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逃走
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サヴェロが帰宅して数分後の事だった。武装した帝国兵がサヴェロの家の周りを包囲していた。
居酒屋でサヴェロに聴取した直後、その帝国兵のもとに新たな情報が入った。メリダ達が入っていた落下物の所から走り去ったのは旧式の四輪バギーであること。それを聴いた帝国兵はサヴェロが出てくるのを待ち伏せし、家まで尾行。そして、今に至っていた。
「間違いありません。この家に停めてある四輪バギーのタイヤと現場から走り去った四輪車のタイヤ痕が一致しました。まず間違いなく目標はこの民家にいます」
サヴェロの家の横にある小屋から出てきた一人の兵士が上官に報告を行った。
「よし。それでは、作戦の確認を行う。これより、我々は二手にわかれ催涙弾を投入後、玄関と裏口から一斉にこの民家に突入。速やかに目標を確保する。他の者は周辺に待機。万が一の取り逃しに備えろ。そして、何より重要なのは目標を無傷で確保する事だ。絶対に傷付けるな」
この場の指揮官である男は静かに、だが、厳しい口調で周りの部下へ作戦の説明を行う。部下達は指揮官からの命令を聴くと、素早く敬礼を行った。すると、一人の部下が手を上げ、指揮官に質問をする。
「この民家には、目標を匿っていると思われる民間人もいるようですが、その者達の対処は如何されますか?」
その部下からの質問に対し、指揮官の男は、
「上からの許可は降りている。抵抗するようなら迷わず撃て」
と、感情のない声で答えた。
「……了解しました」
作戦説明が終わると、兵士達は速やかに決められた配置に着く。後は指揮官の突入命令が出るのを待つだけであった。
「アイオスちゃんは外にどれだけの人数がいるとか大体わかるの?」
ジェリーは特に焦る様子を見せず、涼しい表情でアイオスに尋ねた。
『いえ、正確に把握できます。今現在、玄関の前に四名。裏口に四名。それと、この家を取り囲む様に等間隔で十二名が配置されています』
アイオスは現状を淡々と報告する。それを聴いてジェリーは「へ~すごーい」と素直に感心していた。
『さらに付け加えるならば、全員自動小銃を所持しています。どうやら、彼らにメリダ様に危害を加える意志はないようですが、サヴェロ様、ジェリー様はその限りではないようです』
「そんな事までわかるのね。アイオスちゃんって優秀ねぇ」
「おいおい、感心してる場合かよ。アイツら帝国兵にこっちの常識は通用しない。平気で俺らの事を撃って来るぞ」
いつまでも呑気な様子の母ジェリーにサヴェロは半ば呆れたように注意を促す。しかし、サヴェロも焦っている様子はない。そんな二人を見ていたメリダが思わず口を開いた。
「ねぇ、どうして二人ともそんなに余裕なの? 銃を持ってる連中に包囲されてるんだよ?」
心配そうにするメリダに対しサヴェロとジェリーは互いに目を合わせた後、メリダの方を見て「なんとかなるでしょ」と言い放った。
「とにかく、今は逃げる事を最優先で考えましょう。それじゃあサヴェロ君何か良い案を出しなさい」
「結局俺頼みかよ。母さんこそ何かアイデアを出してよ」
二人は当然のごとく、メリダを連れて逃げる作戦を考え始める。そこに緊張感はなく、メリダは思わず呆気に取られてしまっていた。と、そこに、
『いえ、私がどうにかしてメリダ様を逃がします。幸いあちら側も抵抗しなければ危害を加える事はしないようです。お二人は無茶な行動を控え大人しくしていてください』
と、アイオスがサヴェロとジェリーに注意を促す。
「そうだよ。これは私の問題なんだから二人は……」
メリダがそう言いかけたところで、「そうはいかないわ」と被せるようにジェリーが割って入った。
「そんな貴女達を拾ってきたのはうちの息子で、私はその母親なんだから、最後まで責任を持つのは当たり前でしょ?」
「拾ってきたって……まあ、母さんの言う通りだよ。君達を連れてきたのは俺だし。面倒事が嫌なら、あの時のアイオスの頼みを断ってる」
