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第二章 ゲーム開始前
第57話 シャオン到着初日
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私たちがシャオンを発った後のミール王城では……。
「何、それは本当か!」
「はい、昨夜お泊りになり、先程南のクルスへと向かわれたそうでございます」
王宮内の一室で少年の声が響き渡る。それに対して、男性の執事が勢いに怯みながら答えていた。
「そうか。父上だけに挨拶をして、この俺を無視してくれるとは……。サーロインという国は礼儀がなっておらぬな」
「いえ、今回は商業が目的なようですので、慣例に従い、国王陛下へのみ挨拶をされた様子でございます。決して殿下を無視したわけではございません」
「黙れっ!」
少年は声を荒れさせていた。
「このミール王国第一王子であるアーサリーを無視して、ただで済むとは思うなよ」
アーサリーと名乗った少年はすぐに侍従に命じて、自らもクルスへと向かう事にしたのだった。
「お兄様……」
その姿を見ていた小さな影は、お兄さまと呼んだ少年をこっそりと追いかけていた。
2日間掛けて、私たちはミール王国随一の港町であるクルスにたどり着いていた。目の前に広がる青い水平線、漂う磯の香り、これでこそ海に来た意味があるというものである。
「何でしょうか、このただただ広がる青い景色は」
「フィレン殿下、これは海というものです。この先にはただただこのような景色が広がっており、まだ見ぬ陸地があったりするのです」
フィレン王子の疑問に、私はすんなりと答えた。
「まだ見ぬ世界か……」
フィレン王子はぽつりと呟いていた。私の耳にははっきりとは聞こえなかったけれど、海の向こう側を見ている事だけは分かった。
「マリーや、宿に荷物を置いて、ひとまず腰を落ち着けよう。まずは疲れを取って、明日から見て回る事としよう」
父親は息が上がっていた。あれから2年という月日を経てだいぶ痩せてはきていた父親だけど、さすがに事務処理に忙殺されていた日々ゆえに、体力が思ったよりもなかったのである。魔石ペンで事務処理能力が上がったけれど、それ以上に書類の量が増えたのだ。どこからそんなに決済処理の必要な書類が集まってくるんですかねぇ?
まあそんなわけだから、私は両親を宿に置くと、モモとフィレン王子と護衛を連れて、クルスの街へと繰り出していったわ。
街の中で迷わないかと心配はされたけれど、私には頑張って身に付けた感知魔法がある。
感知魔法とは、自分から微弱な魔力の波を発生させて、周囲の様子を探る魔法よ。私はそれを発展させて感知魔法の可視化に成功したというわけ。その成果の一つが紙に焼き付けて作った地図。私の手元には感知魔法で正確に作り上げたクルスの街の地図が握られている。さすがに建物の中までは分からないけれど、これでクルスの街で迷う事はないでしょう。特徴的なものも多いわけだし。
……そう思っていた時期がありました。
「お姉様、今どこに居るのでしょうか」
気が付いたら迷っていた。地図に頼りすぎて逆に迷ってしまったようである。どうしてこうなった。
しかし、私は慌てない。改めて感知魔法を発動する。すると、近くの建物から怪しい反応がそれなりに出てきた。護衛ともはぐれしまったし、さてさてどうしてくれましょうかね。
「お姉様、一体どうされたのですか?」
「周囲に怪しい反応があるわ。おそらく人さらいかその辺りだと」
「なるほど、それなりに身なりの整った私たちは、格好の獲物というわけですね」
モモの質問に私が応えると、フィレン王子は腰に携えた剣に手を掛ける。というか、その剣どこから出しました?!
