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第二章
2 【1】
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私は書類をまとめて入れてある引き出しの一番底から、束になっている封筒を取り出した。
佐伯孝平。
小学校が一緒の男の子。
当時、それだけだった。
私は彼の気持ちを、全然知らなかった。
小学校在籍中、特に仲が良かった訳でもない。
思い出せるような会話もない。
だから引っ越しをして、一番最初に私宛に届いたこの手紙の差出人に驚いた。
内容の予想も出来なかったその手紙は、茶封筒にルーズリーフというとてもシンプルな物だった。
『 近藤さん
こんにちは。
引っ越してもう1カ月くらい経ちますね。
新しい生活にはなれましたか?
知らないかもしれないけど、僕も皆と同じ中学校に通っていません。
毎日、電車に乗って行ってます。
友達もまだあんまり仲良くなくて、今もちょっと学校行くのが嫌です。
でもきっと近藤さんも頑張ってると思って、僕も毎日頑張ってます。
僕は近藤さんが好きです。
ずっと前から好きです。
だけど、僕達はほとんど話した事もないから、まずは僕を知ってもらいたくて手紙を出しました。』
こんな言葉を、今まで言われた事なんてない。
イタズラかとも思った。
しかし、ルーズリーフは2枚入っており、その2枚目には佐伯君のプロフィールがビッチリ書いてあった。
シャーペンで書かれている文字は、消して書き直してる箇所も多々あった。
私は何て返事をしていいのか分からず、時間だけが過ぎていく。
優香ちゃんに手紙を託したのも、もう1カ月前。
それが2ヶ月、3ヵ月と時が過ぎていく内、私は半ば植野君から返事が来る事を諦めていた。
一言でも返事が欲しかった。
例えそれが悲しい結果になろうとも…。
しかし、今まさに自分も、佐伯君に同じ事をしていると気が付いた。
私は佐伯君からの手紙を何度も読んだ。
そして、返事をする事に決めた。
私は返事に3ヶ月掛かったのに、その返事への返事はすぐに届いた。
またルーズリーフの手紙だった。
『 近藤さん
手紙ありがとう。
返事来ないかと思ってたので、嬉しかったです。
正直な気持ちも教えてくれて、ありがとう。
でも僕、近藤さんの気持ちは知っていました。
僕はいつも近藤さんを見ていたから、その先に植野がいる事を知っていました。
驚いたりはしません。
この前の手紙にも書いたと思うけど、まずは僕を知ってもらいたいと思ってます。
そうは言っても、連絡手段が手紙しかないので近藤さんが平気なら文通したいです。』
私が書いた返事は、大まかに言って“他に好きな人がいます”。
植野君の名前が出てきた事に驚いたが、それ以上にまだ手紙のやり取りをしたいという内容に驚いた。
もし植野君から同じ返事が来たら、私は返事への返事は返してないだろう。
していないというよりは、出来ないという表現のほうが正しいかも知れない。
そう考えると、佐伯君の気持ちを邪険にする訳にもいかなかった。
私は佐伯君に2度目の手紙を出した。
投函したのは、1度目より早かった。
中学生になって、初めての夏休みに入った日だった。
『 近藤さん
手紙ありがとう。
近藤さんの言うように、最近は毎日暑いですね。
僕の行ってる中学は私立なので、教室にクーラーがあります。
でも風が強くて寒く感じる時もあります。
近藤さんの学校も中間試験とか学期末試験とかありますか?
僕の学校は、テストで赤点をとった教科は夏休み補習です。
僕はなんとか赤点はなかったです。
でも夏休みの宿題がいっぱい出たので、早めに終わらせるように頑張ります。
僕は部活も入ってないので、夏休みはそれ以外何も予定はないけれど、近藤さんは夏休み何するんですか?』
3度目の手紙で、私は近藤君が私立中学に行ってる事を知った。
小学校の頃の佐伯君は、たしかに勉強は誰より出来ていて、他の生徒と比べると違う感じはしていた。
率直な感想で“凄い”と返事を出した。
私も部活に入っておらず、特に夏休みする事もないのも伝えた。
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