『サヴェロ様……』
「とにかく、今はみんなでこの場を切り抜ける事が先決だ。そこで、俺にこんな作戦があるんだけど……」
サヴェロはそう言うと、ジェリーとメリダに小声で自分の案を説明する。
「え! それって、君が危ないんじゃ……」
サヴェロの案を聴いて、心配そうに声を上げるメリダだが、一方のジェリーは「わかったわ」とすんなり納得した。
「俺の事なら大丈夫。という訳だから、早速準備をしよう」
サヴェロは席を立つと、行動に移る為、今を出ようとする。と、ここで立ち止まり「そうそう」と言いながらメリダの方に振り向いた。
「俺の事はサヴェロでいいよ。それじゃあよろしくメリダ」
そう言われたメリダは一瞬呆けた表情になったが「……了解、サヴェロ」と笑顔で返事をした。そして、三人と一振りはこの包囲網を抜ける為、各々配置に着いた。
それは、サヴェロの家の周りに待機していた帝国兵にとって不意討ちであった。
指揮官が突入の号令を出そうとしたその時、サヴェロの家の灯りが一気に消えた。
「どうした! 何があった?」
待機中の兵士達に、離れてサヴェロの家を注視していた指揮官から無線が入った。しかし、突然の事でその場にいた兵士達もうまく説明することができない。混乱する帝国兵の隙を突くように、今度はサヴェロの家の隣の小屋からバギーのエンジンが鳴り響く。そして、帝国兵の注意がそちらに向くと同時に、小屋の扉をぶち破ってサヴェロの駆るバギーが飛び出してきた。
帝国兵達は一斉に持っていた小銃をバギーに乗るサヴェロに向けるが「止めろ! 撃つな!」という指揮官の命令に、引き金を引くことはなかった。
「荷台に何かを乗せていた。目標だった場合流れ弾に当たる可能性がある。各員は直ちに車を用意しろ! 後を追うぞ!」
帝国兵達はサヴェロの家から離れると、各々車に乗り込み、バギーに乗って逃げて行ったサヴェロの後を追って行ってしまった。
「どお? アイオスちゃん。まだ奴らは残ってる?」
『いいえ、全員がサヴェロ様の後を追っていったようです。家の周りにはもう誰もいません』
帝国兵達が去ったのを確認すると、アイオスを持ったジェリーが家の中から顔を覗かせた。そして、キョロキョロと家の周りを改めて確認すると「出てきていいわよ」と家の中に向かって話しかけた。すると、
「サヴェロ一人で本当に大丈夫なんですか?」
心配そうにするメリダが家の奥から姿を現した。
サヴェロは自ら家の電源を落とした。それにより生じた帝国兵の混乱と暗闇に乗じ、二階から隣の小屋に飛び移るとバギーに乗り、自分一人が囮となって帝国兵をメリダから引き離し、その隙にメリダを逃がすという作戦を取った。
「大丈夫よ。ウチの子はああ見えて結構強いから。あんな帝国兵なんかに負けたりしないわ」
そう言いながら、ジェリーは家の隣にある小屋の中から大型のバイクを引っ張り出してきた。
「さあ、サヴェロが時間を稼いでくれている間に私達は逃げるわよ。後ろに乗ってちょうだい」
「は、はい」
メリダはたどたどしい動きでバイクの後ろに乗る。ジェリーはメリダがバイクに乗った事を確認すると、エンジンをかけスロットルを捻ってバイクを急発進させた。
「うわっと!」
振り落とされないようにメリダはジェリーに必死でしがみつく。
ジェリーはサヴェロが走っていった方向とは逆に向かってバイクを走らせて行った。
「ねぇ! サヴェロのお母さん! これからどこに行くの?」
メリダは風の音でかき消されぬよう大声でジェリーに話しかける。
「私の古い知人の所! その人に頼んで貴女達をこの国の外に逃がしてあげる!」
「え? 外国に行くんですか?」
「そうよ! ナウィート国内では帝国の影響力が強いから、その影響力の及ばない国へ貴女達を逃がすの!」
「……」
ジェリーの計画を聴き、不安そうな表情を浮かべるメリダ。それを察したのか、ジェリーは笑顔で「大丈夫よ!」と声をかける。
「心配はいらないわ! 貴女達の事は無事に逃がしてあげるから!」
そう言うジェリーだが、メリダが不安に思っているのは、自分の身の安全ではなく、ジェリーやサヴェロ、その他の人へ迷惑をかけてしまっている事であった。
