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10.ひそかな欲※R18
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「あれは血の繋がった父親なんだ」
急に、妻はそんなことを言った。
夜も深まり、体を繋げることこそなかったが、妻はロドニスのこまやかな愛撫によって数えきれないくらい達した。
今は脱水症状にならないよう飲み水漬けになっている。
その目はトロンとしてもはや正気をとどめていない。声はとうに掠れている。なのに、吐く息はいつまでも熱い。
媚薬などという高価な薬に出会ったことがないロドニスはひどく心配だったが、そんな彼の心を弄ぶように、妻は「欲しい」「もっと」と悩ましげに身をくねらせる。
「ねえちゃんと一緒にジョナルダ伯爵に引き取られたの。12歳だった。その前は2人ともレゼットっていう男爵家の召使だったんだけど、その家がつぶれちゃって」
「母親は?」
「さあ。最初からねえちゃんと2人だけだった。わたしはジョナルダ伯爵が手をつけた召使が産んだ子だったみたい。初めて会ったとき父に言われたの。私の政治の駒になる気はあるか、って。あるなら、わたしとねえちゃんの生活を保障してくれるって言った」
妻がうつ伏せに寝返る。デキャンタにじかに口をつけて水を飲みながら、けらけらと笑って、しゃべっている。
一晩かけて、ずいぶん砕けた態度で接してくれるようになった。この変化をロドニスは好ましいと思っていた。
彼女を尻目に、ロドニスは台の上のキセルを取った。葉に火をつけて、煙をわざとゆっくりくゆらせる。妻の方を見ると、まっしろな背中と銀の髪が目を突き刺す。きれいだと思った。
「伯爵に引き取られてすぐ敵国に留学することになった」
「ファルマンデイ王国だろ」
「そう、6年くらい留学してた間すごい勉強した。なんでと思う?」妻はからから笑う。「あのね、父に褒めてもらいたかったから。おまえは私の実の子だ、だからきっと頭がいいよ。父はそう言ったの。だから、わたしを引き取ったのは実の子で愛情があったからかもしれないって思った。留学先で、いっぱい勉強して、たくさん人脈をつくって、父の期待に応えたかった」
だが、迎えは来なかった。
エウリッタは敵国に送った人質として見殺しにされた。国が進軍したとき、エウリッタを探して保護するようにという命令は一切無かった。
ロドニスは傭兵としてその戦場に出たので知っている。
エウリッタは全く覚えてないようだが、二人が出会ったのは、あの戦いの中、敵国ファルマンデイ王国でだった。
燃えろ。炎に囲まれて、そう叫んでいた彼女。ちりちりと焦げついて黒ずんでいく彼女の白銀の髪。その情景をロドニスは忘れた日こそない。
「父はわたしのことを愛してなかった。父はねえちゃんが欲しかっただけだったの。でも、わたしは何も知らなかった。あなたと結婚することになって初めて2人の関係を知った。ねえ、結婚して家を出るとき、伯爵に言われたわ。ねえちゃんが大事にするわたしを、ずっと殺してやりたかったって」
「だから俺があんたを殺すように命令されてると思ったのか」
「それが2つめの理由だった。1つめはあなたにも言ったでしょう? もう、あの男の政治の駒になれないから。でも、あなたは刺客じゃなかった」
「これからも絶対そうならない」
「どうかなぁ」妻はぐずぐずと泣きだした。薬のせいか長時間与えられる快楽のせいか、情緒がややおかしいことになっている。「あなたは、わたしを心配する。血の繋がってる男が、わたしをどうでもいいのに……」
妻の独白を聞きながら、ロドニスは、火がついたままのキセルを枕元に置くと彼女の傍に座った。その白い背中を毛布で包む。両腕を回して抱き寄せる。
「エウリッタ」
「ぅうううう」
「泣くな、……リッタ、泣くな」
