……?」
アレクセイは困惑したが、私の瞳を見て覚悟を決めたらしい。
彼は私を強く抱き寄せた。
「……離すなよ」
「はい」
私たちは、迫り来る神の御手の真下で、強く抱き合った。
ドクン!!
アレクセイの心臓から、爆発的な熱エネルギーが放出される。
同時に、私の体内にある虚無の核が、その熱を猛烈な勢いで吸い込み、中和していく。
プラスの無限大(熱)と、マイナスの無限大(冷却)。
相反する二つの極大エネルギーが衝突し、私たちの周囲に計算不能の特異点が発生する。
そして。
ズズズンッ!!
巨大な光の手が、私たちを押し潰そうと接触した──その瞬間。
ポゥン……。
気の抜けたような音が、部屋全体に響いた。
「……は?」
イグナシオの目が点になる。
私たちに触れた「神の御手」の指先が、まるで綿飴をお湯に入れたように、しゅわしゅわと溶けて消えていくのだ。
「な、なんだ!? 神の力が……消えていく!?」
光の手は、私たちを攻撃するどころか、私たちの周囲に漂う「空気」に触れただけで、満足げに霧散していく。
攻撃的な威圧感が消え、代わりに部屋を満たしたのは──とろけるような、心地よい温もりだった。
「……ふぅ。やっぱり」
私はアレクセイの胸の中で、うっとりと目を細めた。
「アレクセイ様の『灼熱』と、私の『絶対冷却』。二つが混ざり合って、ちょうどいい『ぬるま湯』の結界ができました」
そう。
今の私たちの周囲は、世界で一番居心地の良い「適温フィールド」になっている。
あまりに快適すぎて、神様の粛清プログラムさえも、「あ、ここ気持ちいいな。もう仕事しなくていいや」と戦意喪失してしまったのだ。
「ぬ、ぬるま湯だと……!?」
イグナシオが絶叫する。
「神の裁きが……! 世界のリセットが……! ただの足湯になったというのかぁぁぁッ!!」
「足湯じゃありません。全身浴です」
私は訂正した。
天井の裂け目から降り注いでいた光も、すべて適温のシャワーのように変わり、聖地全体を優しく包み込んでいく。
殺伐としていた「白の間」に、ポカポカとした陽だまりのような空気が満ちる。
「……リリス。これは……」
アレクセイが呆然と周囲を見回す。
「暖かいな。……いや、熱くも寒くもない。……完璧な温度だ」
「でしょう? これが私たちの愛の結晶です」
私は彼を見上げ、にっこりと笑った。
「神様も、この気持ちよさには勝てなかったみたいですね」
ガラガラガラ……ッ!
システムが強制停止した反動で、聖地の結界が崩壊を始めた。
イグナシオが頭を抱えて座り込む。
「終わった……。教会の威信が……。神の計画が……。こんな、こんなふざけた夫婦の戯れで……ッ!」
天井が崩れ落ち、青空が見えた。
降り注ぐ瓦礫さえも、私たちの「ぬるま湯結界」に触れると、ふわふわとした花びらのように変わって落ちてくる。
物理法則が仕事放棄している。
愛は、神の理よりも強し。
「帰りましょう、アレクセイ様」
私は彼の頬にキスをした。
「私たちの家に。……あそこが一番、温度調節がしやすいですから」
「……ああ。そうだな」
アレクセイは、崩れゆく聖地を背に、私を軽々とお姫様抱っこした。
その顔には、もう魔神のような狂気はない。
あるのは、世界一幸せな夫の、蕩けるような笑顔だけだった。
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こうして。
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(続く)
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