伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
18 / 500
第一章 転生アンマリア

第18話 子豚と子ウサギ

しおりを挟む
 お城にやって来た私たちファッティ家。お付きの使用人たちも伴っての登城よ。
 私はドスンドスンという重たい足音を響かせながら階段を昇っていく。8歳という年齢もあるけれど、体重を考えればヒールなんて履けないわ。床に穴は開くし、間違いなくヒールは折れてしまう。足も痛めちゃうから踵の低いパンプスでの入場するしかないじゃない。
 私たちファッティ家は基本的に少々太り気味である。私は恩恵太りもあって極端だけど、両親ともに健康的なデブとなっている。デブとはいってもぽっちゃりくらいの可愛いものだ。両親ともにこんな体型というのは体質のせいらしく、ファッティ家は代々太りやすい体質なのだという。ゲームだとアンマリアの事しか語られなかったけれど、まさかご先祖様から代々そういう体質だったとは思わなかったわ。
 私たちが会場となるパーティーホールに入ると、一斉にすでに来ていた貴族たちの視線が集中する。この部屋には使用人は入れないので、スーラたちは使用人たち用の部屋の方に移動してもらっている。なので、必然的にまん丸いファッティ家の面々がもの凄く目立ってしまっていた。私、これだけ注目されるの苦手なんだけどね。
 だけども、パーティーホールでは私たち以上に注目を集めている人物が二人居た。
 一人はもちろん公爵令嬢であるラム・マートン。公爵家に取り入ろうとする貴族は多いので、当然ながら多くの人物に囲まれていた。その中でも私ほどではないにしても太っているラムは、とにかく目立ったのである。
 もう一人はサキ・テトリバー男爵令嬢だ。洗礼式で『神の愛し子』なる恩恵を授かった彼女は、これまた取り入ろうとする貴族たちに囲まれている。父親はしめしめといった感じでご機嫌取りに奔走しているが、サキ自身はものすごく戸惑っている。シカがない男爵令嬢のサキには、馴染みのない光景だったからだろう。
 というわけで、私は両親に断りを入れてから、ラムとサキの二人と顔を合わせに行く。まずは目上から挨拶なのでラム・マートン公爵令嬢からだわ。
「ご機嫌麗しゅうございます、ラム・マートン公爵令嬢。私はファッティ伯爵家のアンマリア・ファッティと申します。先日のお茶会以来でございますね」
 私はカーテシーを決めて挨拶をする。すると、ラムの方もぺこりと頭を下げてアンマリアに挨拶をしてきた。
「お久しぶりでございます、アンマリア様。お体のお加減はもう大丈夫なのですか?」
 ラムから掛けられた言葉に、私は首を捻った。私にはラムの前で体調不良を起こした事などないはず。だとしたらなぜ……?
 気にはなるものの、私は動揺を隠しながら、
「ええ、体の調子でしたら問題ございません。健康第一がモットーですもの」
 とりあえず元気に振舞っておいた。
「そうですか。先日鼻血を出して倒れたとお聞きしましたので……。回復されたようで何よりですわ」
(あー、謁見の間で倒れた事が耳に入ってるわけか。黙ってもらえるように頼んだ覚えもないから、広まっていても仕方ないわね……)
 ラムがにこりとした営業用の微笑みで話しているので、私もそれとなく心のこもっていない笑顔で対応する。嘘でも笑っておけばとりあえず印象はいいはず、ヨシッ!
 ラムと一言二言言葉を交わした私は、続けてサキに声を掛けるために移動する。ラムの時は向こうが気が付いて人を払ってくれたので簡単に挨拶ができたものの、さすがにサキとはこれというほどの振興があるわけではなかった。一緒の場に居た事は確かにあるのだけど、そんなに言葉を交わしたわけではないものね。謁見の間の時だって、私が意外とあっさり鼻血を出して倒れたものだから、交流なんてする間もなかったもの。
 そんなわけだから、私はテトリバー男爵たちを取り囲む貴族を一生懸命にかき分けて進んで……いかなかった。
「サキ・テトリバー男爵令嬢! 私、アンマリア・ファッティ伯爵令嬢ですわ。ちょっとお話よろしいですかしら?」
 貴族たちの後ろから、大声で呼び掛ける。すると、わらわらと集まっていた貴族たちがぴたりと止まり、そそくさとサキへの道を開いたのだった。伯爵令嬢に道を開けるという事は、群れていたのはほぼ男爵や子爵という事なのだろう。私に何かがあれば、伯爵である父親から咎められる可能性があると怯えたわけである。
 ともかく、私はその開いた道を歩いて、サキの元へと歩み寄る。
「こんにちは、サキ・テトリバー男爵令嬢。ご機嫌いかがでしょうか」
 私は年不相応な膨らんだ顔で笑顔を作る。だが、サキはどういう事かもの凄く怯えている。私の体格が威圧的になっているのだろうか。しかし、こればかりは私の意思ではどうにもできないものなので勘弁してほしい。
 それにしても、この目の前の弱気な令嬢が、断罪ルートに進んだ時にあれだけ遠慮なく私を断罪できるのだろうかと、正直疑問に思ってしまう。
「あ、あの、アンマリア様。お体調のほどはいかが、でしょうか……」
 ラムにも問われた体調を、サキにまで尋ねられてしまった。まあ、こっちは目の前で見てるから仕方ないわね。
「ええ、見ての通り、完全復活よ。それよりも、今日は覚悟しておいた方がよろしいのではなくて? あれから一週間ほど経ってますから、おそらく今日の夜会は……」
 私がそう言いかけた時だった。あれだけ騒がしかった会場が、一気に静まり返ったのだ。
 私は直感した。いよいよ大々的な発表が行われるのだと。
 唇を固く結んで警戒する私の目の前で、男爵令嬢であるサキはとても不安そうに両手を組んで震えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

処理中です...