勇者様、装備のサブスク料金が未払いなので、その聖剣は今からただの鉄屑です。『追放された会計係、実は世界経済を裏で操る『監査の魔王』だった件』

あとりえむ

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第19話 ダンジョン・リノベーション ~殺意高めのトラップを撤去し、課金アイテムショップを設置せよ~

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「……クリフよ。これは何だ?」

 魔王城・第一階層。
 視察に訪れた魔王ゼノンが、目の前の光景に絶句していた。

 かつてそこは、侵入者を串刺しにする『死の落とし穴』があった場所だ。
 しかし今、そこには極彩色のライトが点滅し、軽快なサンバのリズムが流れている。

「何って……『ウォータースライダー』ですが?」

 私は石版スレートを見ながら平然と答えた。

「従来のような『底に槍を設置した落とし穴』は、清掃コストがかさむ上に、装備品(戦利品)が破損するリスクがありました。そこで――」

 その時。
 上階から「うわぁぁぁぁ!」という悲鳴と共に、鎧姿の冒険者たちが落ちてきた。

 ヒュゥゥゥ……バシャァァン!

 彼らが落ちた先は、槍の山ではなく、なめらかな流水が流れるチューブの中だった。

「ひ、ひぃぃぃ……死ぬぅぅ……あれ? 死なない?」

「うおおおお! なんだこれ速ぇぇぇ!」

 冒険者たちが猛スピードでチューブを滑り降り、360度ループを回転し、最後に地下二階の巨大なプールへとダイブした。

 ――カシャッ! カシャッ!

 着水の瞬間、魔法フラッシュが焚かれる。

「ようこそ、魔王城ダンジョンへ! 今の『絶叫フェイス』、記念写真として一枚5000マナで販売中ダヨ!」

 プールサイドでは、アロハシャツを着たスケルトンたちが、現像したての写真を売りつけていた。

「は、はい! 買います! 記念に買います!」

 興奮冷めやらぬ冒険者たちが、次々と財布の紐を緩めていく。

「……ご覧の通りです、社長」

 私はゼノンに向き直り、眼鏡を光らせた。

「殺してしまえば、奪えるのは『所持金』だけ。しかし、こうして生かして楽しませれば、彼らは『所持金』に加え『借金』をしてでもリピートしてくれます。これがLTV(顧客生涯価値)の最大化です」

「む、むぅ……。確かに儲かってはおるが……魔王軍の威厳が……」

 ゼノンが複雑な顔をするが、改革はこれだけではない。

 ◇

 続いて訪れたのは、中層エリア。
 かつて巨大な鉄球が振り子のように襲いかかる『処刑通路』だった場所だ。

「ここも改良しました」

 ゴォォォォ……ッ!

 巨大な鉄球が迫る。冒険者たちが「あぶねぇ!」と叫んで伏せる。
 しかし、鉄球は彼らの鼻先数センチでピタリと止まり、パカッと割れた。

『――コングラチュレーション! 大当たりダヨ!』

 中から出てきたのは、大量の紙吹雪とファンファーレ。
 そして、『ボーナス・ステージ突入』の文字。

「……トラップを『イベント演出』に変えました。この鉄球に触れると、別室の『カジノ・ルーム』に強制転送されます」

「カジノ……?」

「はい。スライムレースやポーカーで、彼らの装備を賭けさせます。……もちろん、勝率は当社側でコントロール済みですが」

 私は手元の端末で、現在の収益ログを確認した。


[Dungeon Report] ダンジョン収益監査REVENUE_AUDIT
────────────────────
▼ 旧モデル(略奪型)
客単価: 500 マナ(所持金のみ)
生存率: 5%
リピート率: 0%(死ぬので)
 ↓
▼ 新モデル(テーマパーク型)
客単価: 50,000 マナ(グッズ・飲食・写真代)
生存率: 100%
リピート率: 80%(「次はクリアするぞ!」と再来店)
────────────────────


「素晴らしい……。血を見ることなく、彼らの資産だけを骨の髄まで吸い上げている」

 ◇

 そして、最深部。
 かつて魔王ゼノンが座っていた玉座の間は、今や巨大な『課金アイテムショップ』に変貌していた。

「ようこそ冒険者様! ボスに勝てなくてお困りですか?」

 カウンターに立つのは、バニーガール姿のサキュバス(元・情報部員ルルちゃん)だ。

「そんな貴方に『救済措置(Pay to Win)』! 

この『魔王特製・弱体化ポーション』をボスに投げつければ、5分間だけ攻撃力が半減します! 今ならなんと10万マナ!……さらに10連ガチャチケット(ノーマル限定)付きで実質タダ!」

「か、買います! これがあれば勝てる!」

 ボロボロになった冒険者たちが、涙を流してアイテムを購入していく。
 その様子をバックヤードで見ながら、ゼノンが深い溜息をついた。

「……クリフよ。余は、手加減してやっている上に、金(カネ)の力で弱体化させられるのか?」

「はい。それが『接待(エンタメ)』です」

 私は社長の肩を叩いた。

「ご安心を。彼らが倒すのは、貴方の精巧な影武者(泥人形)です。……そしてドロップアイテムは」

 私が指差した先には、巨大な『ガチャ筐体』が設置されていた。


───────────────────
【ボス討伐報酬ガチャ】
1回:1万マナ

[N  ] 薬草(確率 95.0%)
[R  ] 銅の剣(確率 4.9%)
[SSR] 伝説の聖剣(確率 0.099%)
[UR ] 1/20 天使のアリスたん(確率 0.001%)
※シークレット! 社長秘蔵のハンドメイド品!
───────────────────


「ぶふっ!? ク、クリフ! あれは余が夜なべして作った世界に一つの試作品ではないか! なぜ入っている!?」

 ゼノンが目を剥いて食いつく。
 私は涼しい顔で答えた。

「『聖剣』だけでは釣れませんからね。……ああいう『コアなファン向け』の激レアアイテムを混ぜることで、コレクター気質の冒険者を沼に引きずり込む(課金させる)のです」

「き、貴様ぁぁ! あれは余の宝物だぞ! 誰にも渡さん!」

「ご安心ください。確率は0.001%。……数億マナ使っても出るかどうかの確率設定(渋い仕様)にしてあります」

「……な、ならばよし!」

 こうして魔王城は、恐怖のダンジョンから、魔界一の集金システムへと生まれ変わった。
 冒険者たちは口々にこう言って帰っていく。
 「あー楽しかった(財布は空だけど)!」「次は絶対アリスたんフィギュア出すぞ!」

 ――平和的かつ、悪魔的な搾取。
 これこそが、株式会社デーモン・HDの真骨頂である。

(続く)


[System Notification] 次回予告NEXT_PREVIEW
―――――――――――――――――――
クリフ「順調ですね。……ですが、一つ問題があります」
ゼノン「なんだ? 客からのクレームか?」
クリフ「いいえ。……我が社の元・ブラック企業出身の従業員(ゾンビ)たちが、『有給休暇』の使い方を知らずに戸惑っています」

次回、『ゾンビに有給を取らせたら、墓場で二度寝を始めました』
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