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第一章 転生アンマリア
第44話 さすがは大臣の交渉術
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翌日、私は父親について行き、国王と会う。テトリバー男爵家の現状を説明すると、国王はあっさりとこっちの計画に乗ってくれた。その上で、その商会との交渉に、城の文官を一名同行させてくれる事になった。ちなみに父親もついてくる。
というわけで、絵面的にだいぶ凸凹な一行が、テトリバー領の小麦を扱う商会へと乗り込んでいった。
その件の商会だが、テトリバー男爵邸から目と鼻の先にあった。これだけ近いとは思わなかったなぁ……。名前はボンジール商会。テトリバー男爵家とは付き合いが長いらしく、今の男爵が弱腰な原因はこの辺りにもありそうだった。
まあそんな事などどうでもいいわけで、現状ありえない事をしているわけだから、ちゃんと悪事の証明をした上で罰さなければならない。なにせ小麦の流通を止めるという事は、その分、どこかに食糧不足という事態を引き起こしかねないからだ。保存の効く小麦だからとはいっても、貯蓄の限界はあるというもの。その商会はその辺が分かっているかどうかというのも、父親に言わせれば量刑を決める上でのポイントになるらしい。
と、その前に一度伯爵邸に戻り、使用人を五名ほどと共に家令も連れてテトリバー男爵邸に寄る。そこでの処理は家令に任せて、私たちはボンジール商会へと向かった。
「これはこれは、ファッティ伯爵様。本日はどのような用件でございましょうか」
私たちが商会に到着すると、ボンジール商会の商会長のギーモが出迎えた。ギーモの容姿はそれほど恰幅はよくない感じだ。私の父親よりもむしろ痩せているけれど、服装自体にはフリフリが見えるなど羽振りは良さそうである。
「とりあえず、商談室へ案内してくれ。誰かに聞かれるわけにはいかない内密な話なんでな」
父親がそう言うと、ギーモはちょっと焦ったような様子を見せた。どうやら父親に付き添う私よりも一緒に居る文官の方を警戒したようだ。王都で商会を営む以上、このギーモも一度は見た事があるのだろう。だが、ギーモはすぐに冷静さを取り戻すと、父親の要求通りに商談室へと移動していった。
「今日は貴殿にとある物品の取引を持ち掛けようと思いましてね、それで参った次第なんですよ」
席に座るなり、父親は私に魔法を使わせる。外部への音漏れだけを防ぐ魔法だ。いろいろと前世知識のおかげで、こういう面倒な魔法も使う事ができるのよ。私が親指を立てて父親に合図すると、父親は軽く頷いていた。
座席の配置はこの通り。ギーモは従業員の一人と一緒に座っている。その向かいには父親と私、それと城の文官が座っている。スーラは私の後ろに立っている。双方の間には何とも言えない緊張感が走っており、これからどのような話が行われるのか、ボンジール商会の警戒が窺える。
「王都における老舗の商会として、我々は高く評価しております。そこで今回は、こちらの物品の取り扱いを持ち掛けさせて頂きました」
そう言うと、父親は私に実物を出させる。まあたくさん作っておきましたからね。慣れてきてしまったのか、もうあまり魔力も消耗しなくなってきたわ。
目の前のテーブルに置かれたのは、魔石ペンが5本ほどである。材質はすべて同じだけれども、違う属性の魔力を流す事でケルピーの骨の色を変える事に成功したものばかりである。
「これは何でしょうか?」
ギーモは思い切り食いついた。そりゃ、見た事のない円筒の物質ですものね。気にもなるでしょう。
そこで父親が懐から自分の魔石ペンと紙を取り出した。
「これは魔石ペンと言いましてね、インクを使わずに文字が書けるという優れものなのですよ」
「何を、そんなバカな」
父親の言い分を鼻で笑うギーモだったけれど、次の瞬間に目撃した出来事に言葉を失ってしまった。
父親が出っ張りを押し込んでペン先を出すと、紙にすらすらと文字を書き始めたのだ。それはしっかりと文字として紙面に残っている。この光景にはついて来た文官も驚いていた。そう言えば、まだ城内でも知っているのはわずかでしたっけ。
「開発した者の言葉では、魔石の魔力がある限りはインクを使わずに書き続けられるそうだ。どうだい、この画期的な道具を取り扱う最初の商会となってみないか?」
父親はそう言いながら、先程紙に書いたメモをくるりと反転させてギーモたちに見せた。
「うん?」
ギーモはそのメモを覗き込む。そして、書いてある内容をはっきり認識すると、顔色を一気に悪くしていた。
「ここでこの魔石ペンの取り扱いについては条件があるのですよ」
父親はギーモたちの動揺を見て見ぬふりをして、話を続けていく。おそらくメモにはギーモたちにとって痛い内容が書かれていたのだろう。さすがは大臣を務める父親といったところだ。
