勇者様、装備のサブスク料金が未払いなので、その聖剣は今からただの鉄屑です。『追放された会計係、実は世界経済を裏で操る『監査の魔王』だった件』

あとりえむ

文字の大きさ
39 / 39

第39話 内部告発(リーク) ~海外からの悲報、神の金庫は空っぽでした~

しおりを挟む
 聖都の熱狂は、深夜になっても冷めやるどころか、さらに加熱していた。

『買え! もっと買え! 魔導聖遺物こそが、新時代の信仰だ!』

 広場の巨大スクリーンでは、キョウヤが絶叫し、その横で魔導車椅子に拘束されたアルヴィンが、まるで祭りの灯籠のようにビカビカと明滅させられている。

 信者たちは、手持ちの現金をすべて「魔導聖遺物」に変え、その画面上の数字が増えるのを見て、恍惚の表情を浮かべていた。

 ──だが、その宴もここまでだ。

 廃倉庫の一室。
 アリスが、複数枚の魔導書簡(メール)をディスプレイに並べ、送信準備を整えていた。

「宛先リストの確認完了。
 『帝国経済新聞』、『週刊暴露』、『大陸格付け機関』……あと、近隣諸国の情報局にもCC入れといたよ」

「完璧です、アリス」

 私は魔導計算機を叩く手を止めた。
 液晶に表示された数字は、我々が国際市場で空売りを仕込んだ聖教国債の総額。
 現在、バブルによって最高値を更新中だ。

「大将……本当にやるのか? 直接放送をジャックして真実を叫ぶんじゃねぇのか?」

 ガントが不思議そうに尋ねる。
 私は静かに首を横に振った。

「そんな品のない真似はしませんよ。それに、私が直接言ったところで、狂信者たちは『悪魔のデマだ』と耳を貸さないでしょう」

 私はコーヒーカップを傾けた。

「信じさせるには、彼らが権威を感じている『外部からの客観的評価』を利用するのが一番です。
 海外の投資家たちがパニックになって売り始めれば……その事実は、どんな叫び声よりも雄弁に『この国の終わり』を告げるでしょう」

「なるほどな。外堀から埋めるってわけか」

「ええ。アリス、やりなさい。
 全世界に教えてあげるのです。……彼らが崇める『神の金庫』の、本当の中身を」

「了解! ……ポチッとな!」

 アリスが軽い手つきで、送信キーを叩いた。
 聖教国中央銀行の内部監査データ──「預金残高ゼロ」の証拠が、光の速さで世界中のメディアと機関投資家へばら撒かれた。

 ◇

 ──10分後。
 異変は、聖都の外から始まった。

 聖教国の国境警備隊や、貿易商人たちが持つ魔導端末が、一斉に警報音を鳴らし始めたのだ。

『緊急速報! 聖教国債、国際市場で大暴落!』
『格付け機関、聖教国の信用ランクを「D(デフォルト懸念)」へ引き下げ!』
『週刊暴露スクープ! 「神の金庫は空っぽ!? キョウヤ氏による巨額横領疑惑」』

 海外からの情報は、せき止められない濁流となって国内へ流れ込んだ。

 聖都の広場。
 キョウヤの演説中、ふと一人の信者が端末を見て声を上げた。

「……え? おい、なんだこれ」

 彼が見ていたのは、キョウヤのチャンネルではない。海外の経済ニュースだ。
 そこには、真っ赤な矢印と共に「聖教国経済、崩壊の危機」というテロップが踊っていた。

「嘘だろ……? 海外のニュースで、銀行にお金がないって言ってるぞ……」
「週刊誌にも載ってる! キョウヤ様が、俺たちの金を海外に持ち逃げしたって……!」

 ざわめきは、さざ波のように広場全体へ広がっていった。
 
『えー、皆さん? どうしました? もっと盛り上がって……』

 ステージ上のキョウヤが異変に気づいた時、広場の巨大スクリーン──先ほどまで彼を映していた公式放送──が、突如として切り替わった。

 国営放送局が、世界的な大ニュースを無視できず、「緊急報道特番」を差し込んだのだ。

『番組を変更してお伝えします!
 たった今、国際金融市場において聖教国債が大暴落しました!
 原因は、海外メディアにリークされた聖教国の「中央銀行の内部データ」と見られます!』

 ドンッ!
 画面に映し出されたのは、アリスがリークしたあの画像。
 空っぽの地下金庫と、埃を被った床の写真だった。

『現在、中央銀行の預金準備率は0.1%未満との情報が入っております!
 これが事実であれば、聖貨の裏付けは完全に消失し……』

 アナウンサーの声が震えている。
 その映像は、何よりも雄弁だった。

 ◇

「な、ななな……!?」

 特設ステージの上で、キョウヤは顔面蒼白になり、持っていた魔導喫煙具を取り落とした。

「き、切レ! 放送を切れェェェッ!! なんだそのデタラメは!!」

 彼は血相を変えて怒鳴り散らすが、もう遅い。
 「海外のニュース」というお墨付きを得た情報は、絶対的な真実として信者たちの脳髄に突き刺さる。

 熱狂が冷め、代わりに底知れぬ恐怖が這い上がってくる。

「……おい、俺たちの預金、ないって言ったか?」
「海外の投資家が逃げ出してるってことは……マジなのか?」
「ま、待って。私が全財産をつぎ込んだこの魔導聖遺物……現金に戻せるの……?」

 誰かが叫んだ。

「か、金だ! 金を返せぇぇぇッ!!」

 その叫びは、一瞬で数万人の合唱になった。

「取り付け騒ぎ(バンク・ラン)だ! 急げ! 銀行が閉まるぞ!」
「俺の金だ! 泥棒! キョウヤを出せ!」

 ドドドドドドドドッ!!

 群衆が雪崩を打って動き出した。
 向かう先は、広場の向かいにある中央銀行本店。
 怒号。悲鳴。そしてガラスが割れる音。
 さっきまでの祭りの会場は、一瞬にして暴動の巷と化した。

 ◇

「……始まりましたね」

 廃倉庫の窓から、遠くで上がる黒煙を見つめながら、私は静かに言った。
 手元の端末では、国際市場のマナ建て国債価格が、崖から落ちるように暴落していく様子が表示されている。

「人は、目の前の教祖の言葉よりも、遠くの『権威あるニュース』の方を信じるものです。
 これで『魔導聖遺物』の魔法は解けました。これからは、現実(リアル)の精算の時間です」

 アリスが満足げに伸びをした。

「いやー、さすが『週刊暴露』。仕事が早いね。
 これでキョウヤの信用は地に落ちた。……で、次は?」

「ガント、出番ですよ。
 暴動が激化すれば、ここも安全ではなくなります。
 混乱に乗じて本社機能を移転しつつ……次なる一手の準備を」

「へっ、任せな! マンホール盾の出番だな!」

 ガントが頼もしく笑う。
 
 残り時間、あと7日と2時間。
 聖教国崩壊の鐘が、高らかに鳴り響いた。

(続く)


[System Notification] 次回予告NEXT_PREVIEW
───────────────────
嘘が暴かれ、信仰は暴動へと変わる。 銀行に殺到する群衆。暴落する国債。紙屑となる聖貨。 
絶望するキョウヤを他所に、クリフは淡々と利益を確定させる。
「3,000億マナ。……これで我々は、対等な立場になりました」

次回、第40話『取り付け騒ぎ(バンク・ラン)』
経済戦争の勝者が決まる時。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

処理中です...