Promise〜あなたへ

コウ

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第二章

 1 【4】





私は閉じていた目を、ゆっくり開いた。


太陽の光に、目が眩む。

何度か目元を摩ると、少しずつ視界が広がってきた。

開けっ放しだったドアに気付き、私はリビングへと戻る。

ずっと握っていたウサギの封筒は、自分の手からの汗で湿ってしまったようだ。


優香ちゃんの言う“約束”。

忘れていたという約束。


もしかして…と私は思った。


私が植野君へ書いた手紙を、渡し忘れてしまった…って事かな。


それ以外に、優香ちゃんと約束をした記憶はない。


でもそれが当たっていたとしても、正直なところ今更何でだろう…とも思った。

もう昔の事なのに…。



優香ちゃんの性格が許さなかったのだろうか。

確かに、義理堅い性格だったようにも記憶している。





“きちんとお会いして謝罪したいです”

手紙にあった一文を思い出し、私は一息吐いた。

連絡先として、住所・電話・メールの選択肢が手紙に書かれていたが、私の気持ちは決まっていた。


私は書類などをまとめている棚から、レターセットを取り出す。

ペン立てからボールペンを一本抜き取り、それぞれテーブルの上へ置いた。

その傍に、優香ちゃんからの手紙を置く。


返信…。

そう思っても、なかなか手が出なかった。




「謝罪なんて…いらないのに…」


私は前のめりになって頭を抱えた。


「…謝るのは…私の方なのに…」


言葉にしたら急に息苦しい。

呼吸の仕方を忘れたみたいだ。








結局、数分間はそのままでいたが、日常生活でやるべき事は多々ある。

私は一旦、手紙の事を脳内から無理矢理切り離した。




次に同じ体制になったのは、もう深夜と呼ばれる時間帯だった。

でもテーブルに置かれているのは、朝と何一つ変わらない。

優香ちゃんの手紙と、何も書いていない便箋。


ただ朝と違うのは、罪悪感が増した。

部屋の壁に取り付けられている時計の秒針が音を刻むたび、それが増えていくようだ。

1秒が重い。

ずっしりと重い。


それを何度刻んだだろうか。

やっとの思いで、文字を並べることが出来た。









『  優香ちゃんへ


お手紙ありがとう。

突然だったので正直驚きました。


私は元気です。

優香ちゃんはお元気ですか?

せっかく電話番号とメールアドレスを教えてくれたのに、手紙での返信でごめんなさい。

久しぶりなので、ちょっと勇気が出ませんでした。
 

この手紙が優香ちゃんの手元に届くのも、時間が掛かったと思います。

実は私、今は都内に住んでいます。

でも実家の住所は変わってないので、優香ちゃんの手紙を母が転送してくれました。


遅くなってしまってごめんなさい。

優香ちゃんも都内に住んでいるんですね。

近くて驚きました。
 


それと、手紙に書いてあった約束の事ですが、ごめんなさい。

よく覚えていません。


仮に優香ちゃんの言うように、何か約束をしてたとしても、私は忘れているので謝罪なんていりません。

気にしないで下さい。



私の方こそ…

いや、私の方が優香ちゃんに謝らないといけない事があります。


私は優香ちゃんを裏切ってしまいました。

ごめんなさい。

きっと何の事かわからないと思います。

ごめんなさい。

本当にごめんなさい。
 

黙っていようかとも思いました。

でも人付き合いが苦手だった私と、優香ちゃんは仲良くしてくれました。

だから、ちゃんと話さなきゃと思いました。

出来れば直接謝りたいです。 
                夏帆』










「ただいま」

ハッと我に返ったのは、帰宅を知らせる声だった。

私が息つく間もなく、「何してんの?」と上から覗き込まれる。


「森宮…優香?」

「あ…」

止める間もないまま、優香からの手紙は手中に収められた。

私は頭の片隅で、自分が書いた方の便箋は封筒の中に入れたばかりだから、すぐに読まれない事を吉と思った。

自分が書いた方の便箋を、素早く膝の上に隠した。


そんな不自然な行動は気付かれていなく、「へー…凄い懐かしい名前だね」と明るい声がした。



「今も連絡取ってたの?」

「ううん…」


私はなるべく平然を装いながら、首を振った。


「実家の方に手紙が届いたのを、お母さんが転送してくれたの」

「ふーん」

私は咄嗟に、「優香ちゃんが“久しぶりに会わない?”って…」と口にした。

内容を聞かれる訳にも、直接読まれる訳にもいかない。







「ほら、私の携帯番号教えてないし…連絡先わかんなかったみたいで、手紙くれたから返事書こうとしてて…」

「ふーん」


どこか興味なさげな返事。

私は少し安心した。

根掘り葉掘り聞かれるよりマシだった。



「久しぶりに会うなら、ここに来てもらえば?」

「え?」

私が顔を上げると、「俺も久しぶりに優香ちゃんに会いたいな」と呟く。


心の奥底から、何かが突き上げてきた。


それでも、「あぁ…そうだよね」と同意した。


「でも俺達が結婚したって知ったら驚くかな…あれ?夏帆どこまで話してあるの?もしかして、優香ちゃんもう知ってる?」


私は首を振る。

声が上手く出て来ない。


「ずっと…連絡とってないから…何も知らない…と思う」

「あー…確かに、“近藤夏帆様”って宛先に書いてある」


優香からの手紙を掲げ、「今は“佐伯”なのにね」とそこにいる孝平は笑った。







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