「お待ち下さい、殿下。ここは私の魔法で……」
いくら剣が得意だとしても、この死角が多い路地裏のような場所では戦いづらい。というわけで、私は感知魔法を応用した独特の魔法を使う。
すっと目を閉じた私は、魔力を丹念に波紋のように広げていく。そして、対象にその波紋が触れると、一気に魔法が発動していく。微弱な魔力の波紋だもの、簡単に相手に察知されてたまるものですか。
「うわぁっ!」
「な、なんだこれはっ!」
騒がしい声があちこちから聞こえてくる。私の魔力に触れた悪意ある者の足元から、拘束魔法が発動したのである。元々は対魔物用に開発した魔法だけど、まさかこんな形でお披露目になるとはね。正直私は困惑の色を隠し切れなかった。
「アンマリア、これは一体?」
「悪意ある者を絡めとっていく魔法ですわ。感知魔法の応用で考えてみましたの」
驚くフィレン王子に、私は困惑した表情のまま笑顔でそう答えた。
さて、このならず者たちはどうしてくれましょうかね。手足の自由が利かないように雁字搦めになっているはずだけど、私たちをつけてきた理由は問い質しておかなきゃね。
それにしても、私たちってば、今どこに居るのかしら。思ったより建物の背が高くて周りがまったく見えないんですもの。これでは迷ってしまうわね。今度は地図を使わず、感知魔法を使って人通りの多い方向を探す。ついでに悪い奴を見つけられればと思ったんだけど、今度はすんなりと大通りに戻って来れてしまった。あるぇ?
「殿下、モモ。連中は放っておいて、戻りましょうか」
仕方がないので、今日の見学はこれに終わりにして、明日ボンジール商会に同行する形で出直そうと私は考えた。
「そうですね。アンマリアの魔法は一応時間経過で解けますよね?」
「一応、任意に消せますけれど」
「だったら宿に戻ってから消した方がいいですね。いくら悪い奴とはいっても、あのまま放置しておくわけにはいきませんからね」
「承知致しましたわ」
というわけで、私たちはすんなりと宿に戻り、しばらくして戻ってきた護衛からこってりと怒られてしまった。
教訓、知らない街では勝手に行動しない。うん。
その後、護衛に怒られた後でならず者たちの拘束は解いておいたわよ。
「何、それは本当か!」
「はい、昨夜お泊りになり、先程南のクルスへと向かわれたそうでございます」
王宮内の一室で少年の声が響き渡る。それに対して、男性の執事が勢いに怯みながら答えていた。
「そうか。父上だけに挨拶をして、この俺を無視してくれるとは……。サーロインという国は礼儀がなっておらぬな」
「いえ、今回は商業が目的なようですので、慣例に従い、国王陛下へのみ挨拶をされた様子でございます。決して殿下を無視したわけではございません」
「黙れっ!」
少年は声を荒れさせていた。
「このミール王国第一王子であるアーサリーを無視して、ただで済むとは思うなよ」
アーサリーと名乗った少年はすぐに侍従に命じて、自らもクルスへと向かう事にしたのだった。
「お兄様……」
その姿を見ていた小さな影は、お兄さまと呼んだ少年をこっそりと追いかけていた。
2日間掛けて、私たちはミール王国随一の港町であるクルスにたどり着いていた。目の前に広がる青い水平線、漂う磯の香り、これでこそ海に来た意味があるというものである。
「何でしょうか、このただただ広がる青い景色は」
「フィレン殿下、これは海というものです。この先にはただただこのような景色が広がっており、まだ見ぬ陸地があったりするのです」
フィレン王子の疑問に、私はすんなりと答えた。
「まだ見ぬ世界か……」
フィレン王子はぽつりと呟いていた。私の耳にははっきりとは聞こえなかったけれど、海の向こう側を見ている事だけは分かった。
「マリーや、宿に荷物を置いて、ひとまず腰を落ち着けよう。まずは疲れを取って、明日から見て回る事としよう」
父親は息が上がっていた。あれから2年という月日を経てだいぶ痩せてはきていた父親だけど、さすがに事務処理に忙殺されていた日々ゆえに、体力が思ったよりもなかったのである。魔石ペンで事務処理能力が上がったけれど、それ以上に書類の量が増えたのだ。どこからそんなに決済処理の必要な書類が集まってくるんですかねぇ?