知らなかった。この女が父親の愛情を欲していたことを。
いや、これはただの飢えだ。一度も与えられなかったものを欲することは出来ない。それがどんなものか知らないのだから。
ロドニス自身も母親に傭兵団の元へ捨てられたから、気持ちはわからないでもない。自分を愛さない親への憎しみ。情。どれも己を痛めつけるだけの刃だ。
他人を慰めたことがあまりない。どうしたらいいのかわからず、ベッドシーツの中へ手を差し入れて、妻の火照る体をまさぐる。
「一人にして悪かった」
俺はあんたを傷つけない。俺はあんたを飢えさせない。そういう言葉を、どう伝えたらいいだろう。
「一緒に来るか」
「んっんっ」
「王都に別宅がある。中央での仕事中はそこにいる。城ほど広くねぇし召使もいねぇが、一緒に来るか?」
「ぁっあっ」
「来る?」
「いや、あ、やめないで」
「一緒にいる?」
「いる、いるっ、ぁああっ、あっ」
白いなめらかな体が自分の手の内で発情する。それが楽しくて、気づくと無我夢中で乳房を吸い、女のくねる体を拘束するように抱きしめている。
蜜でどろどろにぬかるむ膣に無遠慮に指を突き立てる。この瞬間がたまらない。柔らかく熱い肉が抵抗するのをおかまいなしで、女がたまらずに声を上げる弱いところを探し、しつこく指で擦る。細い腰が快感にそれる。逃げようと足がじたばたする。もっと、と泣きながら。
「あ、あ、きもちいい、いく、いっ――ッんんんう!」
女の中が激しく蠢く。
指が熱くしごかれて、今自分自身が中にいたらという想像が膨らみ、どくどくと下半身に強烈に響く。
「……大丈夫か?」
平常心をよそおう自分が滑稽だ。だが、絶頂感に蕩けている妻はロドニスの強がりをちっとも気づかない。
「だいじょうぶ、……ねえ」
「あ?」
「ねえ、もう、おしまい?」
憎らしいほど愛らしくねだる。
「水飲めよ」
「いらない」
「飲め」
「おなかいっぱい。すぐ飲ませてくるから。もういらない。ねえ、すごい我慢した。すごい強い催淫剤だもの」
「……自分でしなかったのか?」
「意地でもしない。ジョナルダ伯爵が喜ぶ」
「変態だなあんたの親父は」
「うん、変態だし、こわい、こわい」
「こわくない」
汗ばむ小さな顎を指でとらえて、口づける。安心させるように。女を安心させるために口づけしたことが、今までの人生であっただろうか?
「ねえ、もう、おしまい?」
快感によどんだローズゴールドが、うっとりとロドニスを見上げる。
自分の欲より女の欲を優先したことも初めてかもしれないが、不思議と満足感があった。自分を求める妻は可愛い。もっと甘やかしてやりたくなる。
「あっ……やだ!」
やや乱暴にシーツを剥ぎ取り、女を押し倒して目の前で足を開かせる。太ももを持ち上げて濡れそぼったそこにわざと吐息をふきかけると、女が腰をくねらせた。
「やだ、あなたのが、いい」
なけなしの恥ずかしさを孕む小さな声で妻がねだる。ロドニスは情けないくらい下半身が熱くなった。それを理性を総動員して抑えこむ。
「だめだ」
強い口調で言ったあと、口答えされないよう、しとどに綻ぶ花弁を指で大きく広げて、舌の全面でねっとりと舐める。
「あっ、な、なんで? もうや、ぁ、いやぁ、あなたがほしい、あなたがいい」
「……これで我慢しろ」
「いやあ!」
ぎゅう、といきなり妻の両手が上から伸びてきてロドニスの髪を引っ張った。さすがに痛くて、ロドニスは顔を上げる。
「……あのな、あんたを楽にしようとやってるんだ。入れたら気がつかえなくなるだろうが」
落ち着かせるために言うが、妻の涙に濡れた瞳は恨めしそうなままだ。
「わたしのためじゃなくていい」
「優しくできない」
「えっ、何言ってるの? 前のときとても優しかったと思ったけれど……」
真顔で言う彼女に動揺する。
とっさに視線を外すと、その動作を見て不安になったのか、女がロドニスの腕を掴んだ。
「したくないの?」
頼りなく揺れる視線でエウリッタは彼を見上げる。