しかし、そう言ってくれるジェリーの気持ちを汲んだメリダは無理に笑顔を作り「ありがとうございます」と言った。
居酒屋でサヴェロに聴取した直後、その帝国兵のもとに新たな情報が入った。メリダ達が入っていた落下物の所から走り去ったのは旧式の四輪バギーであること。それを聴いた帝国兵はサヴェロが出てくるのを待ち伏せし、家まで尾行。そして、今に至っていた。
「間違いありません。この家に停めてある四輪バギーのタイヤと現場から走り去った四輪車のタイヤ痕が一致しました。まず間違いなく目標はこの民家にいます」
サヴェロの家の横にある小屋から出てきた一人の兵士が上官に報告を行った。
「よし。それでは、作戦の確認を行う。これより、我々は二手にわかれ催涙弾を投入後、玄関と裏口から一斉にこの民家に突入。速やかに目標を確保する。他の者は周辺に待機。万が一の取り逃しに備えろ。そして、何より重要なのは目標を無傷で確保する事だ。絶対に傷付けるな」
この場の指揮官である男は静かに、だが、厳しい口調で周りの部下へ作戦の説明を行う。部下達は指揮官からの命令を聴くと、素早く敬礼を行った。すると、一人の部下が手を上げ、指揮官に質問をする。
「この民家には、目標を匿っていると思われる民間人もいるようですが、その者達の対処は如何されますか?」
その部下からの質問に対し、指揮官の男は、
「上からの許可は降りている。抵抗するようなら迷わず撃て」
と、感情のない声で答えた。
「……了解しました」
作戦説明が終わると、兵士達は速やかに決められた配置に着く。後は指揮官の突入命令が出るのを待つだけであった。
「アイオスちゃんは外にどれだけの人数がいるとか大体わかるの?」
ジェリーは特に焦る様子を見せず、涼しい表情でアイオスに尋ねた。
『いえ、正確に把握できます。今現在、玄関の前に四名。裏口に四名。それと、この家を取り囲む様に等間隔で十二名が配置されています』
アイオスは現状を淡々と報告する。それを聴いてジェリーは「へ~すごーい」と素直に感心していた。
『さらに付け加えるならば、全員自動小銃を所持しています。どうやら、彼らにメリダ様に危害を加える意志はないようですが、サヴェロ様、ジェリー様はその限りではないようです』
「そんな事までわかるのね。アイオスちゃんって優秀ねぇ」
「おいおい、感心してる場合かよ。アイツら帝国兵にこっちの常識は通用しない。平気で俺らの事を撃って来るぞ」
いつまでも呑気な様子の母ジェリーにサヴェロは半ば呆れたように注意を促す。しかし、サヴェロも焦っている様子はない。そんな二人を見ていたメリダが思わず口を開いた。
「ねぇ、どうして二人ともそんなに余裕なの? 銃を持ってる連中に包囲されてるんだよ?」
心配そうにするメリダに対しサヴェロとジェリーは互いに目を合わせた後、メリダの方を見て「なんとかなるでしょ」と言い放った。
「とにかく、今は逃げる事を最優先で考えましょう。それじゃあサヴェロ君何か良い案を出しなさい」
「結局俺頼みかよ。母さんこそ何かアイデアを出してよ」
二人は当然のごとく、メリダを連れて逃げる作戦を考え始める。そこに緊張感はなく、メリダは思わず呆気に取られてしまっていた。と、そこに、
『いえ、私がどうにかしてメリダ様を逃がします。幸いあちら側も抵抗しなければ危害を加える事はしないようです。お二人は無茶な行動を控え大人しくしていてください』
と、アイオスがサヴェロとジェリーに注意を促す。
「そうだよ。これは私の問題なんだから二人は……」
メリダがそう言いかけたところで、「そうはいかないわ」と被せるようにジェリーが割って入った。
「そんな貴女達を拾ってきたのはうちの息子で、私はその母親なんだから、最後まで責任を持つのは当たり前でしょ?」
「拾ってきたって……まあ、母さんの言う通りだよ。君達を連れてきたのは俺だし。面倒事が嫌なら、あの時のアイオスの頼みを断ってる」
『サヴェロ様……』
「とにかく、今はみんなでこの場を切り抜ける事が先決だ。そこで、俺にこんな作戦があるんだけど……」
サヴェロはそう言うと、ジェリーとメリダに小声で自分の案を説明する。
