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第99話 亜人メイドの力関係
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王都で国王たちとそんな話になっているとは知らず、モエたちはすっかり襲撃から元の生活に戻っている。
今日のモエは久しぶりにメイドとしての仕事をしていて、子爵邸の食堂をせっせと掃除をしている。
「やっぱりこの仕事が一番していて楽しいですね」
額の汗を拭いながら、にこりと微笑むモエである。
今日は子爵たちが食事をする食堂だけではなく、使用人たちの食堂の掃除も行っている。
それというのも、先日の襲撃の一件で頑張ってくれたお礼をしたかったからだ。
なにぶん、モエ自身とイジスは、あの騒動にまったく気が付けなかったのだから、みんなには頭が上がらないというものである。
「あれ、モエにゃ」
掃除をしていると、キャロが姿を見せる。
猫耳としっぽ、全身のもふもふ感が特徴的なキャラル族の女性である。
先日の襲撃では大活躍だったようだが、普段ののほほんとした感じからするとなかなかに想像ができないものだ。
「キャロさんじゃないですか。どうしたんですか、こんなところに」
掃除をする手を止めることなく、声に反応して顔を向けながら質問をしている。
「それはこっちの言葉だにゃ。モエはイジス様の専属で、こんなところにいるわけがないのにゃ」
キャロが気にするのは、そういった理由からだ。
いろいろあってイジスの専属の使用人となったはずなのに、なぜか普通の使用人たちの食堂に顔を出している。それゆえにキャロは疑問に感じているわけなのだ。
「いえ、先日の賊たちの一件でみなさんにはお世話になりましたし、やはり感謝は伝えないと思いましてね」
「それで、使用人の食堂を掃除しているのかにゃ? あたしらに任せておけばいいのにゃ」
困ったように頬をかくキャロである。
「確かにイジス様の専属ではありますが、私だって使用人の一人です。使う可能性のある場所として、掃除をするのは当然じゃありませんかね」
モエは笑顔を浮かべてキャロに反論している。
それはそうだにゃといって、キャロはつい納得してしまっていた。
「それはそうかもだけど、やっぱりモエはここにいてはいけないにゃ。掃除が終わったらイジス様の手伝いに行くといいにゃ」
「ふふっ、そうですか。分かりました。では、念入りにしていきますね」
「そうじゃないにゃ!」
しばらく居座る気満々のモエに対して、キャロは思い切りツッコミを入れていた。
使用人たちはイジスとモエがさっさとくっつくことを望んでいるというのに、肝心のモエがこの通りマイペースなままだ。
キャラル族は勘が鋭いだけに、人一倍やきもきしているというわけである。
「キャロ、ここにいたのですか」
「げげっ、ビスにゃ」
後ろから聞こえてきた声に、耳をしっぽをピンと立てて驚いている。
ゆっくり振り向くと、そこには怖い笑顔のビスが立っていた。
「のどが渇いたというのに、ずいぶんと遅いと思ったら、何をしているのですかね」
笑顔だというのに圧力がすごい。キャロは顔中に冷や汗が流れている。
「あら、誰かと思えばモエさんじゃないですか。ここは私たちの担当の場所ですよ。イジス様たちの食堂の掃除は終わられたのですか?」
圧力に震えながらも、キャロはナイスと心の中で叫んでいる。
「はい、終わりましたよ。それがどうされましたか?」
モエはマイペースである。
「そうですか。でしたら、なぜここにいらっしゃるのですか。ここはモエさん担当ではありませんよ」
先輩にあたり、命の恩人であるモエにもまったく容赦がないビスである。ラビス族のビスはなにかと真面目なのである。
「いえ、先日の襲撃のお礼がしたかったのですけど、ダメでしたかね」
「お気持ちは分かりますけれど、やはりルールはルールとして守って頂きませんと。少なくともマーサさんかエリィさんを通して頂きませんと」
ビスがものすごい圧力をモエにかけている。
先輩であってもルールはルール。厳格なビスなのである。
「そこまで言われてしまっては仕方ありません。今度はちゃんとお話を通します」
「そうして下さい」
モエが納得した様子を見て、やっとビスは険しい雰囲気を解いていた。
「では、キャロ。これから旦那様を迎えるために掃除をしますので、さっさと参りますよ。モエさんはイジス様のところにお戻り下さい」
「は、はい。そうしますね」
後輩であるにもかかわらず、ビスの醸し出す雰囲気に完全に負けてしまっているモエなのである。
ビスがキャロを連れて移動しようとすると、正面からマーサがやって来た。
「これはマーサさん、どうなさったのですか?」
キャロの首根っこを捕まえたまま、ビスは質問をしている。
「こちらにモエさんがいらしていると聞きましてね。ビスはご存じですか?」
「はい、モエさんならそこにいらっしゃいますよ」
「ありがとう。それでは、お二人は仕事に向かって下さい」
「はい、すぐに向かいます」
首根っこをつかまれたキャロが騒いでいるが、気にすることなくビスは立ち去って行った。
使用人の食堂を出ようとしたモエを、マーサが発見する。