ロドニスは声なく笑った。
呆れて。
「はっきり言ってくれて大丈夫よ、その、嫌なら嫌って言って? 媚薬があるから気持ち悪い?」
30日かかる仕事を20日で終わらせるつもりだった。けれど、妻と離れているのが苦痛でさらに日数を短くした。もちろん殺人的に忙しくなったが4日繰り上げて帰ってきた。
「旦那様?」
そしたら、妻が、媚薬で発情していた。
人工的なもので無理やり性欲をたかめられた、哀れな妻の、その背徳的な色気といったら。
ロドニスは無視を決め込むつもりでいた。
近衛長ジェレニーが同じ薬で寝込んでいて、浮ついた気持ちにならなかったのも確かだ。けれど、そのジェレニーが回復した今その枷はもうない。
そして妻の体調を心配しているのに、その理性をもぶち壊さんばかりに、彼女はロドニスを誘惑する。
熱く熟れた蜜壷で。汗ばんだ肢体で。同じ人間とは思えない、ゾッとするような美貌すらもロドニスのうしろめたい劣情の火を煽る。触ってはいけない何か神聖なものへ手を伸ばす獣になり果てる。
「旦那様?」
不安げに自分を呼ぶ妻をゆったりと下に組み伏せる。性急な手つきで服を脱いでいく間に、妻の顔がとろんと恍惚を孕んだ。
「そんな顔で見るな」
「……してくれるの?」
返事のかわりに、か細い腰を片手で引き寄せると、もう片方の手で太ももを上げさせた。そうして無防備に広げられた女の体の入り口を一息に貫く。
「あ、ぁ、あ、――ッ……!」
膣内が激しく収縮して女の絶頂を知らせるのを感じながら男根を押し込む。肉の熱い抵抗をねじ伏せて、ようやく奥に到達すると、あまりの快感に息を吐いた。下を見ると、妻は半ば呆然とした表情になっている。
「つらくなったら言え」
「あ、ぁっ、あああ、もう、動いて、っ、あっ」
「言えよ」
「はい、はいっ、旦那様、――ッぁああっ」
絶頂の余韻にひたるより責めて欲しそうだったので、腰を思いきり打ちつけた。旦那様、と妻が鳴く。その呼ばれ方が好きだった。その枯れた声が可愛い。
頭の中で、夢の中で、何十回でも犯した女を今現実に抱いている。
その事実だけで弾け飛びそうなほどの快感が沸き上がる。結合部分がじゅぶじゅぶと下品な音をたてて白く泡立つ。そこに手をやって、繋がっていることをより意識してみる。そんな些細な指使いも刺激的らしく、妻はまた腰を浮かした。
「あっ、あっ、い、い……ぁ、旦那さま、ぁ」
「リッタ」
「そこだめ、いく、すぐ、いっちゃ……」
白銀の髪を振り乱して、妻は一際高い声を上げる。その肢体は汗を飛ばしロドニスの腕の中でしなる。
ぎゅううう、と何度目かに彼女の中が強くロドニスを締め上げた。息を吐いて、低く唸ってロドニスはどうにかしのぐ。
「あ、あ、旦那様、旦那様のこえ、好き……」
快感に蕩けきってもうろうとした表情の妻が、ロドニスの方へ両手を差し伸べる。
こんなに淫らに笑う妻はロドニスしか知らない。
他の男は誰も知らないのだ。
その事実に歓喜しながら、おさまることを知らない嗜虐心に似た激しい欲情が突き上げてくる。エウリッタの舌を自分の舌でしごきながら、ロドニスは彼女の腰を逃げられないように押さえ込んで、激しく己を突きこむ。
「ぁあああっ、ひあっ、あ、はげし、っ旦那様、旦那様ぁっ、狂っちゃう、狂っちゃ、へんにな、っぁ」
「狂えよ」
逃げられないように。
「狂えよ、奥さん」
一生繋いでいられるように。
「リッタ」
妻がどの超えた快感に苛まれて切なく鳴く。助けを求めるように伸びてきた手をロドニスは指を絡めてしっかりと繋ぐ。
この女に会ってから、どんな女を抱くときも、頭の中でこの女に挿げ替えていた。
自分の下で善がり狂わせたい。泣き叫ばせたい。そして共に眠りたい。出来るなら。
「旦那様ぁ、……す、好き……っ」
快感と感情の回路がこんがらがった妻が泣きながら訴える。
ロドニスは口端を吊り上げる。
今はこれでいい。