まあそんなわけだから、私は両親を宿に置くと、モモとフィレン王子と護衛を連れて、クルスの街へと繰り出していったわ。
街の中で迷わないかと心配はされたけれど、私には頑張って身に付けた感知魔法がある。
感知魔法とは、自分から微弱な魔力の波を発生させて、周囲の様子を探る魔法よ。私はそれを発展させて感知魔法の可視化に成功したというわけ。その成果の一つが紙に焼き付けて作った地図。私の手元には感知魔法で正確に作り上げたクルスの街の地図が握られている。さすがに建物の中までは分からないけれど、これでクルスの街で迷う事はないでしょう。特徴的なものも多いわけだし。
……そう思っていた時期がありました。
「お姉様、今どこに居るのでしょうか」
気が付いたら迷っていた。地図に頼りすぎて逆に迷ってしまったようである。どうしてこうなった。
しかし、私は慌てない。改めて感知魔法を発動する。すると、近くの建物から怪しい反応がそれなりに出てきた。護衛ともはぐれしまったし、さてさてどうしてくれましょうかね。
「お姉様、一体どうされたのですか?」
「周囲に怪しい反応があるわ。おそらく人さらいかその辺りだと」
「なるほど、それなりに身なりの整った私たちは、格好の獲物というわけですね」
モモの質問に私が応えると、フィレン王子は腰に携えた剣に手を掛ける。というか、その剣どこから出しました?!
「お待ち下さい、殿下。ここは私の魔法で……」
いくら剣が得意だとしても、この死角が多い路地裏のような場所では戦いづらい。というわけで、私は感知魔法を応用した独特の魔法を使う。
すっと目を閉じた私は、魔力を丹念に波紋のように広げていく。そして、対象にその波紋が触れると、一気に魔法が発動していく。微弱な魔力の波紋だもの、簡単に相手に察知されてたまるものですか。
「うわぁっ!」
「な、なんだこれはっ!」
騒がしい声があちこちから聞こえてくる。私の魔力に触れた悪意ある者の足元から、拘束魔法が発動したのである。元々は対魔物用に開発した魔法だけど、まさかこんな形でお披露目になるとはね。正直私は困惑の色を隠し切れなかった。
「アンマリア、これは一体?」
「悪意ある者を絡めとっていく魔法ですわ。感知魔法の応用で考えてみましたの」
驚くフィレン王子に、私は困惑した表情のまま笑顔でそう答えた。
さて、このならず者たちはどうしてくれましょうかね。手足の自由が利かないように雁字搦めになっているはずだけど、私たちをつけてきた理由は問い質しておかなきゃね。
それにしても、私たちってば、今どこに居るのかしら。思ったより建物の背が高くて周りがまったく見えないんですもの。これでは迷ってしまうわね。今度は地図を使わず、感知魔法を使って人通りの多い方向を探す。ついでに悪い奴を見つけられればと思ったんだけど、今度はすんなりと大通りに戻って来れてしまった。あるぇ?
「殿下、モモ。連中は放っておいて、戻りましょうか」
仕方がないので、今日の見学はこれに終わりにして、明日ボンジール商会に同行する形で出直そうと私は考えた。
「そうですね。アンマリアの魔法は一応時間経過で解けますよね?」
「一応、任意に消せますけれど」
「だったら宿に戻ってから消した方がいいですね。いくら悪い奴とはいっても、あのまま放置しておくわけにはいきませんからね」
「承知致しましたわ」
というわけで、私たちはすんなりと宿に戻り、しばらくして戻ってきた護衛からこってりと怒られてしまった。
教訓、知らない街では勝手に行動しない。うん。
その後、護衛に怒られた後でならず者たちの拘束は解いておいたわよ。
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