「ちょうどよかったですよ、モエさん。あなたにご指名ですよ」
「えっ?」
突然の話にびっくりするモエである。
一体どのような用事がもちかけられたのだろうか。モエは少しばかり身構えたのだった。
今日のモエは久しぶりにメイドとしての仕事をしていて、子爵邸の食堂をせっせと掃除をしている。
「やっぱりこの仕事が一番していて楽しいですね」
額の汗を拭いながら、にこりと微笑むモエである。
今日は子爵たちが食事をする食堂だけではなく、使用人たちの食堂の掃除も行っている。
それというのも、先日の襲撃の一件で頑張ってくれたお礼をしたかったからだ。
なにぶん、モエ自身とイジスは、あの騒動にまったく気が付けなかったのだから、みんなには頭が上がらないというものである。
「あれ、モエにゃ」
掃除をしていると、キャロが姿を見せる。
猫耳としっぽ、全身のもふもふ感が特徴的なキャラル族の女性である。
先日の襲撃では大活躍だったようだが、普段ののほほんとした感じからするとなかなかに想像ができないものだ。
「キャロさんじゃないですか。どうしたんですか、こんなところに」
掃除をする手を止めることなく、声に反応して顔を向けながら質問をしている。
「それはこっちの言葉だにゃ。モエはイジス様の専属で、こんなところにいるわけがないのにゃ」
キャロが気にするのは、そういった理由からだ。
いろいろあってイジスの専属の使用人となったはずなのに、なぜか普通の使用人たちの食堂に顔を出している。それゆえにキャロは疑問に感じているわけなのだ。
「いえ、先日の賊たちの一件でみなさんにはお世話になりましたし、やはり感謝は伝えないと思いましてね」
「それで、使用人の食堂を掃除しているのかにゃ? あたしらに任せておけばいいのにゃ」
困ったように頬をかくキャロである。
「確かにイジス様の専属ではありますが、私だって使用人の一人です。使う可能性のある場所として、掃除をするのは当然じゃありませんかね」
モエは笑顔を浮かべてキャロに反論している。
それはそうだにゃといって、キャロはつい納得してしまっていた。
「それはそうかもだけど、やっぱりモエはここにいてはいけないにゃ。掃除が終わったらイジス様の手伝いに行くといいにゃ」
「ふふっ、そうですか。分かりました。では、念入りにしていきますね」
「そうじゃないにゃ!」
しばらく居座る気満々のモエに対して、キャロは思い切りツッコミを入れていた。
使用人たちはイジスとモエがさっさとくっつくことを望んでいるというのに、肝心のモエがこの通りマイペースなままだ。
キャラル族は勘が鋭いだけに、人一倍やきもきしているというわけである。
「キャロ、ここにいたのですか」
「げげっ、ビスにゃ」
後ろから聞こえてきた声に、耳をしっぽをピンと立てて驚いている。
ゆっくり振り向くと、そこには怖い笑顔のビスが立っていた。
「のどが渇いたというのに、ずいぶんと遅いと思ったら、何をしているのですかね」
笑顔だというのに圧力がすごい。キャロは顔中に冷や汗が流れている。
「あら、誰かと思えばモエさんじゃないですか。ここは私たちの担当の場所ですよ。イジス様たちの食堂の掃除は終わられたのですか?」
圧力に震えながらも、キャロはナイスと心の中で叫んでいる。
「はい、終わりましたよ。それがどうされましたか?」
モエはマイペースである。
「そうですか。でしたら、なぜここにいらっしゃるのですか。ここはモエさん担当ではありませんよ」
先輩にあたり、命の恩人であるモエにもまったく容赦がないビスである。ラビス族のビスはなにかと真面目なのである。
「いえ、先日の襲撃のお礼がしたかったのですけど、ダメでしたかね」
「お気持ちは分かりますけれど、やはりルールはルールとして守って頂きませんと。少なくともマーサさんかエリィさんを通して頂きませんと」
ビスがものすごい圧力をモエにかけている。
先輩であってもルールはルール。厳格なビスなのである。
「そこまで言われてしまっては仕方ありません。今度はちゃんとお話を通します」
「そうして下さい」
モエが納得した様子を見て、やっとビスは険しい雰囲気を解いていた。
「では、キャロ。これから旦那様を迎えるために掃除をしますので、さっさと参りますよ。モエさんはイジス様のところにお戻り下さい」
「は、はい。そうしますね」
後輩であるにもかかわらず、ビスの醸し出す雰囲気に完全に負けてしまっているモエなのである。
ビスがキャロを連れて移動しようとすると、正面からマーサがやって来た。
「これはマーサさん、どうなさったのですか?」
キャロの首根っこを捕まえたまま、ビスは質問をしている。
「こちらにモエさんがいらしていると聞きましてね。ビスはご存じですか?」
「はい、モエさんならそこにいらっしゃいますよ」
「ありがとう。それでは、お二人は仕事に向かって下さい」
「はい、すぐに向かいます」
首根っこをつかまれたキャロが騒いでいるが、気にすることなくビスは立ち去って行った。
使用人の食堂を出ようとしたモエを、マーサが発見する。
「ちょうどよかったですよ、モエさん。あなたにご指名ですよ」
「えっ?」
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