15 / 43
はじめての迷宮
4
しおりを挟む
(……驚い……た……)
あの状況でよくぞ護符を使えたものだ。
我ながら信じられない。
怪我一つ負っていないのはほとんど奇跡に近かった。
落下の恐怖と命を拾った安堵で、急激に震えが襲ってきた。
立ち上がろうとするが、脚全体に力が入らない。
奥歯ががちがちと鳴っていた。
かあっと血が上って、こめかみが痛いほど激しく脈打っている。頭の中が真っ白だ。
(……落ち着け……大丈夫。命は拾ったのだ……落ち着いて……)
パニックになりそうな思考をなんとかなだめようとする。
しかし、落ち着いて思考がクリアになるにつれ、別の恐怖が忍び寄ってきた。
(……なんなんだこの重さは……!)
魔法の素質がほとんどないイシュアにも、『要素』の濃密さが肌にまといついてくるのがわかる。
いったいここは第何階層なのだろう。
自分はいったい、どこまで深く落ちてしまったのか。
傍らに落ちていたランプは変わらず明かりを灯しているというのに、底知れぬ迷宮の闇の暗さが、すべての光を打ち消しているかのようだ。
緊張か、それとも恐怖のためか、脈が速くなっているのがわかる。
息苦しさをなだめるために深く息を吸い込む。
先程までいた第三階層とは比べものにならない強烈なかび臭い匂いと、何か腐ったような不快な匂いに、思わずえずきそうになる。
イシュアはなんとか立ち上がり、今落ちてきた縦穴を見上げた。
ランプをかざしても、上の方に全く光は届かない。
縦穴の側面に手を遣る。わずかに足がかりとなる凹凸はあるようだ。
昇るか、それともこのまま下へ降りるか。
逡巡ののち、イシュアは側面の出っ張りに足をかけた。
ずいぶん長く迷宮の廊下を歩いたし、もう日も暮れる時間だろう。一度地上に戻ったほうがいい。
「迷宮初心者は、絶対に野営はやめておきなさい!」
そうアリエッタからきつく言い含められている。
少し怒りながらもあれこれと気遣ってくれる彼女の顔を思い出し、イシュアの頬がわずかに緩んだ。
その時、ぞっとするような冷気がイシュアの足下に流れ込んできた。
「な……なんだ?」
慌てて周囲を見渡す。日干しレンガの壁に囲まれた、広い空間だ。
何カ所か出口が見える。そのひとつから、骸骨たちの群れが入ってきた。
「っ……!」
茶色くすすけた人間の骨に、ぼろぼろになった着衣のかけらがまとわりついている。
骸骨たちはぎしぎしと嫌な音を立て、次々とイシュアのほうへと向かってくる。
素早く踏み込み、剣で薙ぎ払った。
間近に迫った数体の骸骨を見事に倒した。骨だけの身体がバランスを失って崩れ落ちる。
しかしすぐに後ろの骸骨たちが、倒れた骸骨の骨を踏み越えてこちらへと迫ってきた。
意思のない、空洞の眼が、不気味にイシュアをとらえる。
続けて何体も倒していく。だが後ろの骸骨たちが歩みを止めることはない。
あの状況でよくぞ護符を使えたものだ。
我ながら信じられない。
怪我一つ負っていないのはほとんど奇跡に近かった。
落下の恐怖と命を拾った安堵で、急激に震えが襲ってきた。
立ち上がろうとするが、脚全体に力が入らない。
奥歯ががちがちと鳴っていた。
かあっと血が上って、こめかみが痛いほど激しく脈打っている。頭の中が真っ白だ。
(……落ち着け……大丈夫。命は拾ったのだ……落ち着いて……)
パニックになりそうな思考をなんとかなだめようとする。
しかし、落ち着いて思考がクリアになるにつれ、別の恐怖が忍び寄ってきた。
(……なんなんだこの重さは……!)
魔法の素質がほとんどないイシュアにも、『要素』の濃密さが肌にまといついてくるのがわかる。
いったいここは第何階層なのだろう。
自分はいったい、どこまで深く落ちてしまったのか。
傍らに落ちていたランプは変わらず明かりを灯しているというのに、底知れぬ迷宮の闇の暗さが、すべての光を打ち消しているかのようだ。
緊張か、それとも恐怖のためか、脈が速くなっているのがわかる。
息苦しさをなだめるために深く息を吸い込む。
先程までいた第三階層とは比べものにならない強烈なかび臭い匂いと、何か腐ったような不快な匂いに、思わずえずきそうになる。
イシュアはなんとか立ち上がり、今落ちてきた縦穴を見上げた。
ランプをかざしても、上の方に全く光は届かない。
縦穴の側面に手を遣る。わずかに足がかりとなる凹凸はあるようだ。
昇るか、それともこのまま下へ降りるか。
逡巡ののち、イシュアは側面の出っ張りに足をかけた。
ずいぶん長く迷宮の廊下を歩いたし、もう日も暮れる時間だろう。一度地上に戻ったほうがいい。
「迷宮初心者は、絶対に野営はやめておきなさい!」
そうアリエッタからきつく言い含められている。
少し怒りながらもあれこれと気遣ってくれる彼女の顔を思い出し、イシュアの頬がわずかに緩んだ。
その時、ぞっとするような冷気がイシュアの足下に流れ込んできた。
「な……なんだ?」
慌てて周囲を見渡す。日干しレンガの壁に囲まれた、広い空間だ。
何カ所か出口が見える。そのひとつから、骸骨たちの群れが入ってきた。
「っ……!」
茶色くすすけた人間の骨に、ぼろぼろになった着衣のかけらがまとわりついている。
骸骨たちはぎしぎしと嫌な音を立て、次々とイシュアのほうへと向かってくる。
素早く踏み込み、剣で薙ぎ払った。
間近に迫った数体の骸骨を見事に倒した。骨だけの身体がバランスを失って崩れ落ちる。
しかしすぐに後ろの骸骨たちが、倒れた骸骨の骨を踏み越えてこちらへと迫ってきた。
意思のない、空洞の眼が、不気味にイシュアをとらえる。
続けて何体も倒していく。だが後ろの骸骨たちが歩みを止めることはない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる