『イケメンだけど文句ある?』ってチャンネル名のYouTuberに出会ったから文句言ってやろうと意気込んだのに、どうしてこうなった!?

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第4話 ローションでドッキリとドキドキ

14 突然の留守から生じた予想外の事態

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「あれ? おかしいな?」

 水曜日の午後三時。蝉が大合唱をする濃緑の桜並木を汗を流しながら歩いた月はレックスのマンションのエントランス辿り着き、困惑した。すっかり顔見知りになったマンションコンシェルジュにレックスの留守を言い渡されたからだ。

 基本的に家事代行業務の際に在宅か否かは前日までに顧客の方から会社または担当スタッフに一報入れるルールとなっており、この日のレックスは在宅の予定になっていた。しかし、コンシェルジュは複数回コールしてもレックスの部屋から応答がないと言う。

 契約当初から急な仕事で突然家を留守にする可能性があると言っていたレックスは、念のため在宅予定時も預けている鍵を持ってくるようにと月に指示を出していた。よって、マンション内に入る事は容易に出来た。ただ、レックスからは留守にするという連絡は一切来ていない。コンシェルジュもレックスが外出した姿を見ていないと言う。

 かつてない事態に月はエントランスで一回、レックスの部屋の前で一回、登録してあった番号に電話を掛けた。しかし、応答はない。

 となると、月は急激に不安になった。

 頭に浮かんだのは常日頃仕事のし過ぎで疲れ気味かつ寝不足気味なレックスが室内のどこかで倒れている光景だった。

 ここ最近、月の家事代行時は種田が常にレックスにぴったり貼り付いていた。よって、部屋にレックスが居るのだとしたら種田も一緒に居る可能性は高く、倒れている可能性はかなり低い。種田が一緒じゃなかったとしても、ただ眠ってしまっているだけかもしれない。

 そう冷静に判断する月の傍らで、もう一人の月が一度強くイメージしてしまった最悪のパターンをどうしても払拭できない。

 月はインターフォンを数回押して改めて反応が無い事を確認すると、預けられている鍵を取り出して玄関ドアを解錠した。

 ドアを開けると空調の効いた冷えた空気が一気に流れ出てきた。しかし、室内の明かりは点いておらず、長い廊下は静まりかえっていた。玄関を閉めるとひんやりと薄暗い空間が出来上がる。部屋に入った瞬間嗅いだ香りもいつものそれとはどこか違うように感じ、月の不安は玄関前にいる時よりもさらに膨れ上がった。

「松田さんっ、いらっしゃいますか?」

 靴を脱がずに三和土で一度中に向かって呼びかけるが何の反応もない。

 空調がしっかり効いているということは中に人がいる可能性が高い。となればレックスは本当に倒れているのかもしれない。

 そう思った月は仕事用のスリッパを取り出して足元に置き、意識を部屋の奥に向けたままの状態でそれに足を通し、大きく一歩前に踏み出した。

 その瞬間、足元にぬるりとした大きな違和感が走った。しかし、そう感じ取った瞬間には時既に遅し。月は摩擦抵抗が限りなくゼロになった床が滑るままに大きく足を取られ、そのまま派手にひっくり返った。

「きゃぁああ!!」

 反射的に上がった悲鳴が床に強く尻もちをつき背中を打ち付ける鈍い音を掻き消し、痛みによる呻き声にすり替わる。そうして倒れた月はべっとりとしてひんやりとした何かが床全体に広がっている事に気が付いた。

「なっ何なのこれぇ!?」

  月が声を張り上げるとほぼ同時に玄関ドアが勢いよく開いた。

「ムーちゃん無事っ――――じゃなかった!!」

 ドアから飛び込んで来たのは肩にタオルを引っ掛けたレックスで、床に月が転がっているのを視認すると濡れた頭髪をぐしゃりと掻き乱した。その背後にはばつの悪そうな顔をした種田がそっぽを向いて立って居た。

 月は数秒間唖然としたまま二人を見上げていたが、我に返ると流石に黙ってはいられなかった。

「ちょっと、何なんですかこれは!?」

 勢い余って叩いた床から粘度の高い液体が跳ねて、月の顔面にべちゃりと数滴かかった。







「本当にごめんね、ムーちゃん。体大丈夫? 痛いとこある?」

 玄関から現れたレックスは三和土にしゃがみ込み、それはもうこれでもかという程謝罪を繰り返し、月を気遣った。

「いえっ、打ちどころは悪くなかったので、大丈夫です」

 レックスが申し訳なさそうにする様子から怒る気になれなかった月は痩せ我慢をしてなんとか笑顔を作った。実際は尻にも背中にもズキズキとかなり痛みが残っている。その痛みが落ち着いてくるまでの間、月はさり気無く患部を摩りながら現状の把握に時間を費やした。

 レックスによって廊下の明かりが点けられ、体を起こした月はまず自らの状態を確認した。ひっくり返って床に接触した部分がどこもかしこもベトベトに濡れてしまっている。黒のパンツも白いポロシャツも水分を吸い込み、生地が体に貼り付く感覚が気持ち悪かった。手にもべったりと付いてしまったそれを掲げて観察する。透明で粘度のあるその液体がトロリと手から滴り落ちた。

「水、じゃないですよね?」

 視線を正面のレックスに向ければ、これでもかというほど眉を八の字にされ液体の正体が明かされた。

「本当にごめん……。これ、全部ローションなんだ……」

 気まずそうに語られた物品名が上手く聞き取れず月は聞き返した。すると、レックスはより申し訳なさそうな顔をした後に項垂れてしまった。

「ムーちゃんが来る前にドッキリで……廊下も奥の部屋も一面ローション塗れにされたんだ」

 なんだそれはと目を見張った月にレックスはしおしおと月が到着する以前に何があったかを説明しはじめた。
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