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第一章 転生アンマリア
第43話 権力には権力をぶつけるものです
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「まったくあり得ませんわね。こうなったら証拠を押さえて、お父様に裁いてもらいますわ!」
私は終始激高していた。原因は、あまりにも酷いテトリバー男爵家への仕打ちである。
事情を問い詰めたところ、どうやらサキが婚約者候補に選ばれた事を快く思わない貴族たちが、ある事ない事をテトリバー男爵家で働く使用人たちに吹き込んだらしいのである。それだけでは使用人をやめさせるまでには至らなかったので、さらには嫌がらせまでしたらしい。それこそ使用人たちが身の危険を感じるほどのような事をだ。男爵家の取引先にも圧力を掛けたらしく、王都の男爵家はおろか、テトリバー男爵領にも被害が及んでいた。そのせいで王都の屋敷はこの有り様なのだそうだ。
国王に訴える機会もあったのに、男爵はそれほど気が強くないせいで言い出せなかったらしい。
私はとりあえず黙っていた事を窘めておいた。二人には悪いけれど、私の腹の虫がおさまらないから止めてもやらせてもらうわ。
さて、事情を知ったからにはどうしてくれようか。商会にまで圧力を掛けられるのだから、相手は貴族なのは間違いない。しかも男爵家を押さえこめるのだから、少なくとも子爵クラスの貴族という事になるだろう。本当に小説やら漫画やらで見た通り、貴族というものは汚い連中がそれなりに存在しているようだ。
「お嬢様、どうされるのですか? 少なくとも他家の事なのです。無理に首を突っ込まなくてもよろしいのでは?」
「いいえ、そうはいきません。同じ婚約者候補なのです。仲間なのです」
スーラが諫めようとしてくるが、頭に血が上っている私は、そんな説得を聞くような耳を持っていなかった。さすがに私の怒り具合が半端なかったので、スーラも説得を諦めたようだ。
さて、テトリバー男爵家に絡んでいる頭の悪い連中を特定しなければね。向こうはどう思っているかは分からないけれど、少なくとも将来の事を考えて仲良くしておきたい相手だものね。少しでも恩は売っておきたいものなのよ。
いろいろと考えてみた結果、簡単に探りを入れられるのは、テトリバー男爵家と取引のある商会という結論に達した。私の家は伯爵家だから、売り込みや買い物ついでに事情を探り出せるはず。
そこで思いついたのが、魔石ペンの取引だ。商談ついでに情報を聞き出してやればいい。でも、私のような8歳児の言う事を聞いてくれるかどうかという不安がある。ならば、ここは両親に相談すべきね。
夕食の際に、父親にテトリバー家を訪問した事を報告する私。その際に知った事を父親に伝えると、
「何とけしからん事だ。それが事実ならば、お家取り潰しもあり得るというのに、嫉妬に駆られて目が曇ったか」
うん、父親もものすごく怒っている。ただ、現状では調べられる先が限られてしまっている。辞めた使用人の行き先は分からないし、その人たちの顔も名前も分からないのだ。こっちから追う事は不可能である。
そこで父親も同じ結論に達した。
「男爵家との取引を渋った商会から聞き出すのが一番だな。同時にテトリバー家に今も残る使用人から話も聞こう。身の保証はこちらで行うとして、うちの使用人を一時的に貸し出すか」
さすがは国の大臣を務める父親、判断が早い。
「だが、今はもう夕食で時間も遅い。明日から早速動くぞ」
「お父様」
「どうしたんだい、マリー」
勢いづく父親に、私は声を掛ける。
「商会に対しては、これが役に立つと思います。これの取り扱いを持ち掛ければ、有利に進められるかと」
「そうか、魔石ペンか。王家からもお墨付きをもらった一品だ。これを交渉に使えば、商会に口を割らせられるというわけだな」
「はい」
