19 / 39
第19話 ダンジョン・リノベーション ~殺意高めのトラップを撤去し、課金アイテムショップを設置せよ~
しおりを挟む
「……クリフよ。これは何だ?」
魔王城・第一階層。
視察に訪れた魔王ゼノンが、目の前の光景に絶句していた。
かつてそこは、侵入者を串刺しにする『死の落とし穴』があった場所だ。
しかし今、そこには極彩色のライトが点滅し、軽快なサンバのリズムが流れている。
「何って……『ウォータースライダー』ですが?」
私は石版を見ながら平然と答えた。
「従来のような『底に槍を設置した落とし穴』は、清掃コストがかさむ上に、装備品(戦利品)が破損するリスクがありました。そこで――」
その時。
上階から「うわぁぁぁぁ!」という悲鳴と共に、鎧姿の冒険者たちが落ちてきた。
ヒュゥゥゥ……バシャァァン!
彼らが落ちた先は、槍の山ではなく、なめらかな流水が流れるチューブの中だった。
「ひ、ひぃぃぃ……死ぬぅぅ……あれ? 死なない?」
「うおおおお! なんだこれ速ぇぇぇ!」
冒険者たちが猛スピードでチューブを滑り降り、360度ループを回転し、最後に地下二階の巨大なプールへとダイブした。
――カシャッ! カシャッ!
着水の瞬間、魔法フラッシュが焚かれる。
「ようこそ、魔王城ダンジョンへ! 今の『絶叫フェイス』、記念写真として一枚5000マナで販売中ダヨ!」
プールサイドでは、アロハシャツを着たスケルトンたちが、現像したての写真を売りつけていた。
「は、はい! 買います! 記念に買います!」
興奮冷めやらぬ冒険者たちが、次々と財布の紐を緩めていく。
「……ご覧の通りです、社長」
私はゼノンに向き直り、眼鏡を光らせた。
「殺してしまえば、奪えるのは『所持金』だけ。しかし、こうして生かして楽しませれば、彼らは『所持金』に加え『借金』をしてでもリピートしてくれます。これがLTV(顧客生涯価値)の最大化です」
「む、むぅ……。確かに儲かってはおるが……魔王軍の威厳が……」
ゼノンが複雑な顔をするが、改革はこれだけではない。
◇
続いて訪れたのは、中層エリア。
かつて巨大な鉄球が振り子のように襲いかかる『処刑通路』だった場所だ。
「ここも改良しました」
ゴォォォォ……ッ!
巨大な鉄球が迫る。冒険者たちが「あぶねぇ!」と叫んで伏せる。
しかし、鉄球は彼らの鼻先数センチでピタリと止まり、パカッと割れた。
『――コングラチュレーション! 大当たりダヨ!』
中から出てきたのは、大量の紙吹雪とファンファーレ。
そして、『ボーナス・ステージ突入』の文字。
「……トラップを『イベント演出』に変えました。この鉄球に触れると、別室の『カジノ・ルーム』に強制転送されます」
「カジノ……?」
「はい。スライムレースやポーカーで、彼らの装備を賭けさせます。……もちろん、勝率は当社側でコントロール済みですが」
私は手元の端末で、現在の収益ログを確認した。
[Dungeon Report] ダンジョン収益監査
────────────────────
▼ 旧モデル(略奪型)
客単価: 500 マナ(所持金のみ)
生存率: 5%
リピート率: 0%(死ぬので)
↓
▼ 新モデル(テーマパーク型)
客単価: 50,000 マナ(グッズ・飲食・写真代)
生存率: 100%
リピート率: 80%(「次はクリアするぞ!」と再来店)
────────────────────
「素晴らしい……。血を見ることなく、彼らの資産だけを骨の髄まで吸い上げている」
◇
そして、最深部。
かつて魔王ゼノンが座っていた玉座の間は、今や巨大な『課金アイテムショップ』に変貌していた。
「ようこそ冒険者様! ボスに勝てなくてお困りですか?」
カウンターに立つのは、バニーガール姿のサキュバス(元・情報部員ルルちゃん)だ。
「そんな貴方に『救済措置(Pay to Win)』!
