Promise〜あなたへ

コウ

文字の大きさ
5 / 39
第一章

 1 (4)








「何これ?」

「優香のでしょ」

私の目の前に置かれた缶は、某テーマパークの有名なキャラクターが描かれていた。

しかし、母達がテーマパークへ行った際のお土産という訳ではないのが、缶の痛み具合とキャラクターの絵からして分かった。

随分と昔の物みたいだ。



私の記憶上、すぐに思い当たるものはなかった。

両手で缶の蓋を持ち上げてみる。

少し変形もしているのか、開ける時に力を込めた。

バコッと音が鳴った。


「中は見てないけど、優香の部屋だった押入れから出てきたのよ」

「そう…」

母の声を受けながら、私は無造作に中の物の内、一つを手に取った。

折り紙で作ったピアノだ。

私は小さいピアノを反対の手のひらに置き、笑った。

いつの物だろうかと疑問も過ぎったが、すぐに他の物へ意識が向いた。

ピアノをテーブルに置き、次に手にしたのはピアノと比べ物にならい程頑丈に作られたオモチャだった。

私が小学生の頃に流行っていたアニメに出てきた、コンパクト型のオモチャ。


中央にあるボタンを押すと、周囲のランプが色とりどりに光る。

それで変身できるのだ。

変身前の姿も、変身後の姿もハッキリとは覚えていないが、私は人差し指でボタンを押してみた。


「…あれ?」


手の中では何の変化も起きず、「壊れちゃってたんだっけ?」と母に聞く。


「さぁ」

母は首を傾げ、「電池じゃないの?」と言った。




「これ、優香の宝物入れね」


母は弾んだ声を出した。

缶の蓋を手にしながら、「懐かしいわね」と母は嬉しそうに言う。


「本当、懐かしい」


「優香、このオモチャ好きだったもんね」


私の手中に視線を向る母へ、「クリスマスに買ってもらったの、ちゃんと覚えてるよ」と答えた。



「一応サンタさんって事になってたんだけど」

「その頃はもう気付いてたよ」


小学生の頃、両親にお願いしてやっとクリスマスに買ってもらったオモチャ。


汚れるのが嫌で、遊んではきちんとこの缶に戻していた。


プラスチック製の宝物だが、色褪せずに残っている。

まるで、この中で時の流れを忘れたみたいに。

それが少しだけ、淋しくも思った。



その他に、思い出せる物もあれば、何でこんな物が宝物だったんだろうと思ってしまう物もあった。


そして、缶の一番底に少し色が変色している紙の一部が見えた。




「さて、そろそろ風呂は入れるかな?」

父の言葉で、私は一旦顔を上げた。


「はい、沸いてますよ。タオルも着替えも出てます」


すぐに母が言う。

父は母に見えないよう、舌を出して笑った。

さっき言った“子供みたい”宣言に、まさしく当てはまってしまったからだ。



そそくさと部屋を出て行く父を見届けた後で、私は再び缶を覗き込む。


さっきは一部しか見えていなかった紙。


上に乗っている物を退かしてみると、それは花柄の封筒だった。

手にとって真近で見てみると、少し紙が変色していた。


宛て先は書かれていない。

未使用の封筒なのかと思った矢先、裏返してみると封がしてあった。


糊付けされている部分が、カピカピに乾いている。

どうやら、相当前にこの封をしたようだ。


開封した形跡はなく、差出人の名前もない。


開けてみようとして爪を立てると、乾いた糊の部分の紙が、数ヵ所剥がれ落ちた。





「優香宛の手紙?」


「わかんない…封筒には何も書いてないから…」


私は首を傾げながら、中に入っていた紙を取り出した。


4つ折りにされていた紙を開くと、封筒と同じ花柄の便箋だった。


こちらは変色しておらず、綺麗なままだった。


その紙に小さな文字が敷き詰めて書いてあったが、最初と最後に書かれていた文字で、私は無意識に「え…」と声を漏らした。


心臓がドクンと大きな音を奏でる。


「何が書いてあるの?」


手元を覗き込もうとする母を、「何でもない」と遮りながら、急いで便箋を4つ折りに戻す。


「…何よ」

「別に」

「変な子ねぇ…」

「本当に何もないってば」

「ふーん…」


母が怪しんでいるのは明確だった。


上手い言い訳が思いつかず、私は無言で便箋を封筒へ戻す。


そして、それを自分のズボンの後ろポケットに突っ込んだ。


「クシャクシャになりますよ」


「わかってるよ」と返した私の声は、素っ気ない口調になっていた。







私の父は、本を読むことが好きだ。


愛読書のジャンルは多方面で、種類ごとにきちんと整理されている。

日常の生活は母任せの父だが、自分の趣味は自分で管理していたようだ。



昔はよく、何の本がいいとか勉強になるから読めなど父から散々言われたものだ。

その度に本を自分の部屋へ持って行ったが、数ページ目を通し、すぐに定位置へと戻していた。

私は父と違い、活字が苦手だ。



父は収集癖もある。


父の部屋の本棚ではもう本が納まりきらず、私の部屋だった場所は、今じゃ父の図書室と化してる。


それでも、たまに来る私が寝るベッドは残しておいてくれていた。


本達に囲まれながら、私は先ほどポケットに入れた封筒を取り出し、それからベッドへと腰を下ろす。

長い溜め息と共に、封筒から便箋を取り出す。

そして、今度は全部の文章にじっくりと目を向けた。



感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。