私の提案に父親は乗ってくれる。だが、表情を明るくしたのも束の間、少しだけ渋った顔をする。
「だが、それを実行するにはまず王家から了承を取らねばならない。マリー、明日は城についておいで」
「ええっ?!」
まさかの父親からの言葉に、私はとんでもない大声で驚いた。
「いいかい、マリー。王家からのお墨付きを得た事で、販売権は王家との共有になっているんだ。つまり、私たちの一存で売り出すという事はできなくなっているんだよ」
あっぶない……。あのままだと、私単独で交渉をやらかすところだったわ。父親に相談して正解ね。
さて、私の友人予定の家族にとんでもない事を仕掛けてくれた犯人どもには、強烈なお灸を据える準備が始まったわ。王家の婚約者の家に手を出す事が、どれだけ重罪かという事を思い知ればいいのよ。これだけ証拠が残っている上に、最高権力である王家を使える手札があるんだからねぇ。
という感じで、私は登城する事を了承する。今回の事は王家も無関係ではないものね。あれだけ気が弱くて人のいい男爵だ。犯罪行為に手を染めているとも思えないし、でっち上げで潰される事はなんとしても防ぎたいものだわ。
「ここだけの話だけどね、マリー」
「何でしょうか、お父様」
「実はお城が使用している小麦の産地は、テトリバー領なんだよ」
「それは本当ですか?」
「ああ、そうだよ。テトリバー領との取引を切るという事は、テトリバー領産を重宝する王家を裏切るという事だからね。貴族から脅されたとしていても、重罪になるんだ。だから、魔石ペンで揺すれば、簡単に口を割ると思うよ」
「あれ? でしたらなぜ、テトリバー家は貧乏なのです?」
「それはね、小麦が買取ではなく税収だからなんだ。つまりテトリバー領は、税金を小麦で納めていたという事なんだ。これは、テトリバー領が品質のいい小麦以外の産業がない事が原因なんだけどね」
「な、なるほど……」
テトリバー男爵が貧乏な理由に合点がいった。その上でテトリバー男爵があれだけ自己主張が少ないから、商会には買い叩かれていたのだろう。
これは実に叩き潰しがいがある害虫たちのようですわね。私は怒りのあまり、父親がぞっとするくらいに怖い笑顔になっていた。
私は終始激高していた。原因は、あまりにも酷いテトリバー男爵家への仕打ちである。
事情を問い詰めたところ、どうやらサキが婚約者候補に選ばれた事を快く思わない貴族たちが、ある事ない事をテトリバー男爵家で働く使用人たちに吹き込んだらしいのである。それだけでは使用人をやめさせるまでには至らなかったので、さらには嫌がらせまでしたらしい。それこそ使用人たちが身の危険を感じるほどのような事をだ。男爵家の取引先にも圧力を掛けたらしく、王都の男爵家はおろか、テトリバー男爵領にも被害が及んでいた。そのせいで王都の屋敷はこの有り様なのだそうだ。
国王に訴える機会もあったのに、男爵はそれほど気が強くないせいで言い出せなかったらしい。
私はとりあえず黙っていた事を窘めておいた。二人には悪いけれど、私の腹の虫がおさまらないから止めてもやらせてもらうわ。
さて、事情を知ったからにはどうしてくれようか。商会にまで圧力を掛けられるのだから、相手は貴族なのは間違いない。しかも男爵家を押さえこめるのだから、少なくとも子爵クラスの貴族という事になるだろう。本当に小説やら漫画やらで見た通り、貴族というものは汚い連中がそれなりに存在しているようだ。
「お嬢様、どうされるのですか? 少なくとも他家の事なのです。無理に首を突っ込まなくてもよろしいのでは?」
「いいえ、そうはいきません。同じ婚約者候補なのです。仲間なのです」
スーラが諫めようとしてくるが、頭に血が上っている私は、そんな説得を聞くような耳を持っていなかった。さすがに私の怒り具合が半端なかったので、スーラも説得を諦めたようだ。