この『魔王特製・弱体化ポーション』をボスに投げつければ、5分間だけ攻撃力が半減します! 今ならなんと10万マナ!……さらに10連ガチャチケット(ノーマル限定)付きで実質タダ!」
「か、買います! これがあれば勝てる!」
ボロボロになった冒険者たちが、涙を流してアイテムを購入していく。
その様子をバックヤードで見ながら、ゼノンが深い溜息をついた。
「……クリフよ。余は、手加減してやっている上に、金(カネ)の力で弱体化させられるのか?」
「はい。それが『接待(エンタメ)』です」
私は社長の肩を叩いた。
「ご安心を。彼らが倒すのは、貴方の精巧な影武者(泥人形)です。……そしてドロップアイテムは」
私が指差した先には、巨大な『ガチャ筐体』が設置されていた。
───────────────────
【ボス討伐報酬ガチャ】
1回:1万マナ
[N ] 薬草(確率 95.0%)
[R ] 銅の剣(確率 4.9%)
[SSR] 伝説の聖剣(確率 0.099%)
[UR ] 1/20 天使のアリスたん(確率 0.001%)
※シークレット! 社長秘蔵のハンドメイド品!
───────────────────
「ぶふっ!? ク、クリフ! あれは余が夜なべして作った世界に一つの試作品ではないか! なぜ入っている!?」
ゼノンが目を剥いて食いつく。
私は涼しい顔で答えた。
「『聖剣』だけでは釣れませんからね。……ああいう『コアなファン向け』の激レアアイテムを混ぜることで、コレクター気質の冒険者を沼に引きずり込む(課金させる)のです」
「き、貴様ぁぁ! あれは余の宝物だぞ! 誰にも渡さん!」
「ご安心ください。確率は0.001%。……数億マナ使っても出るかどうかの確率設定(渋い仕様)にしてあります」
「……な、ならばよし!」
こうして魔王城は、恐怖のダンジョンから、魔界一の集金システムへと生まれ変わった。
冒険者たちは口々にこう言って帰っていく。
「あー楽しかった(財布は空だけど)!」「次は絶対アリスたんフィギュア出すぞ!」
――平和的かつ、悪魔的な搾取。
これこそが、株式会社デーモン・HDの真骨頂である。
(続く)
[System Notification] 次回予告
―――――――――――――――――――
クリフ「順調ですね。……ですが、一つ問題があります」
ゼノン「なんだ? 客からのクレームか?」
クリフ「いいえ。……我が社の元・ブラック企業出身の従業員(ゾンビ)たちが、『有給休暇』の使い方を知らずに戸惑っています」
次回、『ゾンビに有給を取らせたら、墓場で二度寝を始めました』
魔王城・第一階層。
視察に訪れた魔王ゼノンが、目の前の光景に絶句していた。
かつてそこは、侵入者を串刺しにする『死の落とし穴』があった場所だ。
しかし今、そこには極彩色のライトが点滅し、軽快なサンバのリズムが流れている。
「何って……『ウォータースライダー』ですが?」
私は石版を見ながら平然と答えた。
「従来のような『底に槍を設置した落とし穴』は、清掃コストがかさむ上に、装備品(戦利品)が破損するリスクがありました。そこで――」
その時。
上階から「うわぁぁぁぁ!」という悲鳴と共に、鎧姿の冒険者たちが落ちてきた。
ヒュゥゥゥ……バシャァァン!
彼らが落ちた先は、槍の山ではなく、なめらかな流水が流れるチューブの中だった。
「ひ、ひぃぃぃ……死ぬぅぅ……あれ? 死なない?」
「うおおおお! なんだこれ速ぇぇぇ!」
冒険者たちが猛スピードでチューブを滑り降り、360度ループを回転し、最後に地下二階の巨大なプールへとダイブした。
――カシャッ! カシャッ!
着水の瞬間、魔法フラッシュが焚かれる。
「ようこそ、魔王城ダンジョンへ! 今の『絶叫フェイス』、記念写真として一枚5000マナで販売中ダヨ!」
プールサイドでは、アロハシャツを着たスケルトンたちが、現像したての写真を売りつけていた。
「は、はい! 買います! 記念に買います!」
興奮冷めやらぬ冒険者たちが、次々と財布の紐を緩めていく。
「……ご覧の通りです、社長」
私はゼノンに向き直り、眼鏡を光らせた。
「殺してしまえば、奪えるのは『所持金』だけ。しかし、こうして生かして楽しませれば、彼らは『所持金』に加え『借金』をしてでもリピートしてくれます。これがLTV(顧客生涯価値)の最大化です」
「む、むぅ……。確かに儲かってはおるが……魔王軍の威厳が……」
ゼノンが複雑な顔をするが、改革はこれだけではない。
◇
続いて訪れたのは、中層エリア。
かつて巨大な鉄球が振り子のように襲いかかる『処刑通路』だった場所だ。
「ここも改良しました」
ゴォォォォ……ッ!
