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第二章
2 【3】
3度目のベルが聞こえた後、『はい、佐伯です』と声がした。
本人のような気がしたが、「私、近藤と言いますけど、孝平君いますか?」と一応聞いた。
私が人生で最初に佐伯君の名前を口にしたのは、この一応の時だった。
『あ…僕だけど…』
佐伯君の声は、一瞬ごもった。
『近藤…さんって…近藤さん?』
「うん」
『あ…うん…』
佐伯君は引きずられるように『ビックリした…どうしたの?』と小声を出した。
手紙では私も佐伯君につられて敬語で書いていたが、元々は同級生のクラスメイト。
直接話す時は、元に戻る。
「佐伯君こそどうしたの?」
面と向かって会話するのは苦手だが、電話ならまだ落ち着いて話は出来た。
私は受話器を握り直す。
「あ、私の手紙届いてない?」とまで聞いてみると、『あぁ、ごめん』と佐伯君は謝ってきた。
『実は夏休み終わる前位に、お母さんが入院しちゃって』
私は咄嗟に、「え…大丈夫なの?」と挟んだ。
『あぁ、うん。入院中はお婆ちゃんの家に行ってたし、お母さんももう退院してるし大丈夫』
「そう…良かった」
『うん。ありがとう』
佐伯君はゴホンと咳き込んだ。
『だから手紙書く時間なかったんだ。ごめんね。でも明日にでも送ろうと思ってて……うん、明日送るね。すぐ届くと思うから。あ、でも内容は今言ったような事書いちゃった…。あ、じゃあ違う話題で書き直すから、もう少し待ってて』
私は思わず吹き出した。
『…え?何で笑ってんの?』
私は受話器を持ち直し、「ううん」と否定したが笑っていた。
「佐伯君って、何でも完璧なイメージだったから…そんな慌ててる感じが面白くって」
『えー、そうかな』
受話器越しに、佐伯君が笑ったのが分かった。
お互い笑いが収まった後、『今から書いて、明日送る』ともう一度佐伯君が言った。
「うん」
『うん…じゃあまた』
佐伯君が受話器を置いてから、自分も置こうと思った。
でもなかなか聞こえてくる音が変わらない。
まだ繋がっているのかと思った時、『…ん?』と声がした。
『もしもし?』
「あ、もしもし?」
佐伯君はハハッと笑い、『繋がってた』と言う。
『近藤さんから切って』
「え?佐伯君が切ってよ」
『せっかく電話してくれたのに、こっちから切ったら失礼でしょ』
その言葉は佐伯君らしかった。
「じゃあ…さようなら」
『うん。またね』
「うん…」
一呼吸置いてから受話器を置いた。
後になって、“さようなら”ではなく“またね”といえば良かったと思った。
佐伯君がそう言ってくれたように。
そして約束通り、数日後に佐伯君から手紙は届いた。
『 近藤さんへ
今日は電話ありがとう。
電話でも言ったけど、送ろうとしてた内容を電話でしゃべっちゃったから、書く事がなくなっちゃいました。
だから、僕の気持ちを書きます。
僕は近藤さんが好きです。』
いつもより短い文章だけど、いつもより心拍数が上がった。
数ヶ月前に同じ言葉を書いてくれたが、あの時とは違った。
嬉しく思った。
心の中の感情が、それ1つだった。
だから私もすぐに返事を書いた。
『私も佐伯君が好きです』
私が書いた一行の気持ちが届いた日、佐伯君から電話が来た。
電話での佐伯君は、何を言っているのかよくわからなかった。
けど、喜んでいるのが伝わってきた。
それから、手紙のやりとりに加えて電話でのやりとりも増えた。
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