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最終章
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時間的にも丁度いい。
私は建物の外に出て、スマホのマップ機能を起動させる。
夏帆の手紙にあった住所を入力してみると、画面に出ている地図が一気に拡大した。
もう目的地といっても良いほどだ。
私はスマホの画面から目的地を指す方角を見た。
東京は高い建物ばかり。
でもその中でもひときわ高い建物を指している。
パッと見でも、30階はありそうだ。
「え…ここ?」
私は無心で呟いた。
マンションの高さに呆気にとられ、しばらく呆然と眺めていた。
夏帆の自宅らしいマンションに入ると、すぐにオートロックのドアがあった。
お目当ての部屋番号を入力し、相手が開けてくれるシステム。
私は鞄を開け、中を探ってみる。
しかし、夏帆から届いた手紙を持ってくるのを忘れたらしく、鞄の中の隅々まで見ても見当たらない。
これでは夏帆の部屋番号がわからない。
でも、そもそも部屋番号なんて書いてあった気がしない。
住所はスマホの地図アプリで何度も検索してたので、ここまでは迷わなかったものの、さすがのスマホでも部屋番号なんてわかんないだろう。
でも、スマホには夏帆の携帯番号が入っている。
きちんと発信番号としても残しておいてもくれるが、そこはきっちりと“近藤夏帆”と番号登録しておいた。
私はスマホの画面をスクロールし、夏帆の名前を表示する。
今回はすんなりと発信番号を押すことが出来た。
しかし、いざ耳へ持っていった先からプルルル…と音が聞こえると、急に緊張感が出てくる。
私は大きく息を吐き、上がった心拍数を宥めた。
『はい。もしもし』
すぐに夏帆は出た。
「あ、森宮ですけど」
私はそこまで言い、目の前のドアを眺めた。
「今、マンションの前に来たんだけど、部屋番号がわかんなくて…」
『あぁ、はい』
夏帆が言った部屋番号は随分高い位置にあるとわかる番号だった。
大抵、1階なら101、102…2階なら201、202…と割り振られているはず。
「今押していーのかな?」
私は実家も友人も…身近でマンションに住んでいる人がいない。
そもそも、実家近辺のマンションならこんなシステムないだろう。
ドラマなどでは見た事はあるが、実際見るのも初めてだから操作方法もよくわからなかった。
『部屋番号押して、横のボタン押してみて』
「えーっと…」
田舎者の私は、高度なシステムを前にして、教えてもらったばかりの番号を忘れかけそうだった。
それでも指は番号を押す事が出来た。
「はい」
横のスピーカーみたいな所から、夏帆の声がした。
未だに耳にスマホを当てているので、その声は両方から聞こえた。
「あ、森宮ですけど」
私はどこを見ていいのかわからず、とりあえずスピーカーに向かって言った。
「今開けます」
夏帆が少し笑っていたのがわかった。
ドアが開いた。
でも、なぜか入るのに勇気がいった。
私は後ろ髪引かれる思いで中へ入ってみる。
前かがみでキョロキョロしている姿勢は、お化け屋敷に入った時みたいだ。
傍から見たら不審人物になってしまう。
『大丈夫ですか?』
私は電話がまだ繋がってるのを思い出し「はい、入れました。今行きます」と言ってから通話を切った。
エレベーターホールは清潔感に満ちており、ホテルのようだった。
4基もあるエレベーターは、既に1基が1階に停止していた。
上に行くボタンを押すと、目の前の扉が静かに開いた。
「えっと…」
エレベーターに乗り込み階数表示を前にして、夏帆の部屋の階数を聞くのを忘れた事に気が付いた。
でも、夏帆に言われた部屋番号から階数の想像はつく。
ボタンを押した時、「ごめんなさい」と声がした。
声の方に視線を向けると、老夫婦が足早にこっちへ向かっていた。
「あ、はい」
私は急いで“開”のボタンを押す。
「こんにちは」
老夫婦から揃って言われ、「こんにちは」と私は返す。
「何階ですか?」
私が聞くと、お婆さんの方が「24階お願いします」と答えた。
老夫婦がエレベーターの奥に入ったので、私の視線からは今2人を見ることが出来ない。
ほんの一瞬ではあるが、見えた姿はとても高級感があった。
お爺さんの方はグレーのジャケットを羽織り、同じ色の帽子を被っていた。
お婆さんの方は明るめの花柄の洋服を着ていた。
このマンションの住人は、皆こうなのだろうか…。
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