あいつだけは敵に回さないほうがいい

星上みかん(嬉野K)

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嘘ですよ

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 迷い始めていた。いろいろと。ソラさんを旅の同行者として認めるかどうか。ソラさんと主人の関係をどうするのか。これからの私の人生について、考えていた。

「師匠……?」
「あ……」余計なことを考えていたので、弟子のアルに不審に思われてしまった。「なんでもないですよ。それより、覚えてきましたか?」
「はい」

 随分とハッキリ返事をしてくれるようになった。
 アルは森の中の草木を指しながら、

「これは食べられるやつですよね。それから……あっちが火種として優秀」
「それは猛毒です。触っただけで死にますよ」
「うぇ……!」

 熱いやかんに触れてしまったかのように、アルは手を引っ込めた。

 そんなアルに、言う。
 
「嘘ですよ。正解ですから、自信持ってください」
「え……」
「あなたは、ちょっと素直すぎます。相手の言うことを簡単に信じてはいけませんよ。しっかりと自分の知識で正誤を判断してください」
「むぅ……」
 
 ふくれっ面になられても、こちらはどうしようもない。もう知識はある程度教えたし、思考法だって教えた。だから、もうアルが自分で成長していくほうが効率が良い。

 要するに、私が教えられることは、もう少ないのだ。

「アル」というわけで、ちょっと世間話でもしよう。「あなたがあの酒場に行った理由は、ソラさんに会うため、でしたよね」
「はい……強い人がいるって聞いたので」
「どうして、ソラさんが強いとわかったんですか?」

 パッと見て、あの人を強い人だと思う人は少ないだろう。

「あ、えっと……たしか……カンディールなんとかって組織が、ソラさんに壊滅させられたって聞いて……」

 カンディールなんとか……ふむ。こないだ酒場で暴れていたチンピラたちが所属していた組織か。本当に存在したとは驚きだ。酔っぱらいの戯言だと思っていた。

 しかし……組織を壊滅、ねぇ……ちょっとこの話を深堀りしてみよう。

「その、カンなんとかって組織は有名な組織なんですか?」
「そう、ですね。このあたりだと、そこそこ有名でした。荒くれ者の集団で、関わっても得しない。面倒な集団だって」

 ふむ……察するに元気の有り余ったチンピラたちの溜まり場のような組織だったのだろう。その組織が、ソラさん一人の手によって壊滅させられた。

 つまりその組織は、ソラさんを敵に回したわけだ。この街のルールを破って、その結果消滅したわけだ。

 だからか。だから、あのチンピラたちはソラさんを恐れていたのか。自分の組織を崩壊させた人物が目の前に現れたら、そりゃ怯えるし、逃げ出すだろう。

「略奪してたんですよ、あの集団は」アルはちょっと不機嫌そうに、「街のいたるところで大暴れして、人に迷惑をかけて……皆困ってたんです。でも結構巨大な組織だったから誰も手を出せなくて……」

 その現状を破壊したのが、ソラさんだった。誰も手を出せなかった巨大組織を、一人で消滅させた。いや……一人でやったのかどうかはわからないけれど……ソラさんの性格上、大人数で向かうことはないだろう。だから、限りなく一人に近い人数であったことは間違いない。

 理解した。ソラさんが強いのは理解した。直感でも理性でも、それは納得した。
 でも……なんでだろう。なんでソラさんは、その組織を壊滅させたのだろう。完全に無気力状態、というわけではないのだろうか? それとも、酒場の主人に何か言われたのだろうか?

 わからない……ソラさんは、外界に干渉しないのだと思っていた。自分の行動のせいで他人が変わるのが嫌なのだと思っていた。昔、自分の行動のせいで死んでしまった親友の影に怯えて、行動できなくなっているのだと思っていた。

 だけど、ソラさんは動いた。巨大な荒くれ者集団を崩壊させた。

 それは、どうしてだろう。
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