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3 一緒にこの国をぶっ壊さない?

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 危なかった……いきなり魔物に挑まなくて本当に良かった。心の底からそう思った。

 まず僕は、木にパンチしてみた。結果として、手が痛くなった。
 次に、全力で蹴りを放ってみた。結果として、足が痛くなった。
 このあたりで『自分は魔法系なのか』と思った。

 そして、手を虚空にかざして、魔法を放ってみようとしばらく唸っていた。
 
 結果として、心が痛くなった。

「弱い……」

 声は相変わらず異常にカッコいいが、身体能力と強さがまったく伴っていない。
 ちょっと試してみた結果、身体能力は人並み以下。そして魔法に至っては全く使えない。
 この世界に魔法が存在するのかは謎だが……もしも魔法がある世界なら僕は大きく遅れを取っていることになる。

 身体能力に関しても、である。人並み以下というのはあくまでも僕が元いた世界での話だ。この世界でどの程度の身体能力なのかは見当もつかない。

 というか……身体能力に関しては前世より弱くなってないか? 結構体力には自信があったのに……今はそのイメージより疲れるのが早い。

 ぬぅ……パラメーターがランダムだとは聞いていたが……これはまいった。本当にクソ雑魚じゃないか。せっかく異世界に来られたというのに……

 まぁないものを悔やんでいても仕方がない。なにより、今の僕にはこの声があるのだ。CV〇〇〇〇という圧倒的な武器があるのだ。
 この声さえあれば、きっと大丈夫だろう。そんな自信が湧いてくるほどいい声なのだ。たぶん皆ひれ伏してくれるさ。というか……そう思わないとやってられない。

「……人に会うか……」

 他人と接触しなければ、この声の効果を確認することはできない。そう思って、僕は森を出て適当な方角に向かって歩き出した。

 にしても……未だに自分の子の声に慣れないな……自分の声にしてはカッコ良すぎる。『チェックメイトだ』とか言ってみたい。きっととても気持ちが良いだろう。
 
 さて森を出てしばらく歩くと、風景が変わってきた。街……という感じではない。ここは……

「墓地……?」

 更地に、木で作られた素朴な十字架が多数突き刺さっていた。簡素ではあるが、これがこの世界の墓地であるようだ。

 そして……その墓地の前で、一人の少女が佇んでいた。

 髪の短い少女だった。前世の知識に当てはめるなら、おそらく高校生くらいの少女。
 彼女は周りに誰もいない墓地で、真剣な表情で祈りを捧げていた。親族の墓参りか何か、だろうか。

「――――」

 少女はなにかブツブツと呟いていた。それはこの世界の祈りなのか、それともあの世にいるであろう誰かに語りかけているのか――
「……?」不意に、少女が目を開けてこちらを見た。「……珍しいね。誰?」

 珍しい、という言葉を聞くに、この世界において墓参りは一般的なことではないことが読み取れる。あるいは……この場所が秘境なのか?

 とりあえず……話しかけられたからには返答をしよう。

「ぼ……」僕は、といいかけてやめた。せっかくだから、一人称を変えよう。ついでに口調も変えてしまおう。「なかなか絵になっていたものでな」

 何を言ってるんだ僕は。女性と話す機会が少なかったから、変なことを言い出してしまった。

「……」少女は僕の声を聞くなり、一瞬身構える様子を見せた。「……あなた……何者? 初めて見る顔だけど……」

 おお……どうやらこの声の効果は絶大らしい。何もしていないのに一目置かれた雰囲気になっている。口調変えてよかった。

 さて……しかし『何者』と聞かれてどう答えよう。前世の名前を答えるのもおかしい気がするし……それしかないような気もするし……

 とにかく、黙っていたのでは始まらない。何かしらキャラ付けをしなければ。

「少しばかり……人間の世界に興味があってな」

 間違えた気がする。もっと別の言葉があったような気がする。

「人間の世界って……あなたは魔物? いや……魔王か何か?」
「フフ……縛られた立場は苦手なものでな。魔王などという名誉には興味がない」
「ふぅん……」

 少女は僕の体全体を見る。足から顔まで全体を見回して、それから、

「……あなたは……強い人? もしかして……?」

 弱いです、なんて言えない。
 というか……って何? 何を持ってるの? わからないから、答えを濁すしかない。

「キミの想像に任せよう」
「なるほどね……力は無闇に誇示しないタイプ? ひけらかす人よりは頼りになりそうだね」

 誇示する力はありません。
 しかし……なんだこの少女は。何が目的だ? どうして見ず知らずの僕に対してそんな話をする?

 そう思っていると、少女は突然言った。

「ねぇ、一緒にこの国をぶっ壊さない?」
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