勇者様、装備のサブスク料金が未払いなので、その聖剣は今からただの鉄屑です。『追放された会計係、実は世界経済を裏で操る『監査の魔王』だった件』

あとりえむ

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第25話 バッドバンクによる処理。魔王軍、裏社会も完全子会社化する ~ゴミの中にこそ「ダイヤの原石」があるのです。〜

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「……静かになりましたね」


 暴動が過ぎ去った後の闇市場。

 そこは、看板が割れ、羊皮紙が舞い散る、文字通りの廃墟と化していた。

 投資家も、商人も、用心棒も逃げ出した。
 残っているのは、価値を失ったガラクタの山だけだ。

「クリフ、これどうすんの? もう使い物にならなくない?」

 アリスが瓦礫を蹴飛ばしながら問う。

 私は眼鏡を光らせ、散乱する「資産」を見回した。

「いいえ。……腐った肉(不良債権)を取り除けば、骨格(インフラ)はまだ使えます」

 私は懐から、あらかじめ用意していた『看板』を取り出し、廃墟の真ん中に突き立てた。


【株式会社デーモン・アセット・マネジメント(再生機構)】──資産買取カウンター、ただいまオープン──


「アリス、業務開始です。この市場に残された『顧客名簿』『物流ルート』『拠点データ』……これら優良資産(グッド・アセット)だけを選別して回収してください」

「えー、めんどくさいなぁ」

「時給を弾みますよ。……それに、これらを掌握すれば、我が軍は世界中の『裏ルート』を独占できます」

 私は手元の計算機(魔導端末)を弾く。

「通常なら数億マナかかる物流網の構築が、今なら『ゴミ拾い』のコストだけで手に入る。……これぞ『バッドバンク(受け皿銀行)』スキームです」

 私が指を鳴らすと、アリスのハッキングにより、市場に残された有用なデータが次々と吸い上げられていく。


───────────────────
[ DATA MIGRATION ]
 | 
 ├─[顧客リスト]:取得完了
 | (0マナ)
 | 
 ├─[転移門座標]:取得完了
 | (0マナ)
 | 
 └─[裏帳簿履歴]:取得完了
   (0マナ)

>>> ALL GREEN
───────────────────


 こうして、魔界最大の闇市場は、一夜にして「株式会社デーモン・HD」の100%子会社として生まれ変わった。

 血を流す戦争も、高額な買収金も必要ない。

 ただ、自滅するのを待ってから拾えばいいのだ。

  ◇

 その時。

 瓦礫の山から、ボロボロになった影が這い出してきた。

「た、助けてくれぇ……」

 薄汚れた服、無精髭、虚ろな目。
 元勇者アルヴィンだ。

 彼は自分の借金(ジャンク債)が暴落したせいで、「債権者」たちから直接追われる身となり、ここに隠れていたらしい。

「お、おい! お前、魔王軍の幹部だろ!? 俺を雇ってくれ!」

 アルヴィンが私の足元にすがりつく。

「もうプライドなんてねぇ! 何でもやる! 臓器でも魔力でも、何でも売ってやるから金をくれぇ!」

 私は彼を見下ろし、冷徹に【品質管理(QC)】の目を向けた。


───────────────────
>>> QUALITY CHECK

[TARGET]:アルヴィン(元勇者)
[ SPEC ]:魔力枯渇、精神摩耗、コンプライアンス意識欠如
[ 判定基準 ]:ISO9001(魔王軍品質規格)

>>> RESULT:不適合(産業廃棄物)
───────────────────


「……残念ですが」

 私は足を引いて、彼の手を振り払った。

「当社の再生スキームにおいて、貴方は『再利用不可能』と判定されました。……コストパフォーマンスが悪すぎます」

「そ、そんなぁぁ! 俺はSランクだぞぉぉ!」

「それに……『戦闘しか能がない』貴方には、もっとお似合いの場所があるはずです」

 私は遠くを見据えた。

 私の視線の先――市場の外には、借金の回収に血眼になったオークたちが、アルヴィンの臭いを嗅ぎつけて集まり始めていた。

 武装したオークの集団。一般人なら死ぬだろうが……腐っても元勇者なら、彼らをなぎ倒して逃げるくらい造作もないはずだ。

「ひっ……! お、オークどもが!」

「それでは、我々はこれで。……その『腕っぷし』だけで、泥沼の人生を生き延びてください」

 私はアリスと共に転移魔法を発動させる。

 背後で響く「待ちやがれぇぇ!」「ちくしょぉぉ! やってやるよぉぉ!」という怒号と剣戟の音をBGMに、私たちは颯爽と撤収した。

 ◇

 魔王城・CFO最高財務責任者執務室。

「……ふぅ。これで『裏の資金源』も確保できましたね」

 私は熱いコーヒーを啜り、一息ついた。


 闇市場を傘下に収めたことで、魔王軍の経済基盤は盤石となった。

 これで、いつ何が起きても対応できる。

 そう思っていた矢先だった。

 ――ウゥゥゥゥゥゥン!!

 突如、城内にけたたましい警報音が鳴り響く。

「なんだ!? 敵襲か!?」

 魔王ゼノンが慌てて飛び込んでくる。

 私は冷静にモニターを確認し――そして、目を細めた。

「……いいえ、社長。敵襲ではありません」

  私が指し示したメインモニターには、世界のマナ(魔力資源)価格の推移を示すグラフが表示されていた。

 それは、経済の常識を無視した、異常な形を描いていた。


───────────────────
>>> MARKET_MONITOR
[対象]:国際マナ価格指数(MPI)

          (測定不能!)■■■
 価格             ■■
 ↑(高)          ■■
 |            ■■
 |           ■■
 |(安)■■■■■■■■■
 └――――――――――――――→ 時間

! WARNING ! WARNING ! 
>>> SUPPLY SHOCK供給ショック
───────────────────


「こ、これは……!? 線が真上に向かっておるぞ!?」

 ゼノンが驚愕する。これまで安定していた価格が、直角に近い角度で跳ね上がっているのだ。

「これは……『供給ショック(サプライ・ショック)』です」

 遥か東の大国――資源大国バグラム領から、全てのマナ輸出が停止されたのだ。

「戦争の前触れですよ。……それも、剣と魔法の戦争ではなく、もっとタチの悪い『資源戦争』の」

 私の眼鏡が、冷たく光った。

(続く)


[System Notification] 次回予告NEXT_PREVIEW
―――――――――――――――――――
クリフ「暖房代が3倍? 食料価格が高騰? ……これが『スタグフレーション(不況の物価高)』です」
ゼノン「ええい、ならば攻め込んで奪えばよいではないか!」
クリフ「短絡的ですね。……相手は『環境汚染』を武器にする国ですよ? まともに戦えば、こちらの寿命が縮みます」

次回、『供給ショック。暖房が点かない冬、そして不況のインフレ地獄』
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