「この魔石ペンの販売権は、サーロイン王家と我々ファッティ家が半々で持っているのです。つまり、これを販売するにあたっては、王家の信用も得ねばならぬわけです。分かりますかな?」
ギーモは顔を青ざめさせたまま、首を縦に振っている。
完全に相手がびびっている。そして、父親はまったく手加減なくさらに相手を畳みかけに行ったのだった。
というわけで、絵面的にだいぶ凸凹な一行が、テトリバー領の小麦を扱う商会へと乗り込んでいった。
その件の商会だが、テトリバー男爵邸から目と鼻の先にあった。これだけ近いとは思わなかったなぁ……。名前はボンジール商会。テトリバー男爵家とは付き合いが長いらしく、今の男爵が弱腰な原因はこの辺りにもありそうだった。
まあそんな事などどうでもいいわけで、現状ありえない事をしているわけだから、ちゃんと悪事の証明をした上で罰さなければならない。なにせ小麦の流通を止めるという事は、その分、どこかに食糧不足という事態を引き起こしかねないからだ。保存の効く小麦だからとはいっても、貯蓄の限界はあるというもの。その商会はその辺が分かっているかどうかというのも、父親に言わせれば量刑を決める上でのポイントになるらしい。
と、その前に一度伯爵邸に戻り、使用人を五名ほどと共に家令も連れてテトリバー男爵邸に寄る。そこでの処理は家令に任せて、私たちはボンジール商会へと向かった。
「これはこれは、ファッティ伯爵様。本日はどのような用件でございましょうか」
私たちが商会に到着すると、ボンジール商会の商会長のギーモが出迎えた。ギーモの容姿はそれほど恰幅はよくない感じだ。私の父親よりもむしろ痩せているけれど、服装自体にはフリフリが見えるなど羽振りは良さそうである。
「とりあえず、商談室へ案内してくれ。誰かに聞かれるわけにはいかない内密な話なんでな」
父親がそう言うと、ギーモはちょっと焦ったような様子を見せた。どうやら父親に付き添う私よりも一緒に居る文官の方を警戒したようだ。王都で商会を営む以上、このギーモも一度は見た事があるのだろう。だが、ギーモはすぐに冷静さを取り戻すと、父親の要求通りに商談室へと移動していった。
「今日は貴殿にとある物品の取引を持ち掛けようと思いましてね、それで参った次第なんですよ」
席に座るなり、父親は私に魔法を使わせる。外部への音漏れだけを防ぐ魔法だ。いろいろと前世知識のおかげで、こういう面倒な魔法も使う事ができるのよ。私が親指を立てて父親に合図すると、父親は軽く頷いていた。
座席の配置はこの通り。ギーモは従業員の一人と一緒に座っている。その向かいには父親と私、それと城の文官が座っている。スーラは私の後ろに立っている。双方の間には何とも言えない緊張感が走っており、これからどのような話が行われるのか、ボンジール商会の警戒が窺える。
「王都における老舗の商会として、我々は高く評価しております。そこで今回は、こちらの物品の取り扱いを持ち掛けさせて頂きました」
そう言うと、父親は私に実物を出させる。まあたくさん作っておきましたからね。慣れてきてしまったのか、もうあまり魔力も消耗しなくなってきたわ。
目の前のテーブルに置かれたのは、魔石ペンが5本ほどである。材質はすべて同じだけれども、違う属性の魔力を流す事でケルピーの骨の色を変える事に成功したものばかりである。
「これは何でしょうか?」
ギーモは思い切り食いついた。そりゃ、見た事のない円筒の物質ですものね。気にもなるでしょう。
そこで父親が懐から自分の魔石ペンと紙を取り出した。
「これは魔石ペンと言いましてね、インクを使わずに文字が書けるという優れものなのですよ」
「何を、そんなバカな」
父親の言い分を鼻で笑うギーモだったけれど、次の瞬間に目撃した出来事に言葉を失ってしまった。
父親が出っ張りを押し込んでペン先を出すと、紙にすらすらと文字を書き始めたのだ。それはしっかりと文字として紙面に残っている。この光景にはついて来た文官も驚いていた。そう言えば、まだ城内でも知っているのはわずかでしたっけ。
「開発した者の言葉では、魔石の魔力がある限りはインクを使わずに書き続けられるそうだ。どうだい、この画期的な道具を取り扱う最初の商会となってみないか?」
父親はそう言いながら、先程紙に書いたメモをくるりと反転させてギーモたちに見せた。
「うん?」
ギーモはそのメモを覗き込む。そして、書いてある内容をはっきり認識すると、顔色を一気に悪くしていた。
「ここでこの魔石ペンの取り扱いについては条件があるのですよ」
父親はギーモたちの動揺を見て見ぬふりをして、話を続けていく。おそらくメモにはギーモたちにとって痛い内容が書かれていたのだろう。さすがは大臣を務める父親といったところだ。
「この魔石ペンの販売権は、サーロイン王家と我々ファッティ家が半々で持っているのです。つまり、これを販売するにあたっては、王家の信用も得ねばならぬわけです。分かりますかな?」
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