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第一章
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「何これ?」
「優香のでしょ」
私の目の前に置かれた缶は、某テーマパークの有名なキャラクターが描かれていた。
しかし、母達がテーマパークへ行った際のお土産という訳ではないのが、缶の痛み具合とキャラクターの絵からして分かった。
随分と昔の物みたいだ。
私の記憶上、すぐに思い当たるものはなかった。
両手で缶の蓋を持ち上げてみる。
少し変形もしているのか、開ける時に力を込めた。
バコッと音が鳴った。
「中は見てないけど、優香の部屋だった押入れから出てきたのよ」
「そう…」
母の声を受けながら、私は無造作に中の物の内、一つを手に取った。
折り紙で作ったピアノだ。
私は小さいピアノを反対の手のひらに置き、笑った。
いつの物だろうかと疑問も過ぎったが、すぐに他の物へ意識が向いた。
ピアノをテーブルに置き、次に手にしたのはピアノと比べ物にならい程頑丈に作られたオモチャだった。
私が小学生の頃に流行っていたアニメに出てきた、コンパクト型のオモチャ。
中央にあるボタンを押すと、周囲のランプが色とりどりに光る。
それで変身できるのだ。
変身前の姿も、変身後の姿もハッキリとは覚えていないが、私は人差し指でボタンを押してみた。
「…あれ?」
手の中では何の変化も起きず、「壊れちゃってたんだっけ?」と母に聞く。
「さぁ」
母は首を傾げ、「電池じゃないの?」と言った。
「これ、優香の宝物入れね」
母は弾んだ声を出した。
缶の蓋を手にしながら、「懐かしいわね」と母は嬉しそうに言う。
「本当、懐かしい」
「優香、このオモチャ好きだったもんね」
私の手中に視線を向る母へ、「クリスマスに買ってもらったの、ちゃんと覚えてるよ」と答えた。
「一応サンタさんって事になってたんだけど」
「その頃はもう気付いてたよ」
小学生の頃、両親にお願いしてやっとクリスマスに買ってもらったオモチャ。
汚れるのが嫌で、遊んではきちんとこの缶に戻していた。
プラスチック製の宝物だが、色褪せずに残っている。
まるで、この中で時の流れを忘れたみたいに。
それが少しだけ、淋しくも思った。
その他に、思い出せる物もあれば、何でこんな物が宝物だったんだろうと思ってしまう物もあった。
そして、缶の一番底に少し色が変色している紙の一部が見えた。
「さて、そろそろ風呂は入れるかな?」
父の言葉で、私は一旦顔を上げた。
「はい、沸いてますよ。タオルも着替えも出てます」
すぐに母が言う。
父は母に見えないよう、舌を出して笑った。
さっき言った“子供みたい”宣言に、まさしく当てはまってしまったからだ。
そそくさと部屋を出て行く父を見届けた後で、私は再び缶を覗き込む。
さっきは一部しか見えていなかった紙。
上に乗っている物を退かしてみると、それは花柄の封筒だった。
手にとって真近で見てみると、少し紙が変色していた。
宛て先は書かれていない。
未使用の封筒なのかと思った矢先、裏返してみると封がしてあった。
糊付けされている部分が、カピカピに乾いている。
どうやら、相当前にこの封をしたようだ。
開封した形跡はなく、差出人の名前もない。
開けてみようとして爪を立てると、乾いた糊の部分の紙が、数ヵ所剥がれ落ちた。
「優香宛の手紙?」
「わかんない…封筒には何も書いてないから…」
私は首を傾げながら、中に入っていた紙を取り出した。
4つ折りにされていた紙を開くと、封筒と同じ花柄の便箋だった。
こちらは変色しておらず、綺麗なままだった。
その紙に小さな文字が敷き詰めて書いてあったが、最初と最後に書かれていた文字で、私は無意識に「え…」と声を漏らした。
心臓がドクンと大きな音を奏でる。
「何が書いてあるの?」
手元を覗き込もうとする母を、「何でもない」と遮りながら、急いで便箋を4つ折りに戻す。
「…何よ」
「別に」
「変な子ねぇ…」
「本当に何もないってば」
「ふーん…」
母が怪しんでいるのは明確だった。
上手い言い訳が思いつかず、私は無言で便箋を封筒へ戻す。
そして、それを自分のズボンの後ろポケットに突っ込んだ。
「クシャクシャになりますよ」
「わかってるよ」と返した私の声は、素っ気ない口調になっていた。
私の父は、本を読むことが好きだ。
愛読書のジャンルは多方面で、種類ごとにきちんと整理されている。
日常の生活は母任せの父だが、自分の趣味は自分で管理していたようだ。
昔はよく、何の本がいいとか勉強になるから読めなど父から散々言われたものだ。
その度に本を自分の部屋へ持って行ったが、数ページ目を通し、すぐに定位置へと戻していた。
私は父と違い、活字が苦手だ。
父は収集癖もある。
父の部屋の本棚ではもう本が納まりきらず、私の部屋だった場所は、今じゃ父の図書室と化してる。
それでも、たまに来る私が寝るベッドは残しておいてくれていた。
本達に囲まれながら、私は先ほどポケットに入れた封筒を取り出し、それからベッドへと腰を下ろす。
長い溜め息と共に、封筒から便箋を取り出す。
そして、今度は全部の文章にじっくりと目を向けた。
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