さて、テトリバー男爵家に絡んでいる頭の悪い連中を特定しなければね。向こうはどう思っているかは分からないけれど、少なくとも将来の事を考えて仲良くしておきたい相手だものね。少しでも恩は売っておきたいものなのよ。
いろいろと考えてみた結果、簡単に探りを入れられるのは、テトリバー男爵家と取引のある商会という結論に達した。私の家は伯爵家だから、売り込みや買い物ついでに事情を探り出せるはず。
そこで思いついたのが、魔石ペンの取引だ。商談ついでに情報を聞き出してやればいい。でも、私のような8歳児の言う事を聞いてくれるかどうかという不安がある。ならば、ここは両親に相談すべきね。
夕食の際に、父親にテトリバー家を訪問した事を報告する私。その際に知った事を父親に伝えると、
「何とけしからん事だ。それが事実ならば、お家取り潰しもあり得るというのに、嫉妬に駆られて目が曇ったか」
うん、父親もものすごく怒っている。ただ、現状では調べられる先が限られてしまっている。辞めた使用人の行き先は分からないし、その人たちの顔も名前も分からないのだ。こっちから追う事は不可能である。
そこで父親も同じ結論に達した。
「男爵家との取引を渋った商会から聞き出すのが一番だな。同時にテトリバー家に今も残る使用人から話も聞こう。身の保証はこちらで行うとして、うちの使用人を一時的に貸し出すか」
さすがは国の大臣を務める父親、判断が早い。
「だが、今はもう夕食で時間も遅い。明日から早速動くぞ」
「お父様」
「どうしたんだい、マリー」
勢いづく父親に、私は声を掛ける。
「商会に対しては、これが役に立つと思います。これの取り扱いを持ち掛ければ、有利に進められるかと」
「そうか、魔石ペンか。王家からもお墨付きをもらった一品だ。これを交渉に使えば、商会に口を割らせられるというわけだな」
「はい」
私の提案に父親は乗ってくれる。だが、表情を明るくしたのも束の間、少しだけ渋った顔をする。
「だが、それを実行するにはまず王家から了承を取らねばならない。マリー、明日は城についておいで」
「ええっ?!」
まさかの父親からの言葉に、私はとんでもない大声で驚いた。
「いいかい、マリー。王家からのお墨付きを得た事で、販売権は王家との共有になっているんだ。つまり、私たちの一存で売り出すという事はできなくなっているんだよ」
あっぶない……。あのままだと、私単独で交渉をやらかすところだったわ。父親に相談して正解ね。
さて、私の友人予定の家族にとんでもない事を仕掛けてくれた犯人どもには、強烈なお灸を据える準備が始まったわ。王家の婚約者の家に手を出す事が、どれだけ重罪かという事を思い知ればいいのよ。これだけ証拠が残っている上に、最高権力である王家を使える手札があるんだからねぇ。
という感じで、私は登城する事を了承する。今回の事は王家も無関係ではないものね。あれだけ気が弱くて人のいい男爵だ。犯罪行為に手を染めているとも思えないし、でっち上げで潰される事はなんとしても防ぎたいものだわ。
「ここだけの話だけどね、マリー」
「何でしょうか、お父様」
「実はお城が使用している小麦の産地は、テトリバー領なんだよ」
「それは本当ですか?」
「ああ、そうだよ。テトリバー領との取引を切るという事は、テトリバー領産を重宝する王家を裏切るという事だからね。貴族から脅されたとしていても、重罪になるんだ。だから、魔石ペンで揺すれば、簡単に口を割ると思うよ」
「あれ? でしたらなぜ、テトリバー家は貧乏なのです?」
「それはね、小麦が買取ではなく税収だからなんだ。つまりテトリバー領は、税金を小麦で納めていたという事なんだ。これは、テトリバー領が品質のいい小麦以外の産業がない事が原因なんだけどね」
「な、なるほど……」
テトリバー男爵が貧乏な理由に合点がいった。その上でテトリバー男爵があれだけ自己主張が少ないから、商会には買い叩かれていたのだろう。
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