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第一章
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会社を退社して初めて知ったが、毎日午前11時頃に郵便配達のバイクの音聞こえてくる。
多少の誤差はあるが、午後にくる事は今の所ない。
だからどうしても、午前中は外から聞こえる音に反応してしまう。
自分では意識していないつもりだが、その間は随分と緊張しているらしく、12時を過ぎると疲労感が一気に押し寄せてくる。
それと同時に、少しだけホッとする気持ちもあった。
「今日は連絡あった?」
誠也は帰宅した玄関先で、毎日そう聞いてくる。
気に掛けてくれてる事が、素直に嬉しかった。
「ううん」といつも返事は決まっていたけれど、「そっか」と誠也は言ってくれる。
そして、眉を持ち上げながら「気長に待とうな」と誠也は呟いた。
そんなやり取りが数回続いたある日。
いつも通りに連絡がなかった事を伝えると、帰宅した誠也は二カッと笑った。
リビングに向かう誠也の背中を、私は訳がわからないまま追った。
「近藤さんの住所、千葉だよね?俺調べたんだけど、東京から千葉宛に手紙出すと早くて次の日には届くみたいだから、宛先不明ならもう戻ってきてるはずだよ」
誠也は椅子に座り、「だから届いてると思うよ」と続けた。
「優香の携帯番号は書いたんだよね?」
「うん」
「じゃそろそろ連絡来てもいい頃なんだけどなぁ」
私は苦笑いして首を振った。
用意していた料理をテーブルに運び始める。
「10年以上話してないんだよ?私が逆の立場なら、電話するのは中々勇気いるよ」
「んー…」
「夏帆はそういう子だったし」
「そっか、確かにそうかもね」
誠也はふっと笑った。
「可笑しな話だよな…子供の頃は毎日のように一緒にいた友達なのに、今はすげー遠く感じるもんな」
誠也に言われ、時間の重さが妙に染みた。
「でも近藤さん、驚くかも知れないけど嬉しいとも思うよ」
誠也が気を使ってフォローしているように感じた。
全部の料理を並べ終わり、私も誠也の目の前に座る。
すると誠也はきちんと座り直して、「いただきます」と両手を合わせた。
すぐにご飯を口いっぱいに頬ばる。
私は可笑しくて笑った。
「ん?」
それに気が付いた誠也は、眉を持ち上げ「んー?」と続ける。
「ううん」
誠也は口の中の物を、無理矢理気味に喉へ通して自分の胸を叩いた。
傍にあるお茶が入ったコップを手にし、ゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んだ。
「ゆっくり食べなよ」
私の注意に対し、誠也はへへっと笑った。
食事中はテレビを点けないのが誠也の習慣だったらしく、誠也と住むようになってから随分テレビを見なくなったと思う。
前は見ている訳でもないのに、ただテレビを点けていた事も少なくなかった。
それも今はないが、苦痛にも感じない。
その分、今日の出来事などをお互い言い合う時間になるからだ。
「優香、もう食べないの?全然食べてないけど」
「あぁ…うん」
「食べないと元気出ないよ」
2人分用意したにも関わらず、全く食欲がない。
「手紙の事なら大丈夫だって」
誠也の気持ちは有難いが、食べる気にならなかった。
“心”の場所があるなら、胃の上だと思った。
心の重みで胃が圧迫されてるみたい。
「何?」
誠也は食べ進めながら、「話してよ」と続ける。
私は持っていた箸をテーブルの上に置いた。
「夏帆の手紙見つけてからさ、ずっとここが重くて変なの」
私は自分の胸に手を添える。
「自分から連絡取ろうとして一歩出れば、少しは楽になるかと思ってた」
視線を手前に引くと、無意識のうちに溜め息が出る。
「でも違った…」
胸元がぎゅっと苦しくなった。
「私が毎日返信来るか来ないかドキドキしてるのと同じで、中学生の夏帆もきっと…手紙の相手からの返事待ってたんだよね。学生だったから一日中家にいれないし、親に読まれちゃうんじゃないか…ってドキドキもあったかも知れないし。そもそも学生の頃って、誰かに想いを伝えるなんて凄い大きい事でしょ?きっと、それ位相手の事想ってたと思う。…でも1週間待っても、1カ月待っても、一年待っても…未だに返事もらってないんだもん」
私は一気にそこまで言ってから、「それとね」と繋いだ。
「きっと夏帆の事だから、私の事信じてると思うの。渡し忘れてる…なんて思ってないと思う。だから相手には渡ってるのに、返事来ないって勘違いしてるんじゃないかな…」
1人で色々考えてる内に、そんな事まで考え付いた。
「相手の人…悪者にしちゃった」
「んー…」
誠也は首を傾げ、それから口を開いた。
「そのー…相手の男はさ、優香から見てどうだったの?」
「え?」
私が思わず顔を上げると、誠也は再び「だからー」と言う。
「俺は誰か知らないから何とも言えないけど、優香から見てちゃんと返事する感じの奴だったの?もしかしたら、渡しても返事しないで終わってるかもよ」
確かに、きちんと約束通り渡していても、相手は夏帆に返事をしなかったかも知れない。
しかし、誠也の疑問が私の脳内に入ってすぐ「ううん」と反論した。
「それはない」
誠也とかち合った視線を逸らさず、「そんな人じゃない」と私は言い切った。
「何でわかんの?」
「それは…いや、なんとなく」
「へー…そう…」
誠也はまた、例の考える素振りを見せ始める。
期待が半分、不安が半分。
ドキドキと心拍が上がって来た。
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