あの日、敵国で憎しみにまみれた顔で泣きながら笑っていた女が、今、微笑んでいる。切ない声で自分を呼ぶ。今はそれだけでいい。
急に、妻はそんなことを言った。
夜も深まり、体を繋げることこそなかったが、妻はロドニスのこまやかな愛撫によって数えきれないくらい達した。
今は脱水症状にならないよう飲み水漬けになっている。
その目はトロンとしてもはや正気をとどめていない。声はとうに掠れている。なのに、吐く息はいつまでも熱い。
媚薬などという高価な薬に出会ったことがないロドニスはひどく心配だったが、そんな彼の心を弄ぶように、妻は「欲しい」「もっと」と悩ましげに身をくねらせる。
「ねえちゃんと一緒にジョナルダ伯爵に引き取られたの。12歳だった。その前は2人ともレゼットっていう男爵家の召使だったんだけど、その家がつぶれちゃって」
「母親は?」
「さあ。最初からねえちゃんと2人だけだった。わたしはジョナルダ伯爵が手をつけた召使が産んだ子だったみたい。初めて会ったとき父に言われたの。私の政治の駒になる気はあるか、って。あるなら、わたしとねえちゃんの生活を保障してくれるって言った」
妻がうつ伏せに寝返る。デキャンタにじかに口をつけて水を飲みながら、けらけらと笑って、しゃべっている。
一晩かけて、ずいぶん砕けた態度で接してくれるようになった。この変化をロドニスは好ましいと思っていた。
彼女を尻目に、ロドニスは台の上のキセルを取った。葉に火をつけて、煙をわざとゆっくりくゆらせる。妻の方を見ると、まっしろな背中と銀の髪が目を突き刺す。きれいだと思った。
「伯爵に引き取られてすぐ敵国に留学することになった」
「ファルマンデイ王国だろ」
「そう、6年くらい留学してた間すごい勉強した。なんでと思う?」妻はからから笑う。「あのね、父に褒めてもらいたかったから。おまえは私の実の子だ、だからきっと頭がいいよ。父はそう言ったの。だから、わたしを引き取ったのは実の子で愛情があったからかもしれないって思った。留学先で、いっぱい勉強して、たくさん人脈をつくって、父の期待に応えたかった」
だが、迎えは来なかった。
エウリッタは敵国に送った人質として見殺しにされた。国が進軍したとき、エウリッタを探して保護するようにという命令は一切無かった。
ロドニスは傭兵としてその戦場に出たので知っている。
エウリッタは全く覚えてないようだが、二人が出会ったのは、あの戦いの中、敵国ファルマンデイ王国でだった。
燃えろ。炎に囲まれて、そう叫んでいた彼女。ちりちりと焦げついて黒ずんでいく彼女の白銀の髪。その情景をロドニスは忘れた日こそない。
「父はわたしのことを愛してなかった。父はねえちゃんが欲しかっただけだったの。でも、わたしは何も知らなかった。あなたと結婚することになって初めて2人の関係を知った。ねえ、結婚して家を出るとき、伯爵に言われたわ。ねえちゃんが大事にするわたしを、ずっと殺してやりたかったって」
「だから俺があんたを殺すように命令されてると思ったのか」
「それが2つめの理由だった。1つめはあなたにも言ったでしょう? もう、あの男の政治の駒になれないから。でも、あなたは刺客じゃなかった」
「これからも絶対そうならない」
「どうかなぁ」妻はぐずぐずと泣きだした。薬のせいか長時間与えられる快楽のせいか、情緒がややおかしいことになっている。「あなたは、わたしを心配する。血の繋がってる男が、わたしをどうでもいいのに……」
妻の独白を聞きながら、ロドニスは、火がついたままのキセルを枕元に置くと彼女の傍に座った。その白い背中を毛布で包む。両腕を回して抱き寄せる。
「エウリッタ」
「ぅうううう」
「泣くな、……リッタ、泣くな」
知らなかった。この女が父親の愛情を欲していたことを。
いや、これはただの飢えだ。一度も与えられなかったものを欲することは出来ない。それがどんなものか知らないのだから。
