伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
27 / 500
第一章 転生アンマリア

第27話 テッテイ滞在・二日目

しおりを挟む
 翌日の事、私はサクラに誘われて、他の面々と一緒に街に出掛けた。お付きの使用人と護衛を伴っての買い物である。
 それというのも、バッサーシ領の霊峰トモ岳のふもとにあるクッケン湖に出向く事になったのだ。
 クッケン湖という場所は近くに岩塩の採掘所を持っており、大量の岩塩が眠っている。そのせいで、この湖にはその岩塩が溶け込んでいて塩っ辛い湖なのだそうだ。
 ちょっと待て、オタクな私でも知ってるぞ。なにせ馬のゲームが流行った頃の記憶があるわけだし、それを口にするのははばかられる。塩分の高い湖は塩湖と呼ばれるわけだし、さすがにその単語を口にするのはキツイでしょ。
 ちなみにこの地名は、ゲーム内でも実際に出てきている。夏休みイベントの一幕で必ず出てくるからね。掲示板ではずいぶんと話題になったものだ。「馬関連の名前の場所でこの地名はいかんでしょ」って。まったく、ゲームの売上自体は上がらなかったのに、なんでそう話題ばかりになるのかなぁ……。ホント、不思議なゲームだったわ。
 まあそういう話は置いておいて、そのクッケン湖はバッサーシ辺境伯の私兵たちの訓練場にもなっている。その中にはこのクッケン湖での遠泳も含まれている。つまり、泳げるという事なのだ。そんなわけで、私たちは水着を見に来ているというわけなのだ。
 テッテイの街の服飾店を見ていると、いろいろな水着が売られていた。しかし、さすがに貴族の令嬢は肌をさらすべからずといった感じで、スカートのついたワンピース型の水着がメインな上に、ストールやパレオもセットになったものばかりだった。ちなみにビキニとまではいかなくても、露出度の高い水着はある事はあった。あれは庶民や冒険者向けの物らしい。羨ましいけれど、私は超肥満体なのでやめた方がいいかな。13歳になったら痩せてやるからいいもん、ぐすん。
 私たちが買い物にわいわいとしている間、バッサーシ辺境伯は公爵たちを連れて、街の説明をしていた。バッサーシ辺境伯領は西と北に向けて睨みを利かせる防衛の要なのだ。なので、こうやって時々重役が視察に訪れるらしい。ちなみに辺境伯はバッサーシ家以外にも2つほど存在する。北東の守護と南方の守護の辺境伯である。ゲームでは語られなかったものの、こちらの辺境伯たちもなかなかな屈強な人たちらしい。会う事はないだろうけど、気になるといえば気になるところだわ。
 それはそれとして、服飾店で水着を買った私たちは、早速その足でクッケン湖へと向かった。一応試着はしているのでサイズは大丈夫。本当は仕立てたいところだったけれど、滞在期間が短いので既製品を買わせてもらった。私の場合はとにかくどんどんと太るから、作っている間に合わなくなる可能性があるから余計に仕立てられなかった。くっ。
 馬車に揺られる事1時間半(体感)、クッケン湖に到着した。目の前の湖は確かにでかかった。これなら確かに遠泳ができる。
 私兵には男女が居るために、その湖のほとりにはちゃんと更衣室が設けられていた。何かと気にはなるものだからね、プライバシーの保護は大事。
 それにしても、試着の時もそうだったけれど、水着に着替えると私の体格の酷さが改めて実感できる。手足は関節の辺りだけがくぼんでいるから、本当に見た目がレンコン状態である。首だって消失しかかっている。いくら恩恵を受けて体重が増えていく呪いにかかっているとは言っても、これは令嬢として終わっている気がするわ。
 それとは対照的に、サクラは8歳だというのにもの凄い筋肉である。この年ですでに腹筋割れてきてるんですけれど、どうしたらそんな風になるんですかね。じっくり聞きたい気分ですわ。
 着替えが終わったところで、私はサクラにやんわりと聞いてみる。
「日々の鍛錬の賜物です」
 サクラは笑顔でそう返してきた。うおっまぶしっ!
「わたくしも、そこまでとはいかなくてもすらっとした姿になってみたいですわ。王妃様のようなお姿は憧れてしまいますもの」
 ラムも目を輝かせながらそんな事を言っていた。ボンキュッボンは女性の憧れの体型だものね、分かるわよ。デブ専君には悪いけれど、ラムにはしっかりと痩せてもらうわ。王子たちの婚約者候補になってしまった今、シナリオ崩壊とか知ったこっちゃないもの。悔しいなら強制力で捻じ曲げてみせろ。私は心の中で思いっきり笑っておいた。
 外に出ると男性陣はとっくに着替えて待ち構えていた。着替えがシンプルだからさすがに早い。
「遅いっ! いつまで待たせるんだ」
「まあまあ、タン。レディたちにそれは失礼というものだよ。気を悪くしたのなら、すまない」
 タンと違って、タカーの方はまだマシだった。さすがは脳筋と宰相の息子の違い。どっちにしても失礼なんだけどね。
 それにしても二人とも実にまだまだ子どもといった体形だった。普通はこんなものよね、サクラが異常なだけだわ。
「うっふっふ、私の訓練は厳しいからね。二人とも音を上げるんじゃないわよ」
 サクラは不敵に笑っていた。8歳の幼女があれだけムキムキになるバッサーシ家の訓練、一体どんなものか見ものだわ。
 というわけで、向こうで男子二人が悲鳴を上げる中、私とラムは湖の浅い場所で侍女たちが見守る中戯れていた。
 その時だった。

 カンカンカンカンッ!

 けたたましく鐘の音が鳴り響く。
 私は慌てて湖を見ると、何やら湖面にゆらゆらと黒いもやが集まり始めていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...