伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
24 / 500
第一章 転生アンマリア

第24話 ぜい肉をバッサーシ

しおりを挟む
 初めての主催となったお茶会では、ライバル令嬢のうち、ラムとサクラの二人と思いの外仲良くなってしまった私。その席で私は、サクラから体を鍛える方法をいろいろと教えてもらう事ができた。
 サクラ・バッサーシは辺境伯令嬢だ。国境を警備する辺境伯の娘として、幼少時から鍛え抜かれた体は8歳とは思えないくらいにバッキバキの筋肉を持っていた。ドレスの上からでも分かる上腕二頭筋はたくましかった。あれなら木の板程度なら真っ二つにできるのではないのだろうか。
 ちなみにどうでもいい話だけれども、『アンマリアの恋愛ダイエット大作戦』のマルチエンディングの中には、攻略対象と恋愛を成就させるエンディング以外にも、なぜかライバル令嬢と仲良くなって攻略対象をそっちのけにするエンディングも存在している。いわゆる百合エンドである。ちなみにこの百合エンドも、隠しキャラのリブロ殿下と同じように体重を問わないもので、ライバル令嬢の好感度が一定以上あって、攻略対象の好感度が足りない時に発生するという。ええ、もちろん私は全部見ましたよ。
 その中の一つには、サクラ・バッサーシと仲良くなって一緒に辺境で伝説を作り上げるというものもありましたわ。いやまあ、エンディングスチルを思い出したら今でも笑えるわね。体重差分がないけれども、サクラと一緒に倒した魔物の上で互いに拳を突き上げて笑顔で立っているシーンは本当に笑えたわ。画面の上半分は実にさわやかなのに、下半分は魔物の死屍累々というこの温度差は、本当に風邪を引きそうなレベルのスチルだったわね……。まあ、アルバム画面で見直さない限りはメッセージウィンドウで隠れているから気にはならないだろうけど。本編中は一応ユーザーに配慮したって事かな。ちなみにそのスチルでの私たちは、それはもう見事にムキムキマッチョでしたよ……。絵師さん、だいぶ拗らせてたわね。
 そんな事を思い出しながら、私は各種勉強や庭の手入れの合間にサクラに教えてもらった鍛錬法を実践している。なるほど、かなり体に負荷を掛ける運動のようで、太った私の体にはなかなかな難易度のもののようである。
 でも、数日繰り返しているうちに、私のパラメータには変化が訪れた。
(あっ、体力と耐久力が上がってる。あと体力の減少度も軽減されてるわね。……体重はお察しかぁ……)
 フィジカル面の強化が確認された。ところが、私の体重はむしろ徐々に増えつつあった。恩恵をぜい肉として溜め込むという今の性質が変わらない限り、私が筋肉を付ければその分体重が増えるという笑えないジョークである。運動しているのに、見た目が変わらない上に体重+0.1kgは相当にショックだった。それでも、将来のダイエット貯金として、私は毎日とはいかなくても続けられるだけ続けた。
 ラムの方とも交流ができて、たまにお互いの屋敷に遊びに行っては料理をするようになっていた。ヘルシーメニューで健康に痩せるためよ。
 ゲーム内のラムも相当に太っている事を気にしていたけれど、攻略対象の一人カービルに口説かれて最終的には諦めたっぽかった。こんな私でも好いてくれるのならというところね。ちなみにカービルが太った女性を好むのは、母親イボーチ・バラロースが太っているからである。敬愛する母親のような体型を持つ女性が好みというわけだ。この世界線じゃ、ラムとカービルが結ばれる可能性は低そうね……。
「そういえば、失礼だとは思いますが、アンマリア様は全然変わりませんのね」
 料理をしている最中に、こんなに風にラムにストレートに聞かれた時があった。
「うんまあ、ちょっと理由があって痩せられないのです。でも、努力をする事はやめません。いつか痩せられるその時のためにも」
 私は笑顔でそう返しておいたので、おそらくラムもあまり気に病まなくて済むと思う。失礼なのは自覚していたみたいだけれど、私は割り切っているから。
「それにしても、アンマリア様はいろいろご存じですのね。こんな調理法があるだなんて、知りませんでしたわ」
 今日教えているのは、私が転生に気が付いた時から続けている高タンパク低カロリーの食事。ラムの侍女と料理人にも付き添ってもらった上で作っている。私が作り上げた料理は、おいしくてさっぱりしているのに見た目には華やかで、公爵家の品位を傷つけるようなものでなかった。味見もしてもらったものの、料理人からしっかりお墨付きをもらえたので私は正直安心したものだ。公爵家の料理人に認められるなんて、それは名誉と言ってもいいものよ。
 とはいえ、これでラムが痩せてしまえば、けた違いの体格を持つ私はなおさら目立ってしまう。だけども友人からの相談を無下に断るわけにもいかないので、私は自分を犠牲にしてそれに付き合う事にしたのだ。
 両親もラムと友人になったと話したらとても喜んでいた。王子の婚約者候補にはなったし、その上で公爵家ともコネができるとなれば、それは手放しに喜んでしまうわよね。
 それにしても、公爵家のラムが将来的に痩せてしまえば、ゲームとしてはそもそも破綻するし、現実においても私やサキに割り込んで王子たちの婚約者になるかも知れない。まあ、私はゲームの通りになるのなんてまっぴらごめんだから、正直いってそんな所にこだわりはない。そんなわけで、13歳になって学園に入るまでの間は、自由に過ごさせてもらう事にした。
 この判断が間違っていたかどうかなんて、その時にならなければ分からないもの。どうなってもいいように、交友関係も広げておいた方がいいかしらね。私は学園に入るまでにやれる事を次々と洗い出しては書き留めていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

処理中です...