1 / 39
第1話 勇者のカードが止まった日、会計係は定時で帰る
しおりを挟む
[聖暦1024/09/30 19:00] システム警告ログ
―――――――――――――――――――
【重要】装備機能停止のお知らせ
対象装備:聖剣『エターナル・ブレイブ(型番EB-05)』
エラーコード: 402 Payment Required
内容: 月額利用料(サブスクリプション)の未払いが確認されました。
措置: 直ちに【なまくらモード】へ移行します。
▼ 攻撃力(ATK)推移
[Before] ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓
(9999)
↓
[After ] ▓
(1)
※再稼働には、未払い分を含む36ヶ月分の利用料を一括でお支払いください。
―――――――――――――――――――
ダンジョンの最深部。
伝説のドラゴンと対峙していた勇者アルヴィンは、間の抜けた音を聞いた。
――キュイーン、プスン。
黄金に輝いていた聖剣の光が消え、みるみるうちに赤茶けた錆に覆われていく。
「は? なんだこれ」
アルヴィンは剣を振るが、ドラゴンの鱗に当たった瞬間、ボキリと音を立てて折れた。
ただの鉄屑だ。
「おいクリフ! 聖剣の調子が悪いぞ! 予備の剣を出せ!」
勇者は背後に向かって叫んだ。
いつもなら、荷物持ち兼・会計係の男が、すぐに手入れされた予備の武器を差し出すはずだ。
だが、そこには誰もいなかった。
ただ、冷たい風が吹いているだけだ。
「……あ? そういえば」
アルヴィンは、ドラゴンのブレスを顔面に受けながら思い出した。
「あいつ、昼間にクビにしたんだったわ」
◇
同時刻。
王都から遠く離れた「魔王城」。
その最上階にある社員食堂で、私は感動に打ち震えていた。
「う、うまい……っ!」
私の目の前には、湯気を立てるビーフシチュー、焼きたてのパン、そして新鮮なサラダが並んでいる。
「これが……『温かい食事』……!」
Sランクパーティ『ソウル・ブレイブ』にいた頃の食事は、ひどいものだった。
移動中は「時間の無駄だ」と言われて干し肉を齧り、宿屋では「俺は勇者だからスイートだが、お前は馬小屋でいいだろ」と冷遇された。
それがどうだ。
ここ魔王軍の食堂は、福利厚生の一環で【全メニュー無料】だという。
「気に入ってくれたみたいで何よりだ、クリフ」
向かいの席で、ニシシと笑う少女がいる。
銀髪に、ぴょこんと生えた猫耳。パーカーを着崩した彼女こそ、魔王軍の技術トップにして、私の採用を決めた直属の上司、アリスだ。
「でも驚いたよ。勇者パーティをクビになった瞬間、ウチの採用面接に来るなんて」
「ええ。実は半年前から、転職サイト『魔族ナビ』で御社の求人をチェックしていましたから」
私はパンを頬張りながら、数時間前の出来事を思い出す。
◇
――数時間前。ギルド会議室。
「というわけでクリフ、お前クビな」
勇者アルヴィンは、足を机に投げ出しながら言った。
「理由? うーん、お前さぁ、『経費削減』とか『領収書』とか、細かいことうるさいんだわ。冒険はロマンだろ? ケチくさい奴がいるとテンション下がるんだよね」
隣に侍る聖女ミナが「キャハハ、うけるー」と笑う。
普通なら、ここで「待ってください!」とすがりつく場面かもしれない。
だが、私は食い気味に答えた。
「承知いたしました。では、今この瞬間をもって退職します」
「え?」
アルヴィンがポカンと口を開ける。
「引き継ぎは? 未払いの給料は?」
「不要です。未払い分については……まあ、【別の形】で回収させていただきますので」
私は満面の笑みで辞表(すでに書いてあった)を叩きつけ、会議室を飛び出した。
廊下に出た瞬間、私はガッツポーズをした。
「よっしゃあああああ! 自由だあああ!」
そのままギルドの出口へ走りながら、私は魔導石板を取り出し、指先が見えない速度でタップした。
[聖暦1024/09/30 14:15] タスク実行ログ
―――――――――――――――――――
▼ 対象:勇者パーティ関連契約
[x] ポーション定期便:解約(即時)
[x] 宿屋VIP契約:解約(違約金は勇者負担)
[x] 聖剣サブスク:停止(支払い拒否設定)
[x] 国税局への修正申告:送信(Send)
Status: All Tasks Completed.