ロドニス自身も母親に傭兵団の元へ捨てられたから、気持ちはわからないでもない。自分を愛さない親への憎しみ。情。どれも己を痛めつけるだけの刃だ。
他人を慰めたことがあまりない。どうしたらいいのかわからず、ベッドシーツの中へ手を差し入れて、妻の火照る体をまさぐる。
「一人にして悪かった」
俺はあんたを傷つけない。俺はあんたを飢えさせない。そういう言葉を、どう伝えたらいいだろう。
「一緒に来るか」
「んっんっ」
「王都に別宅がある。中央での仕事中はそこにいる。城ほど広くねぇし召使もいねぇが、一緒に来るか?」
「ぁっあっ」
「来る?」
「いや、あ、やめないで」
「一緒にいる?」
「いる、いるっ、ぁああっ、あっ」
白いなめらかな体が自分の手の内で発情する。それが楽しくて、気づくと無我夢中で乳房を吸い、女のくねる体を拘束するように抱きしめている。
蜜でどろどろにぬかるむ膣に無遠慮に指を突き立てる。この瞬間がたまらない。柔らかく熱い肉が抵抗するのをおかまいなしで、女がたまらずに声を上げる弱いところを探し、しつこく指で擦る。細い腰が快感にそれる。逃げようと足がじたばたする。もっと、と泣きながら。
「あ、あ、きもちいい、いく、いっ――ッんんんう!」
女の中が激しく蠢く。
指が熱くしごかれて、今自分自身が中にいたらという想像が膨らみ、どくどくと下半身に強烈に響く。
「……大丈夫か?」
平常心をよそおう自分が滑稽だ。だが、絶頂感に蕩けている妻はロドニスの強がりをちっとも気づかない。
「だいじょうぶ、……ねえ」
「あ?」
「ねえ、もう、おしまい?」
憎らしいほど愛らしくねだる。
「水飲めよ」
「いらない」
「飲め」
「おなかいっぱい。すぐ飲ませてくるから。もういらない。ねえ、すごい我慢した。すごい強い催淫剤だもの」
「……自分でしなかったのか?」
「意地でもしない。ジョナルダ伯爵が喜ぶ」
「変態だなあんたの親父は」
「うん、変態だし、こわい、こわい」
「こわくない」
汗ばむ小さな顎を指でとらえて、口づける。安心させるように。女を安心させるために口づけしたことが、今までの人生であっただろうか?
「ねえ、もう、おしまい?」
快感によどんだローズゴールドが、うっとりとロドニスを見上げる。
自分の欲より女の欲を優先したことも初めてかもしれないが、不思議と満足感があった。自分を求める妻は可愛い。もっと甘やかしてやりたくなる。
「あっ……やだ!」
やや乱暴にシーツを剥ぎ取り、女を押し倒して目の前で足を開かせる。太ももを持ち上げて濡れそぼったそこにわざと吐息をふきかけると、女が腰をくねらせた。
「やだ、あなたのが、いい」
なけなしの恥ずかしさを孕む小さな声で妻がねだる。ロドニスは情けないくらい下半身が熱くなった。それを理性を総動員して抑えこむ。
「だめだ」
強い口調で言ったあと、口答えされないよう、しとどに綻ぶ花弁を指で大きく広げて、舌の全面でねっとりと舐める。
「あっ、な、なんで? もうや、ぁ、いやぁ、あなたがほしい、あなたがいい」
「……これで我慢しろ」
「いやあ!」
ぎゅう、といきなり妻の両手が上から伸びてきてロドニスの髪を引っ張った。さすがに痛くて、ロドニスは顔を上げる。
「……あのな、あんたを楽にしようとやってるんだ。入れたら気がつかえなくなるだろうが」
落ち着かせるために言うが、妻の涙に濡れた瞳は恨めしそうなままだ。
「わたしのためじゃなくていい」
「優しくできない」
「えっ、何言ってるの? 前のときとても優しかったと思ったけれど……」
真顔で言う彼女に動揺する。
とっさに視線を外すと、その動作を見て不安になったのか、女がロドニスの腕を掴んだ。
「したくないの?」
頼りなく揺れる視線でエウリッタは彼を見上げる。
ロドニスは声なく笑った。
呆れて。
「はっきり言ってくれて大丈夫よ、その、嫌なら嫌って言って? 媚薬があるから気持ち悪い?」
