〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー

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24 海の家で二人

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「一人でこんなところで何してるんですか?」

声に反応した課長は一瞬ビクッと体を震わせるとすごい勢いで見上げてきた。そして私だと認識した途端思いっきり脱力した。

「ああ、なんだ川瀬か」

「なんだとはなんですか」

「お前こそどうしたんだ。ずっと同期の女子と一緒だっただろ?」

「その同期が森さんに奪われてしまって孤立したので休憩しに来ました」

「何やってんだアイツ……」

課長は呆れて益々脱力して壁にもたれた。

完全にオフモードだ。

私は何故だか一人でいるよりはまだマシだと思い、課長と簡易な座卓を挟んだ反対側に座った。

「で、なんでこんなところに一人でいるんですか? 折角海に来たんだから早く入ればいいのに――」

何気ない会話をするつもりだったのだが、何故かギロリと睨まれて言葉を喉に詰まらした。

「この環境で俺が楽しく遊べると思うか?」

「えっ?」

言っている意味がわからなくて軽く首を傾げると、課長の睨みは更に強くなる。

「海岸を歩けば必ずどこかにうちの社員がいる状況だぞ。こんなに参加者がいるなんて完全に誤算だ。気を抜けない上に、歩けば見知らぬ女に自分はどこの部署の何者かを次々と話しかけられる。鬱陶しいことこの上ない」

「……お疲れ様です」

思い返してみれば、羽田に集合したときから課長は大変そうだった。

私服姿で登場するや否や男女関わらずその場にいた社員全員の視線を集め、次の瞬間には他部署の女子達に囲まれていた。見慣れない上に私ですらちょこっとかっこいいと思ってしまういで立ちに飢えた女豹達が群がらないはずがない。

というのも、美香の目論見通り一課のメンバーが参加することになったのは良かったのだけれども、そこに課長が混ざっているのが大きな波紋を作ってしまっていた。

美香に課長も参加すると廊下で偶々会ったときに報告したら悲鳴を上げて目を丸くし、直後にすごいテンションで良くやったと人目も憚らず抱きしめられた。

社内のイケメン情報に無駄に詳しい美香によると、課長は社内きっての優良物件、最もレベルの高い男だそうだ。

見た目良し、仕事も完璧、将来有望、声も良し。その好条件に乗っかって近づき辛い厳しい雰囲気が女子の心を惹きつけているとか何とか。

一課の女子が私しかいないことから誰もが憧れてはいるが中々お近づきになれない。そんなどこかの動物園のパンダのような存在の課長様が社員旅行に参加すると決まったら、その噂はすぐに社内に広まり若い女子社員の参加が倍増。そしてその女性社員につられて若い男性社員が急増したのだ。

モテるのだろうとは思っていないこともなかったが、ここまでとは想定していなかった私はかなり面食らってしまった。

そして挨拶をするタイミングすら掴めず、あれよあれよという間に時間が過ぎ、今回の旅行で初めて会話をしたことに今になって気がついた。

「何で沖縄くんだりまで来て神経すり減らさなきゃいけないんだよ、まったく…」

完全に上司としてではない砕けた口調で愚痴をこぼされる。

普段一課のごく僅かなメンバーにしか見せない姿を惜しげもなく見せられて、自分も内輪の人間にカウントされていると思うと、どうにもくすぐったいような痒いような感覚に見舞われる。

なんと言ったら良いかわからなくなって黙っていると、課長は今度は私の方に視線を向けてきた。

しげしげと上から下まで視線で撫でられる。

はじめは何だとぼんやりしていたが、すぐにその視線が何を意識して見ているのかに気がついて、自分の身体を腕で出来る限り覆った。

「じろじろ見ないで下さいっ」

「今更何言ってんだよ。減るもんじゃないし。見られて困るような体型じゃないだろ」

「見られて困るんですっ」

「だったら普通はそういう水着は着ないと思うけどな」

「こっ、これは同期の女子がっ」

どもって、アタフタしてしまう。一方課長の方はニヤリと口角を上げて壁から背中を離し、座卓に頬杖をついてこちらを改めて眺めてきた。

恥ずかしさは拷問になることをこの瞬間知る。

私が着ているのは白のビキニだ。ホルターネックタイプでボトムには大ぶりのフリルがついていてスカートのようになっている。

これは美香と一緒に選びに行って、私があれこれ迷っている内に美香が勝手に決めて勢いで試着をさせられ、そのまま店員にこれでお願いしますと決定されてしまったものだ。

勿論こちらも黙ってはいなかったが、「20代の内にビキニを着なかったら一生着れない」という文句に呑まれてしまい、またもや押しに負けてしまった。

今まで水着はスポーティーなものしか着たことがなかったので、私なりにかなり頑張っている。そしてさっきまで遊ぶことが楽しくて恥ずかしさを忘れていたというのに。

「一緒に買いに行った同期に半ば強引に勧められたんです。私が選んだ訳じゃなくて――」

「ならその同期はセンスあるな。似合ってる」

「なっ」

一気に体温が上がった。

自分の顔が赤くなるのが鏡を見なくてもありありとわかる。

「かっからかわないで下さいっ」

「からかってなんかない。川瀬は身長もあるし細いからモデルみたいだな」

女子にきゃらきゃら適当に細長い体系を褒められることはある。けれども異性にまじまじと水着姿を見られた上に惜しげもなく褒められたことなんてない。

立ち上がってこの場から去りたいが、そうすれば全身見上げられることになる。私は出来る限り体を小さく折りたたんでどうリアクションしてよいのか分からずにいると、ぷっと吹き出す音がした。