―――――――――――――――――――
「あばよ勇者! 明日から宿の予約も、税金の計算も、全部自分でやるんだな!」
◇
「……というわけで、最高の気分でここに来たわけです」
私はシチューを完食し、食後のコーヒー(これも無料!)を啜った。
アリスが呆れたように猫耳を揺らす。
「あんたも性格悪いねぇ。勇者くん、今頃どうなってると思う?」
「さあ? 私の計算では、まず聖剣が鉄屑になり、次に宿屋から追い出され、最後には……『ある物』が届かなくて詰むはずです」
「ある物?」
私はニヤリと笑い、石板の画面を見せた。
「アルヴィンは、ダンジョンの入場手続きを私に丸投げしていました。彼、知らないんですよ」
「何を?」
「Sランクダンジョンに入るには、3日前までに『入山届』を役所にFAXしないといけないってことを」
◇
再び、ダンジョン最深部。
武器を失い、ボロボロになったアルヴィンの前に、無慈悲なシステムウィンドウが出現した。
[System Warning] ダンジョン管理システム
―――――――――――――――――――
【警告】入山届の未提出
貴殿のダンジョン攻略は、正規の手続きを経ていません。
▼ 措置執行
1. クエスト達成報酬の没収(→ 0マナ)
2. 強制転移(強制退去)の執行
3. ギルドへの不法行為通報(→ 送信完了)
―――――――――――――――――――
「はあああ!? FAXぅ!? なんだそれ! クリフがやってたんじゃねえのかよ!」
勇者の叫びも虚しく、彼の体は光に包まれた。
強制送還。
行き先は、王都のギルド本部――説教待ちの支部長の前だ。
その頃、私は魔王城のふかふかのベッドで、アリスと共に新作ゲームを起動していた。
「さーて、今日は定時上がりだ。とことん遊ぶぞ」
「賛成。ポテチも開けちゃおう」
私のホワイトな第二の人生は、まだ始まったばかりだ。
(続く)
[System Notification] 次回予告
―――――――――――――――――――
勇者「宿屋の朝食がパンの耳だけなんだが?」
クリフ「VIPプランを解約したので、それは『素泊まりプラン』のサービスですね」
次回、衣食住のレベルが地に落ちた勇者が、逆ギレしてクリフに連絡してくるが……?
―――――――――――――――――――
【重要】装備機能停止のお知らせ
対象装備:聖剣『エターナル・ブレイブ(型番EB-05)』
エラーコード: 402 Payment Required
内容: 月額利用料(サブスクリプション)の未払いが確認されました。
措置: 直ちに【なまくらモード】へ移行します。
▼ 攻撃力(ATK)推移
[Before] ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓
(9999)
↓
[After ] ▓
(1)
※再稼働には、未払い分を含む36ヶ月分の利用料を一括でお支払いください。
―――――――――――――――――――
ダンジョンの最深部。
伝説のドラゴンと対峙していた勇者アルヴィンは、間の抜けた音を聞いた。
――キュイーン、プスン。
黄金に輝いていた聖剣の光が消え、みるみるうちに赤茶けた錆に覆われていく。
「は? なんだこれ」
アルヴィンは剣を振るが、ドラゴンの鱗に当たった瞬間、ボキリと音を立てて折れた。
ただの鉄屑だ。
「おいクリフ! 聖剣の調子が悪いぞ! 予備の剣を出せ!」
勇者は背後に向かって叫んだ。
いつもなら、荷物持ち兼・会計係の男が、すぐに手入れされた予備の武器を差し出すはずだ。
だが、そこには誰もいなかった。
ただ、冷たい風が吹いているだけだ。
「……あ? そういえば」
アルヴィンは、ドラゴンのブレスを顔面に受けながら思い出した。
「あいつ、昼間にクビにしたんだったわ」
◇
同時刻。
王都から遠く離れた「魔王城」。
その最上階にある社員食堂で、私は感動に打ち震えていた。
「う、うまい……っ!」
私の目の前には、湯気を立てるビーフシチュー、焼きたてのパン、そして新鮮なサラダが並んでいる。
「これが……『温かい食事』……!」
Sランクパーティ『ソウル・ブレイブ』にいた頃の食事は、ひどいものだった。
移動中は「時間の無駄だ」と言われて干し肉を齧り、宿屋では「俺は勇者だからスイートだが、お前は馬小屋でいいだろ」と冷遇された。
それがどうだ。
ここ魔王軍の食堂は、福利厚生の一環で【全メニュー無料】だという。
「気に入ってくれたみたいで何よりだ、クリフ」
向かいの席で、ニシシと笑う少女がいる。
銀髪に、ぴょこんと生えた猫耳。パーカーを着崩した彼女こそ、魔王軍の技術トップにして、私の採用を決めた直属の上司、アリスだ。
