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第二章
1 【2】
小学5年生の頃、私はクラスの緑化委員だった。
主な仕事は、教室に飾ってある花瓶の水変え。
教室の近くに手洗い場の水道があり、毎日の水替えは全然苦痛じゃなかった。
同じ委員だった優香ちゃんと、色んな話をしながら行っていた。
ある日の休み時間、私と優香ちゃんは担任教師から職員室に呼ばれた。
何も悪い事なんてしていないが、職員室へ呼び出しなんて心地いいものではない。
不安にさえ思っていた私に、「何だろうねー」と優香ちゃんは笑顔で言っていた。
「褒められるといーなー」
軽い足取りで職員室に向かう姿は、私と反対でプラス思考だった。
何でもマイナスに考えてしまう私は、そんな優香ちゃんが大好きだった。
私にないものを持っている。
憧れの存在でもあった。
「明日から放課後、校庭にある花壇に水遣りやってくれるかしら?」
メガネを掛けた中年の女教師は、優しい口調で言った。
私は緊張していた体の力が、スッと抜けるのが分かった。
それでも、“職員室”というだけで落ち着かない。
「えー、毎日ですか?」
隣にいた優香ちゃんは「私、バレーがあるんですよ」といつも通りの声で言った。
口を尖らせる優香ちゃんが、凄いとも思った。
優香ちゃんは女子の中で1、2を競うほど身長が大きい。
最近じゃ週に何回か放課後にバレーを始めたようだ。
私の小学校は5年生6年生の希望者に、放課後体育館でバレーを教える教室みたいのがあった。
といっても、試合に出るとか本格的なものではないみたいだった。
私も誘われたが、私は運動神経抜群の優香ちゃんと正反対。
いくら仲良しでも、参加するつもりはなかった。
足手まといになるのが、目に見えている。
断るにも勇気がいったが、「そっか、わかった」と優香ちゃんは何とも思ってないようだった。
「バレーは毎日じゃないでしょ?」
「バレーない日は塾に行ってるんです」
「2人は緑化委員でしょ?やってちょうだいよ」
先生も負けじと押してくる。
「えー、だから放課後はー」
優香ちゃんがそこまで言った時、「やります」と2人の会話を私は遮った。
「えー!」
優香ちゃんの声が一層大きくなった。
承諾した私への不満だった。
「違う、私1人でやるよ」
私は先生にというより、優香ちゃんに向けて言った。
「優香ちゃんはバレーと塾に行って大丈夫だよ」
優等生ぶるつもりはなかったけど、私は昔から他の人が嫌な思いをする方が嫌だった。
先生に媚びているように捕らえていた子もいたと思う。
でも優香ちゃんは違った。
「ごめん、私もやるよ。夏帆1人じゃ大変だよ」
「平気。私、花好きだし」
優香ちゃんは考える素振りを見せたが、「私も花好きー」と笑った。
一部始終を見ていた担任は、「じゃあ2人共お願いします」と小学生である私達に向けて頭を下げた。
花を眺めるより、動き回ってる姿のほうが優香ちゃんっぽい。
無理させてしまったような気もしたけど、やはりその言葉は嬉しかった。
校庭の横にある花壇の水遣りは、思ったより大変だった。
ホースが届かない為、使えるのはジョウロのみ。
水道から水を汲んでも、広い花壇に撒けばあっという間になくなってしまう。
それを毎日やるのだから、いくら花が好きの私でも大変だった。
でも、優香ちゃんは一度決めたら文句は言わない性格だった。
「この花は何て名前?」なんて同じ事を毎日聞いてきたりもした。
その度に、私は同じ名前を教えていた。
そんな放課後が楽しかった。
2人で過ごす時間が楽しかった。
しかし、ある時。
優香ちゃんが風邪をひいて、学校を休んだ。
優香ちゃんの状況を心配したが、次の日自分も高熱が出た。
母親に付き添ってもらった病院で診断を受けると、熱が下がるまで学校に行ってはいけないと医師に言われた。
何日間、自分のベッドの上で過ごしただろうか。
夏の風邪は長引くらしい。
母親からは、完全に熱が下がっても大事を取ってもう一日休むよう言われた。
しばらくぶりに行った学校には、優香ちゃんの姿がなかった。
「森宮さん、まだ体調が戻らないみたい」
担任の先生に教えてもらい、私は驚いた。
いつも元気な優香ちゃんの事だから、とっくに学校へ来ていると思っていた。
しかし、優香ちゃんの方が重病だったらしく、私が休んでいた間もずっと休んでいたという。
その日の放課後、花壇へ行って私は絶句した。
植えてある花達が、元気なく頭を下げている。
そういえば、最近雨も降っていない。
そして、日中の気温は高かった。
「誰も代わりに水あげなかったのかな…」
心の中で呟いたつもりが、声に出ていた。
私は急に罪悪感に襲われた。
せっかく綺麗に咲いていた花達なのに、これを見たら先生も…優香ちゃんも悲しむんじゃないか。
急いでジョウロを取りに行こうとした時、「ごめんー!」と校庭の方から声が飛んできた。
その声の方を向くと、こちらに飛んでくるサッカーボールに気が付いた。
でも私はどうする事も出来ずに、ただ立ちつくす。
ボールが自分の足元へやってきた時は、地面を這いつくばっているようだった。
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