同時に頭にバサリと何かが掛かる。

びっくりして確認するとそれはパーカーで、座卓の向こうにいる課長が軽く握った手を口に添えて笑いながらこちらを見ている。

「お前は本当に良いな。他の奴らと比べて素直で単純で。それ着てていいからしばらくここに居ろよ。俺も逃げ回ってずっと一人じゃつまらないからな」

褒められているんだか馬鹿にされているんだか微妙なところが気になったが、屈託のないオフモードの笑みを向けられた事に対しては悪い気はしない。私はとりあえず投げ掛けられたパーカーを遠慮なく着込んだ。

着てチャックを閉めてなんとか生きた心地を取り戻すと、そのパーカーが思った以上にぶかぶかなことに違和感を覚える。

私と課長の身長差はさほどないはずだ。聞いて確認したことはなかったけれど恐らく180センチあるかないかくらいといったところだろう。

にも関わらず、このサイズ差はなんなんだ。

「課長、このパーカー大きくないですか?」

私は何も考えずにパーカーに落としていた視線を上げた。そして目に入ってきたモノに思わずポカンと口を開けて停止してしまった。

「デカいと思ったことはないけどな――って、どうした?」

突如、動きを停止した私を見て課長は片眉を上げる。

「………課長、どうやってその筋肉キープしてるんですか?」

私の目に飛び込んできたのは30歳を過ぎたサラリーマンとは思えないほどの綺麗に割れた腹筋と鍛えられた腕や胸だった。

バレーをしたときや風邪の看病をしたときにもちらりと目に入りはしたが、そのときはじっくり見ているような余裕もそんな気もなかった。

しかし改めて目の前を見ると非情にバランスの取れた体つき。

白状しよう。私は多少筋肉フェチなのである。

いや、異性に筋肉を求めているとかそういうことではなくて、ずっとアスリートな生活を送ってきたものだから筋肉を作ることを日常とし、割れた腹筋に憧れをもってトレーニングをしていたのだ。

結局女の私のお腹に筋肉が浮き出ることは体質上叶わなかったのだけれど、そのせいもあって綺麗に割れた腹筋を見ると羨ましく思うというか憧れるというか、とにかく目を奪われてしまうというちょっと変な性質がある。

「学生時代からの習慣で筋トレしないと落ち着かなくてな。どんなに疲れて家に帰ったとしても一通り体を動かしてから寝る。前にも言ったが、仕事帰りや休みの日にすることがないと午後にジム行くことも多いな」

「へぇ、そうなんですか。私も体を動かすのは好きなんで休みの日には走ったりすることはありますけど、毎日はできてないです」

「あれだけ朝から晩まで働いてて女が俺と同じ鍛え方してたら恐いわ。というか、ジロジロ見られるのを散々嫌がってた奴が人の身体をジロジロ見るな」

「ええ、良いじゃないですか。私の身体は見る価値ないですけど、男の人の鍛えられた身体ってカッコいいじゃないですか。課長現役アスリートみたいですよ。すごーい」

「……川瀬に外見上のことを初めて褒められた気がする」

目を見張って驚く課長。

私はその表情に軽く吹き出した。

「何驚いた顔しているんですか。外見なんていろんな人から褒められ慣れてるんじゃないですか? まあ、でも確かに今まで課長の見た目、というより一課の人の見た目って気にしたことなかったんですよね。こんなこと言うのもおこがましいですけど、完全に性格と仕事面で人を比較してた気がします。ここ最近周りの女子に教えられて初めて、皆さんが“イケメン”なんて言われて騒がれていることを知りました」

「とことん一課に入るべくして入った女だな、お前は」

「褒め言葉として受け取って良いんですよね?」

「最上級の褒め言葉だ。有難く受け取っておけ」

それからしばらく私は課長と二人で話をした。

普段とは全く異なる環境下にいるせいか、課長に対する警戒心が知らず和らいで普段より会話を楽しめた。

前に2人で飲んだときも思ったけど、オフモードの課長はオンモードのときと比べてかなり気さくで話しやすい。

よく笑うし冗談も言う。言葉遣いも砕けて普段感じる年齢差と身分の差がほとんど感じられなくなる。

営業で鍛えたトーク力によって、人の話をよく聞き適格に受け答えもしてくれる。こちら側が自然と楽しめるように適度に話題も提供もお手のものだ。

――変に意識さえしなければ、本当はものすごく一緒にいて楽しい人なのかもしれない。


あれ?

今、私、なんて考えた?
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