11 / 39
第一章
2 (3)
誠也は目を丸くして、「…ビックリしたぁ…」と呟く。
私は両手で手紙を胸元に抱え込んだ。
マズイ。
今の行動は明らかにマズイ。
何て言おう…。
瞬時に旨い言い訳なんて見つからず、私はただ視線を逸らして立ち尽くしていた。
すると誠也は静かに口を開いた。
「俺に言えない事?」
私が目を向けると、誠也はきちんと椅子に座り直していた。
下から覗くように見つめてくる瞳は、普段あまり見せない。
私は迷いながらも、誠也の前に座った。
誠也の視線を受け、私は手にしていた手紙をテーブルに置いた。
「見ていーんだな?」
「ダメ」
間髪入れずに私が言うと、誠也の伸ばしかけた手が止まる。
「…どーゆー事?」
「私が口で話す」
誠也は腑に落ちない表情を浮かべながら、手を引っ込めた。
私は手紙に視線を向け、ゆっくりと口を開いた。
「小学校を卒業する時に…」
「は?」
顔を上げると、誠也の表情が少し緩んでいる。
「何?」
私が尋ねると、「え?こっちが何?なんだけど…」と誠也は呟く。
「何?って…だからその手紙の話」
私が手紙を指差すと、誠也は一度手紙に視線を落とした。
それから椅子に深く座り直す。
「小学校って…そんな前の話なの?」
「うん」
「ふーん…」
もし誠也が何か予想をしていたのなら、大幅に外れていたみたいだ。
興味が薄れた表情を向けられる。
でも、私は改めて口を開いた。
「小学校を卒業する時にね、ある子にこの手紙を渡すように頼まれたの」
「ある子って?」
「それは…言えない」
誠也は首を傾げ、「じゃ誰に渡すの?」と聞いてきた。
「それも…どっちも名前は言えない」
誠也とは小学校が同じ。
手紙に書かれている人物は、誠也にとっても全く知らない人物にはならない。
誠也は両腕を組んで、深く息を吐いた。
不機嫌な証だ。
私はしっかりと誠也の目を見ながら、「ごめん、でも言えない」と念を押した。
少しして、誠也は軽く頷く。
“わかった”と了解したとし、私は続きを発した。
「頼まれたのに私ずっと忘れてたの。その手紙…この前実家行った時に出てきたの。当て先もないのに封がしてあったから、開封して読んじゃったけど…」
そこで言葉を切った。
やはり迷いが出てきたが、「ラブレター…っていうのかな」と繋いだ。
実際ラブレターなんて見たのは、これが初めてだ。
だけど、これはその部類に入る事はわかる。
さて、この先をどう説明しようか…。
そう思った時、目の前の誠也はぷっと吹き出した。
「え…小学校の時に、誰かが誰かに書いたラブレターを、優香が渡し忘れてたんでしょ?」
笑いを帯びた口調に、私はハテナが浮かんだまま頷く。
すると、誠也は声に出して笑った。
「そんなの、頼んだ方も覚えてねーって。何年前だと思ってんだよ」
「…そうだけど…」
「今更悩んでる意味がわかんね」
「でも…」
私はここ数日、考えていた事を話した。
「差出人の子は、相手から何の返事もないまま今になっちゃったんだよ?…渡される予定だった方の人だって…今もその子の気持ち知らないんだよ?」
私は意識的に大きく息を吸って、静かに吐いた。
「私がちゃんと渡してたら…もしかしてこの手紙に書かれている人達の…人生が変わってたかも知れないじゃん」
なんだか急に目元が熱くなってきた。
「は?なんでそんなに悲観的に考えてんの?」
「悲観的?」
「だってその手紙では繋がんなかったとしてもさ、直接言ったかも知んねーじゃん」
誠也はサラッと言い、「もしかして今もうまくいってるかもよ」とビールの蓋を開けた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。