12 / 39
第一章
2 (4)
「…ん?まてよ…」
しかし、誠也はすぐにポツリと呟きながら手を止めて、「つー事はさ」と続けた。
「優香はその差出人の子と、その後連絡してないって事だな?」
私はギクリとした。
全身の血の気が引いたのがわかった。
それなのに、鼓動は早くなる。
「小学校卒業の時って言っても、俺らの学校は皆同じ中学に進学じゃん?手紙渡したかどうかなんてすぐ確認出来んのに…その話題も出ないままって事は…」
誠也は口元を緩め、「差出人は…近藤さん?」とゆっくり言った。
私は金縛りになったように体が動かなかった。
言葉も出ない。
「確か中学入る前に引越したよな」
「別に…」
無理やり口元の筋肉を動かし、「引越ししたからって、夏帆って決め付けないでよ」と私は反論した。
「あ、近藤さんって夏帆って名前だっけ?」
誠也は天井を仰ぎ、「名前までは憶えてね」と続けた。
「いや、だから夏帆とは言ってないって」
「優しくて可愛い子だったよね。そーいや優香、仲良かったし」
誠也は絶対の自信があるように、「はい、差出人は近藤さん」と私の話を流した。
時々、誠也は刑事に向いているんじゃないかと思う時がある。
そして、それ以前に自分の口下手さに呆れる。
もっと包んで話せば良かった。
でもそうしても、誠也にはバレそうな気もした。
こうなったら夏帆だと認めて、ある程度までは話してしまおうか…。
少しだけそう思った矢先、「あれ…待てよ」と誠也は頭を掻いた。
「そーいや、もう一人違う中学校行った奴いたよな」
誠也は首を傾げる。
自分の顎に左手を添え、小さな声で何度か唸った。
「…あ、孝平だ!孝平!すげー頭が良かった、孝平!」
不意に出てきた名前に、私の心臓はドキッと波打った。
「あいつ、私立の中学校行ったんだよな」
有無を言う前、「懐かしいなー、あいつ今何やってんだろ?」と誠也は何処か嬉しそうに言う。
誠也は缶ビールを一口飲んだ。
私の方は、未だに蓋が開いてない。
「もう10年以上会ってねーから、今会ってもお互いわかんないかもなぁ」
思い出に浸り始めている誠也は、なんだかとても楽しそう。
きっと過去に忘れ物がないのだろう。
単に忘れている事も忘れてしまってるかもしれないが、今はそれすら羨ましく思う。
「つー事は、差出人は近藤さんか孝平だな」
誠也は自分自身の推理に頷きをし、「んー…」とさらに答えを絞ろうとしていた。
「ま、でもその可愛らしい封筒じゃ、孝平な気が全くしない」
「だからー」
私は少し声を張って、「夏帆とは言ってないって」と制した。
「勝手に話進めないでよ」
「だって優香が言わないから、勝手に考えなきゃ話が進まねーんだもん」
誠也の言う事もわかるが、こっちだって言えないものは言えない。
本当なら全部話してしまえば解決までいく話かも知れないが、どうもそんな気になれない。
黙ったままでいた私に、誠也は大袈裟に溜め息を吐いた。
「ま、仮に…か・り・に!ね。近藤さんなら、連絡取ってみればいーんじゃないの?」
余りにも滑らかな口調。
私は半ば呆れ気味にそれを受けた。
「…どうやってよ」
「卒業アルバムに、住所とか電話番号とか載ってなかったっけ?見てみる?」
案を出したすぐ後、「あ、俺アルバム実家だ」と誠也は付け加える。
私も持ってきていないので、この場での確認は出来ない。
でも…「この前実家帰った時見たけど、住所も電話も載ってなかったよ。犯罪とかに使われるの防止だと思うけど」という本当の情報はある。
「そっか…」
誠也の瞳は、ずっとテーブル上の手紙を捉えたまま微塵も動かなかった。
ただ無心で眺めているのか、考えているのかはわからない。
けど、しばらくして「ねぇ…」と低めの声が聞こえた。
「そのラブレターを優香に託したって事はさ、告白した相手から返事をもらう場合の連絡先が、手紙の中に書かれてなかった?」
私は手紙に目を向ける。
この前、誠也は自分で“勉強は嫌い”だと発言していたが、頭はきれるようだ。
「自分の連絡先書いてなきゃ、連絡の取りようがねーと思うんだけど」
まさしく誠也の言う通り。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。