30日かかる仕事を20日で終わらせるつもりだった。けれど、妻と離れているのが苦痛でさらに日数を短くした。もちろん殺人的に忙しくなったが4日繰り上げて帰ってきた。
「旦那様?」
そしたら、妻が、媚薬で発情していた。
人工的なもので無理やり性欲をたかめられた、哀れな妻の、その背徳的な色気といったら。
ロドニスは無視を決め込むつもりでいた。
近衛長ジェレニーが同じ薬で寝込んでいて、浮ついた気持ちにならなかったのも確かだ。けれど、そのジェレニーが回復した今その枷はもうない。
そして妻の体調を心配しているのに、その理性をもぶち壊さんばかりに、彼女はロドニスを誘惑する。
熱く熟れた蜜壷で。汗ばんだ肢体で。同じ人間とは思えない、ゾッとするような美貌すらもロドニスのうしろめたい劣情の火を煽る。触ってはいけない何か神聖なものへ手を伸ばす獣になり果てる。
「旦那様?」
不安げに自分を呼ぶ妻をゆったりと下に組み伏せる。性急な手つきで服を脱いでいく間に、妻の顔がとろんと恍惚を孕んだ。
「そんな顔で見るな」
「……してくれるの?」
返事のかわりに、か細い腰を片手で引き寄せると、もう片方の手で太ももを上げさせた。そうして無防備に広げられた女の体の入り口を一息に貫く。
「あ、ぁ、あ、――ッ……!」
膣内が激しく収縮して女の絶頂を知らせるのを感じながら男根を押し込む。肉の熱い抵抗をねじ伏せて、ようやく奥に到達すると、あまりの快感に息を吐いた。下を見ると、妻は半ば呆然とした表情になっている。
「つらくなったら言え」
「あ、ぁっ、あああ、もう、動いて、っ、あっ」
「言えよ」
「はい、はいっ、旦那様、――ッぁああっ」
絶頂の余韻にひたるより責めて欲しそうだったので、腰を思いきり打ちつけた。旦那様、と妻が鳴く。その呼ばれ方が好きだった。その枯れた声が可愛い。
頭の中で、夢の中で、何十回でも犯した女を今現実に抱いている。
その事実だけで弾け飛びそうなほどの快感が沸き上がる。結合部分がじゅぶじゅぶと下品な音をたてて白く泡立つ。そこに手をやって、繋がっていることをより意識してみる。そんな些細な指使いも刺激的らしく、妻はまた腰を浮かした。
「あっ、あっ、い、い……ぁ、旦那さま、ぁ」
「リッタ」
「そこだめ、いく、すぐ、いっちゃ……」
白銀の髪を振り乱して、妻は一際高い声を上げる。その肢体は汗を飛ばしロドニスの腕の中でしなる。
ぎゅううう、と何度目かに彼女の中が強くロドニスを締め上げた。息を吐いて、低く唸ってロドニスはどうにかしのぐ。
「あ、あ、旦那様、旦那様のこえ、好き……」
快感に蕩けきってもうろうとした表情の妻が、ロドニスの方へ両手を差し伸べる。
こんなに淫らに笑う妻はロドニスしか知らない。
他の男は誰も知らないのだ。
その事実に歓喜しながら、おさまることを知らない嗜虐心に似た激しい欲情が突き上げてくる。エウリッタの舌を自分の舌でしごきながら、ロドニスは彼女の腰を逃げられないように押さえ込んで、激しく己を突きこむ。
「ぁあああっ、ひあっ、あ、はげし、っ旦那様、旦那様ぁっ、狂っちゃう、狂っちゃ、へんにな、っぁ」
「狂えよ」
逃げられないように。
「狂えよ、奥さん」
一生繋いでいられるように。
「リッタ」
妻がどの超えた快感に苛まれて切なく鳴く。助けを求めるように伸びてきた手をロドニスは指を絡めてしっかりと繋ぐ。
この女に会ってから、どんな女を抱くときも、頭の中でこの女に挿げ替えていた。
自分の下で善がり狂わせたい。泣き叫ばせたい。そして共に眠りたい。出来るなら。
「旦那様ぁ、……す、好き……っ」
快感と感情の回路がこんがらがった妻が泣きながら訴える。
ロドニスは口端を吊り上げる。
今はこれでいい。
あの日、敵国で憎しみにまみれた顔で泣きながら笑っていた女が、今、微笑んでいる。切ない声で自分を呼ぶ。今はそれだけでいい。
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