「え! それって、君が危ないんじゃ……」
サヴェロの案を聴いて、心配そうに声を上げるメリダだが、一方のジェリーは「わかったわ」とすんなり納得した。
「俺の事なら大丈夫。という訳だから、早速準備をしよう」
サヴェロは席を立つと、行動に移る為、今を出ようとする。と、ここで立ち止まり「そうそう」と言いながらメリダの方に振り向いた。
「俺の事はサヴェロでいいよ。それじゃあよろしくメリダ」
そう言われたメリダは一瞬呆けた表情になったが「……了解、サヴェロ」と笑顔で返事をした。そして、三人と一振りはこの包囲網を抜ける為、各々配置に着いた。
それは、サヴェロの家の周りに待機していた帝国兵にとって不意討ちであった。
指揮官が突入の号令を出そうとしたその時、サヴェロの家の灯りが一気に消えた。
「どうした! 何があった?」
待機中の兵士達に、離れてサヴェロの家を注視していた指揮官から無線が入った。しかし、突然の事でその場にいた兵士達もうまく説明することができない。混乱する帝国兵の隙を突くように、今度はサヴェロの家の隣の小屋からバギーのエンジンが鳴り響く。そして、帝国兵の注意がそちらに向くと同時に、小屋の扉をぶち破ってサヴェロの駆るバギーが飛び出してきた。
帝国兵達は一斉に持っていた小銃をバギーに乗るサヴェロに向けるが「止めろ! 撃つな!」という指揮官の命令に、引き金を引くことはなかった。
「荷台に何かを乗せていた。目標だった場合流れ弾に当たる可能性がある。各員は直ちに車を用意しろ! 後を追うぞ!」
帝国兵達はサヴェロの家から離れると、各々車に乗り込み、バギーに乗って逃げて行ったサヴェロの後を追って行ってしまった。
「どお? アイオスちゃん。まだ奴らは残ってる?」
『いいえ、全員がサヴェロ様の後を追っていったようです。家の周りにはもう誰もいません』
帝国兵達が去ったのを確認すると、アイオスを持ったジェリーが家の中から顔を覗かせた。そして、キョロキョロと家の周りを改めて確認すると「出てきていいわよ」と家の中に向かって話しかけた。すると、
「サヴェロ一人で本当に大丈夫なんですか?」
心配そうにするメリダが家の奥から姿を現した。
サヴェロは自ら家の電源を落とした。それにより生じた帝国兵の混乱と暗闇に乗じ、二階から隣の小屋に飛び移るとバギーに乗り、自分一人が囮となって帝国兵をメリダから引き離し、その隙にメリダを逃がすという作戦を取った。
「大丈夫よ。ウチの子はああ見えて結構強いから。あんな帝国兵なんかに負けたりしないわ」
そう言いながら、ジェリーは家の隣にある小屋の中から大型のバイクを引っ張り出してきた。
「さあ、サヴェロが時間を稼いでくれている間に私達は逃げるわよ。後ろに乗ってちょうだい」
「は、はい」
メリダはたどたどしい動きでバイクの後ろに乗る。ジェリーはメリダがバイクに乗った事を確認すると、エンジンをかけスロットルを捻ってバイクを急発進させた。
「うわっと!」
振り落とされないようにメリダはジェリーに必死でしがみつく。
ジェリーはサヴェロが走っていった方向とは逆に向かってバイクを走らせて行った。
「ねぇ! サヴェロのお母さん! これからどこに行くの?」
メリダは風の音でかき消されぬよう大声でジェリーに話しかける。
「私の古い知人の所! その人に頼んで貴女達をこの国の外に逃がしてあげる!」
「え? 外国に行くんですか?」
「そうよ! ナウィート国内では帝国の影響力が強いから、その影響力の及ばない国へ貴女達を逃がすの!」
「……」
ジェリーの計画を聴き、不安そうな表情を浮かべるメリダ。それを察したのか、ジェリーは笑顔で「大丈夫よ!」と声をかける。
「心配はいらないわ! 貴女達の事は無事に逃がしてあげるから!」
そう言うジェリーだが、メリダが不安に思っているのは、自分の身の安全ではなく、ジェリーやサヴェロ、その他の人へ迷惑をかけてしまっている事であった。
しかし、そう言ってくれるジェリーの気持ちを汲んだメリダは無理に笑顔を作り「ありがとうございます」と言った。
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