「でも驚いたよ。勇者パーティをクビになった瞬間、ウチの採用面接に来るなんて」
「ええ。実は半年前から、転職サイト『魔族ナビ』で御社の求人をチェックしていましたから」
私はパンを頬張りながら、数時間前の出来事を思い出す。
◇
――数時間前。ギルド会議室。
「というわけでクリフ、お前クビな」
勇者アルヴィンは、足を机に投げ出しながら言った。
「理由? うーん、お前さぁ、『経費削減』とか『領収書』とか、細かいことうるさいんだわ。冒険はロマンだろ? ケチくさい奴がいるとテンション下がるんだよね」
隣に侍る聖女ミナが「キャハハ、うけるー」と笑う。
普通なら、ここで「待ってください!」とすがりつく場面かもしれない。
だが、私は食い気味に答えた。
「承知いたしました。では、今この瞬間をもって退職します」
「え?」
アルヴィンがポカンと口を開ける。
「引き継ぎは? 未払いの給料は?」
「不要です。未払い分については……まあ、【別の形】で回収させていただきますので」
私は満面の笑みで辞表(すでに書いてあった)を叩きつけ、会議室を飛び出した。
廊下に出た瞬間、私はガッツポーズをした。
「よっしゃあああああ! 自由だあああ!」
そのままギルドの出口へ走りながら、私は魔導石板を取り出し、指先が見えない速度でタップした。
[聖暦1024/09/30 14:15] タスク実行ログ
―――――――――――――――――――
▼ 対象:勇者パーティ関連契約
[x] ポーション定期便:解約(即時)
[x] 宿屋VIP契約:解約(違約金は勇者負担)
[x] 聖剣サブスク:停止(支払い拒否設定)
[x] 国税局への修正申告:送信(Send)
Status: All Tasks Completed.
―――――――――――――――――――
「あばよ勇者! 明日から宿の予約も、税金の計算も、全部自分でやるんだな!」
◇
「……というわけで、最高の気分でここに来たわけです」
私はシチューを完食し、食後のコーヒー(これも無料!)を啜った。
アリスが呆れたように猫耳を揺らす。
「あんたも性格悪いねぇ。勇者くん、今頃どうなってると思う?」
「さあ? 私の計算では、まず聖剣が鉄屑になり、次に宿屋から追い出され、最後には……『ある物』が届かなくて詰むはずです」
「ある物?」
私はニヤリと笑い、石板の画面を見せた。
「アルヴィンは、ダンジョンの入場手続きを私に丸投げしていました。彼、知らないんですよ」
「何を?」
「Sランクダンジョンに入るには、3日前までに『入山届』を役所にFAXしないといけないってことを」
◇
再び、ダンジョン最深部。
武器を失い、ボロボロになったアルヴィンの前に、無慈悲なシステムウィンドウが出現した。
[System Warning] ダンジョン管理システム
―――――――――――――――――――
【警告】入山届の未提出
貴殿のダンジョン攻略は、正規の手続きを経ていません。
▼ 措置執行
1. クエスト達成報酬の没収(→ 0マナ)
2. 強制転移(強制退去)の執行
3. ギルドへの不法行為通報(→ 送信完了)
―――――――――――――――――――
「はあああ!? FAXぅ!? なんだそれ! クリフがやってたんじゃねえのかよ!」
勇者の叫びも虚しく、彼の体は光に包まれた。
強制送還。
行き先は、王都のギルド本部――説教待ちの支部長の前だ。
その頃、私は魔王城のふかふかのベッドで、アリスと共に新作ゲームを起動していた。
「さーて、今日は定時上がりだ。とことん遊ぶぞ」
「賛成。ポテチも開けちゃおう」
私のホワイトな第二の人生は、まだ始まったばかりだ。
(続く)
[System Notification] 次回予告
―――――――――――――――――――
勇者「宿屋の朝食がパンの耳だけなんだが?」
クリフ「VIPプランを解約したので、それは『素泊まりプラン』のサービスですね」
次回、衣食住のレベルが地に落ちた勇者が、逆ギレしてクリフに連絡してくるが……?
1
あなたにおすすめの小説
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。
結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」
「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」
「ま、まってくださ……!」
「誰が待つかよバーーーーーカ!」
「そっちは危な……っあ」
妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる