Promise〜あなたへ

コウ

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第一章

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「もしかして…当時の優香もそいつの事好きだったとか?」


私の心臓が、ひと際大きく音を出した。


言葉を発しようとしたが、喉の手前で停止した。


誠也の方は特に表情を変えることなく、「だとしたら…」続ける。



「優香も近藤さんも同じ人好きで…ん?…手紙渡すの忘れた…つーか…渡したくなかった…」

そこまで言うと、「いやいやいや」と声を一転した。

「優香はそーゆー奴じゃないか、ごめん」


誠也は小さく頭を下げた。

最後まで言わなかったけど、私が好意的に渡さなかった…と結論が出たのだろう。



「俺、小さい頃から推理小説とか推理漫画好きでさー。なんか色々考えると、探偵になった気分になっちゃうんだよなぁー」

そしてもう一度「ごめん」と謝られた。


私は苦笑いしながら首を振った。


「手紙の事は本当に忘れてたの。中学校入って、部活もはじまったし…毎日付いて行くのがやっとだったから…って言い訳になっちゃうけど」


「いや、そーだよな…入学当時はそーだよな。つーかそもそも、優香は手紙渡せなくて悩んでんだもんな」

誠也は本当に申し訳なさそうに、「ごめん」と呟いた。


「ううん。でも夏帆と私は同じ人好きだった訳じゃないよ。それは夏帆も知ってる」

「あ、そーなんだ」

「交換ノートしててさ、私の好きだった人はノートに書いて教えたもん」

「あー、あったね」

誠也は不思議そうに「何でノートなの?」と聞いてきた。


「日中、学校いる時に話しちゃえばいーんじゃないの?わざわざ書くのも読むのも大変じゃない?しかも一日置きとかでしょ?」

「それが楽しいんだよ」

「ふーん」

誠也は再び箸を持ち、「大変だね、女の子って」と漏らした。





「でも俺、優香の好きだった奴知ってるよ」
 
「…え」


私が顔を上げると、「佐伯孝平でしょ?」と続ける。

あまりに滑らかな口調に、すぐ反応出来なかった。


「噂になった事あったよ。孝平も中学違ったから、その噂は小学生の頃だけだけど」

「え…そうなんだ。全然気が付かなかった」


そう言ってから気付いたが、これじゃあ“そうです”と言ったと同じだ。

しかし、誠也の方は「ま、誰でもいーんだけどね」と満足気に笑みを浮かべた。



「優香の過去にはあんま興味ないし」



付き合ったばっかりのカップルや、若い子なら嫉妬などという感情が出るかもしれない。

でも30歳を前にして…しかも婚姻届に記入までした今の状況で、小学生の話なんて誠也は得になんとも思わないのだろう。


元々、誠也は何処か大人な感じがしていた。

全ての物事にあまり動じない。

何事にも興味がない…と言えば言葉は悪い感じがするが、それに近いと思う。










再会してから数年。

一緒に住み始めてから約1年経つが、誠也と言い争いになった事などない。

その理由は、誠也の心が広いからだと思ってる。



「俺の好きだった子、誰か知ってる?」


飛んできた質問に、私はピクリと反応した。

それを見てか、「知ってんの?」と誠也は言う。


「いや…知らないけど」

「優香、そーゆーの鈍そうだもんね」

あっけらかんとした誠也の声が、心に染みわたる。



「俺はねー」

「あ、待って!」


私は咄嗟に「いい!聞かない!」と遮る。


声が大きくなっていたかも知れない。

誠也からすれば、変に思ったかも知れない。

でも結ぶ言葉は知っている。


「私も誠也の過去に興味ない」

「…へー」


誠也はどこか満足気に笑った。


誠也は何処か不思議な人だ。







お互いお風呂に入った後、寝室のベッドに寝転んでいる誠也の横で、私は髪の毛を乾かした。

短めの髪は学生時代で止め、就職してからは鎖骨より短くした事がない。

よく長い髪の毛を乾かすのは億劫じゃないか?と聞かれるが、ある日突然何センチも伸びたならともかく、少しずつ伸びていく髪の毛と同じでその行為にも徐々に慣れていくものである。

ドライヤーが活動している間は、それなりに煩いと思うが、誠也からそう言われた事はない。

誠也はいつもベットにうつ伏せになりながら、漫画を読んでいた。


私が乾かし終わると、「この漫画知ってる?」と誠也は顔だけ振り返る。

手にしている漫画を掲げられ、表紙のタイトルと絵が見えた。


「知ってるよ。うちのお兄ちゃん持ってた」


私には兄がいる。

大学から関西の方へ行ってしまい、今も関西に住んでいる。

滅多に会うことはない。

最後にあったのは昨年行われた兄の結婚式の時だった。



「お兄さんって、俺達の2個上だっけ?」

「そう」

誠也は頷きながら、「やっぱり俺達世代の男は、絶対一回は読むよな」と呟いた。

確かにこの漫画の人気は爆発的で、アニメにもゲームにもグッズにもなっていた。

それは今現在も続いている。


「俺がガキの頃はさ、親から月500円のお小遣いもらってたんだ。漫画が400円ちょっとでしょ?漫画買うか、お菓子買うか…って店頭で一時間くらい悩んだ事もあったよ。10円くらいのお菓子なら漫画買っても買えたんだけどさ、なんか考え付かなかったな…」

誠也は体を起こし、自分の手のひらを眺めた。


「大人になると財布にしまっとくからあんまり気にしないけど、結構500円玉ってでかいんだよ。しかも子供の手じゃ余計じゃん?大金持ってるの周りの人にバレるんじゃないかってヒヤヒヤしたりして…でも、ズボンのポケットに入れるのは何か不安で、自分の手の中でガッチリ握ってた」


私はそれを聞きながら、ドライヤーのコードを巻く。

自分の頬が持ち上がるのが分かった。




「そんな状態で一時間近くも握ってるとさ、開いた時手が痛てーの。汗でベトベトになった500円玉だから、店員さんも嫌がってたかも」

誠也は少し間を置き、はにかんだ。


「親からもらった金のくせに、500円での買い物がすげー達成感あったんだよね。今は自分で働いた金なのに、500円使っても達成感なんて絶対ねーな」

誠也は手にしている本を掲げ、「だからこれだけは絶対処分出来ないの」と言った。


目が合った先、誠也はニコリと笑う。

「さて、寝ますか」

誠也の言葉を受け、私はドレッサーの引き出しにドライヤーをしまう。

部屋の照明を落としてから誠也の横に寝転がった。

まだ暗闇に目が慣れないせいか、室内が真っ暗に思う。

その中で、誠也の体が倒れる気配がした。


「そう思うと、どんなに昔の事でも処分出来ない気持ちってあんのかもね」

目も慣れてきた頃、誠也がポツリと言った。

「けどさ…子供の頃はすげー大きな事と思ってた物でも、大人になってみるとそーでもなかったりもするよ。…そう言うと、なんか寂しい気もすっけど」



私は誠也に言われた言葉の意味を考えながら眠りについた。





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