巨大な鉄球が迫る。冒険者たちが「あぶねぇ!」と叫んで伏せる。
しかし、鉄球は彼らの鼻先数センチでピタリと止まり、パカッと割れた。
『――コングラチュレーション! 大当たりダヨ!』
中から出てきたのは、大量の紙吹雪とファンファーレ。
そして、『ボーナス・ステージ突入』の文字。
「……トラップを『イベント演出』に変えました。この鉄球に触れると、別室の『カジノ・ルーム』に強制転送されます」
「カジノ……?」
「はい。スライムレースやポーカーで、彼らの装備を賭けさせます。……もちろん、勝率は当社側でコントロール済みですが」
私は手元の端末で、現在の収益ログを確認した。
[Dungeon Report] ダンジョン収益監査
────────────────────
▼ 旧モデル(略奪型)
客単価: 500 マナ(所持金のみ)
生存率: 5%
リピート率: 0%(死ぬので)
↓
▼ 新モデル(テーマパーク型)
客単価: 50,000 マナ(グッズ・飲食・写真代)
生存率: 100%
リピート率: 80%(「次はクリアするぞ!」と再来店)
────────────────────
「素晴らしい……。血を見ることなく、彼らの資産だけを骨の髄まで吸い上げている」
◇
そして、最深部。
かつて魔王ゼノンが座っていた玉座の間は、今や巨大な『課金アイテムショップ』に変貌していた。
「ようこそ冒険者様! ボスに勝てなくてお困りですか?」
カウンターに立つのは、バニーガール姿のサキュバス(元・情報部員ルルちゃん)だ。
「そんな貴方に『救済措置(Pay to Win)』!
この『魔王特製・弱体化ポーション』をボスに投げつければ、5分間だけ攻撃力が半減します! 今ならなんと10万マナ!……さらに10連ガチャチケット(ノーマル限定)付きで実質タダ!」
「か、買います! これがあれば勝てる!」
ボロボロになった冒険者たちが、涙を流してアイテムを購入していく。
その様子をバックヤードで見ながら、ゼノンが深い溜息をついた。
「……クリフよ。余は、手加減してやっている上に、金(カネ)の力で弱体化させられるのか?」
「はい。それが『接待(エンタメ)』です」
私は社長の肩を叩いた。
「ご安心を。彼らが倒すのは、貴方の精巧な影武者(泥人形)です。……そしてドロップアイテムは」
私が指差した先には、巨大な『ガチャ筐体』が設置されていた。
───────────────────
【ボス討伐報酬ガチャ】
1回:1万マナ
[N ] 薬草(確率 95.0%)
[R ] 銅の剣(確率 4.9%)
[SSR] 伝説の聖剣(確率 0.099%)
[UR ] 1/20 天使のアリスたん(確率 0.001%)
※シークレット! 社長秘蔵のハンドメイド品!
───────────────────
「ぶふっ!? ク、クリフ! あれは余が夜なべして作った世界に一つの試作品ではないか! なぜ入っている!?」
ゼノンが目を剥いて食いつく。
私は涼しい顔で答えた。
「『聖剣』だけでは釣れませんからね。……ああいう『コアなファン向け』の激レアアイテムを混ぜることで、コレクター気質の冒険者を沼に引きずり込む(課金させる)のです」
「き、貴様ぁぁ! あれは余の宝物だぞ! 誰にも渡さん!」
「ご安心ください。確率は0.001%。……数億マナ使っても出るかどうかの確率設定(渋い仕様)にしてあります」
「……な、ならばよし!」
こうして魔王城は、恐怖のダンジョンから、魔界一の集金システムへと生まれ変わった。
冒険者たちは口々にこう言って帰っていく。
「あー楽しかった(財布は空だけど)!」「次は絶対アリスたんフィギュア出すぞ!」
――平和的かつ、悪魔的な搾取。
これこそが、株式会社デーモン・HDの真骨頂である。
(続く)
[System Notification] 次回予告
―――――――――――――――――――
クリフ「順調ですね。……ですが、一つ問題があります」
ゼノン「なんだ? 客からのクレームか?」
クリフ「いいえ。……我が社の元・ブラック企業出身の従業員(ゾンビ)たちが、『有給休暇』の使い方を知らずに戸惑っています」
次回、『ゾンビに有給を取らせたら、墓場で二度寝を始めました』
0
あなたにおすすめの小説
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。
結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」
「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」
「ま、まってくださ……!」
「誰が待つかよバーーーーーカ!」
「そっちは危な……っあ」
妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる