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第二章
2 【6】
私は佐伯君との時間を極力笑って過ごした。
でも持ち歩いていた携帯が母からの着信を知らせ、もうその時間も終わった。
佐伯君には笑って「またね」が言えた。
「うん、また」
佐伯君からは別れの言葉はなかった。
今回は私も次へ繋ぐ“また”が言えた。
佐伯君の姿が見えなくなった後、私は静かに泣いた。
それから電話する頻度が増えた。
試験勉強から解放されて時間の余裕もあるが、やはり直接会った事が大きいと思う。
私は毎日のように大学に合格した未来を考えていた。
なるべく悪い結果は考えないようにしていた。
佐伯君が落ちるとは微塵も思わない。
心配なのは自分自身だが、私も出来る限りやってきた。
これで駄目なら仕方ないと思う。
でも出来る事なら佐伯君と同じ大学がいい。
そんな感情のループだった。
「大丈夫だよ」
結果発表の前日、佐伯君から電話越しに言われた。
佐伯君は同じ立場なのに、妙に落ち着いていた。
「俺は嘘吐かないから。俺が“大丈夫”って言った時は必ず大丈夫」
何処からの根拠なのか突っ込んだらボロが出そうな言葉だが、私は「うん」と素直に消化出来た。
「そして俺も大丈夫」
こちらも根拠がなさそうな発言ではあるが、佐伯君の落ち着きようは根拠なんてなくても信じてしまいそうだ。
もはや“佐伯君が言うから”が根拠だ。
佐伯君の言うように大学は2人揃って合格し、寮があったので2人してそこに入った。
もちろん男子寮と女子寮は別だが、今まで手紙のやりとりをしていた私達にとってその距離は全然近く思った。
親からの仕送りで遊び歩いてる友人も大勢いたが、佐伯君は学校とバイトの日々。
あのマックで佐伯君が言ったように“毎日一緒”は中々難しかった。
でも佐伯君は勉強も一切手を抜かず、それを真近で見ていた私は、一緒にいる時間が少しでも全然文句はなかった。
そんな佐伯君をどんどん好きになった。
私は手元のルーズリーフの束を眺めながら、そんな昔の事を思い出していた。
その後も、就職難と言われている世の中で、大手の会社に就職が決まり、異例の速さで出世して現在に至る。
彼は夢が叶ったのではない。
夢を叶えたのだ。
優香ちゃんから手紙が来た時、私は昔にしてしまったこの裏切りを後悔した。
でも私は、今までの時間を後悔していない。
だから言える。
いや、だからこそ言わないといけない。
例え、優香ちゃんにでも“佐伯君と結婚しました”…と。
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