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39 デジャブな喧嘩と資料室
しおりを挟む私は食べかけのサンドイッチとお茶を持って一度自分のデスクに引き換えし、それらを置いてキーボックスに向かう。
第一資料室とその奥の映像資料室の鍵は社員に一声掛ければ基本的には自由に持ち出して良いことになっている。
私は鍵を取ると、室内に向かって軽く声を掛ける。
自分の仕事に集中していた面々が顔を上げてこちらを見てくる。課長も同じ動作をするのが視界の隅でわかったけれど、目が合うことを避けて気づかないふりをする。
ひとりが「おう」と軽く返事をしてくれたので、私は踵を返して廊下に出ようと扉を開けた。
すると扉を開けたその先に、良也と――
――木野さんが居た。
2人は互いに不機嫌丸出しの顔で何事か言い争っている。
前にも見た光景だ。
そして以前と同様二人は同時に私の存在に気がつく。
「川瀬先輩」
木野さんが可愛い顔を歪めたままこちらを見てくる。
この状況はどう処理するべきかと思案しようとしたのだけれど、先に目の前の2人が動いた。
「行こう、陸」
良也が私の手首を掴んで二つの鍵をもぎ取ると資料室の方に引っ張っていく。
一方木野さんは「ごゆっくり」と言って私が開けっ放しにしていた一課のドアを潜って中に入って行く。
「榊課長今お時間よろしいですか?」といつもより少し媚びた声が私の耳に届いた。
良也の腕に途端力が籠る。
「ちょっ、痛い」
私の訴えは良也の耳に入らなかったようで、そのままの状態でぐいぐい引っ張られる。
良也は片手で資料室の鍵を開けて中に入る。私の腕はまだ解放されない。悔しそうに歪められた表情は怒りを表しており、その原因は火を見るより明らかだ。
醸し出される空気は社員旅行のあの夜と何ら変わらない。
「やっぱり、良也は木野さんの事が好きなんでしょ?」
私の声に大きく反応した良也は目を丸くしてこちらを振り向き、腕の力と表情を緩めた。
「やっと俺のこと名前で呼んでくれた」
「あっ。……そんなことはどうでもいいでしょ」
無意識に名前を読んでしまった事に後になってから気がつく。私は自分の腕を回収して自らの体を抱くようにし、資料棚の側面に体重を掛けた。
良也は折りたたみ式の机上に腰掛け、手を脚の上で組んだ。
「どうでもよくなんかない。俺にとっては重要なことだよ」
ここ最近馬鹿みたいに明るく軽く接してきた良也と打って変わって落ち着いて穏やかな雰囲気、だけどどこか切なそうな表情。
「俺は……今でも陸が好きだよ。もう一度やり直したいって思ってる」
「嘘ばっかり」
「本当だよ」
浅く俯いた状態で目を合わせることなく互いに言葉だけを発する。そうすることによって自然と言いたいことが躊躇せずに出てきた。
「さっき、木野さんを前にして良也すごく悲しそうな顔してたよ。未練があるのは私じゃなくて木野さんに対してでしょ」
軽く視線を上げて見た不機嫌に歪んだ表情は純粋な怒りだけで出来たものには見えなかった。
「違う」
けれども良也は肯定しない。
「もう、何でよ」
私は顔をしっかり上げて良也を見やった。木野さんを意識してないなんてことは有り得ない。変な意地を張っても仕方がないのに何故意固地になっているんだ。
そう言ってやろうとしたのだけれど、思いがけず真剣な目に見返されて私は言葉を飲み込んだ。代わりに良也がゆっくり口を開く。
「俺も由香里もお互い本気じゃなかったんだ」
「…………」
良也は訥々と私が知らなかった事実を語り始めた。
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