伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

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第二章 ゲーム開始前

第62話 収穫はありました

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 父親たちに、エスカがサーロイン王国の学園に通いたがっているという旨を伝えた私。勝手な真似を3日連続でしたせいでまた怒られてしまったけれど、これはいいカードを手に入れたと唸っていた。
 何と言っても、サーロイン王国とミール王国の仲というのはとても悪かったという歴史があるためである。歴史書を読み進めていった結果、ミール王国は元々海賊だった事が発覚した。嵐に遭い難破した先が、今の土地だったのだそうだ。現在のミール王国の領地は当時ちょうど空白地帯だった事もあって、流れ着いた海賊たちはそこで街を作ってしまったというわけである。それが現在の王都であるシャオンと港町クルスの基礎となったそうだ。
 ただ、血気盛んな海賊たちは、陸に上がっても勢いは昔のまま。肥沃な土地を求めて北へと攻め上り、当時既に存在していたサーロイン王国と激突。当時の海賊たちの勢力はたかが知れており、サーロイン王国にあえなく敗戦。
 当時の海賊たちは誰かの支配下になる事を拒んだがために南の今の領土に押し込まれ、不戦協定を結ばされた。その上、領土の境界を示すために壁まで築かれてしまう始末だったのだそうだ。
(なるほど、あの国境の壁はそういう成り立ちでしたのね。自治は認めたものの、野蛮な連中を安易に北上させないために、防壁を築いたという事だったのね)
 私は更に歴史書を読み進めていく。ちなみにボロボロだった原本は宿に返却してある。今私が読んでいるのは複製魔法で作った写本である。中身を完コピしてしまうとは、なかなかに反則級な魔法である。
 ちなみにミール王国の人たちは、元海賊とあってか、水や氷、それと風の魔法を得意としている人が多いそうだ。三属性とも極めている人も稀に居るらしい。
「そういえば、エスカに得意な魔法を聞くのを忘れてたわね。まぁ、文通くらいはできるようになるだろうから、その時にでも訊きましょう」
 歴史書をある程度読み終わったところで、私はその日はもう寝る事にした。さすがに夜も遅いものね。明日はサーロイン王国に帰る日ですから、寝坊するわけにはいかないわ。

 翌日、私は無事に目を覚まして食堂へと出向く。既に起きていたのは父親とフィレン王子、それと使用人たちだった。確認すればギーモたちも起きているようだが、姿が見えない。おそらく荷物のチェックをしているのだろう。
「おはようございます、フィレン殿下、お父様」
「おはよう、マリー」
「おはようございます、アンマリア」
 私が挨拶をすれば、二人から挨拶が返ってくる。
「それにしても、ファッティ伯爵、3日間とはあっという間でしたね」
「ええ、そうですな、殿下」
 フィレン王子と父親がいろいろと話している。私は邪魔をしまいと、モモとサキを起こしに部屋へと向かった。そして、寝ぼけ眼の二人を連れて戻ってくると、クルスでの最後の朝食を食べた。
 そこに並んでいたのは、先日作れるようになった魚の干物を焼いたものだった。生を焼いたのもいいけれど、干物を焼いたのもまたおいしかった。干物にするとだいぶ日持ちがするようになるので、もしかしたらサーロイン王国の食卓に魚が並ぶ日が来るかも知れない。私は密かな楽しみを覚えた。
 まぁ、氷魔法で凍らせてもいいんだけどね。ただ、その場合の運搬箱を作るという技術は、今は持ちえないだろう。凍った魚を包み込むおがくずのようなものがあればいいんだけどね。そこが分からないから、今はあえて干物だけにとどめておいた。
 さて、いざ王国に戻ろうとすると、外ではエスカとアーサリーも待ち構えていた。
「アンマリア様、シャオンまではご同行致しますわ」
 笑顔で宣言するエスカの横で、アーサリーは不機嫌そうにしていた。この兄妹ときたら、どうしてここまで態度が違うのか。いくらエスカが転生者とはいっても、アーサリー、隣国の王子も居るのにその態度はいかがかと思うわよ。
「本当に申し訳ございませんわ、愚兄の事はいくらでも謝罪致しますので、よろしければまたお越し下さい」
 エスカはそう言って、私に近付いてきた。
「実は、魚の冷凍運搬なのですけれど、そろそろ技術的なめどが立ちそうですわ。他にも大豆らしきものを見つけていまして、醤油や味噌もそのうち作れるかと思います」
 エスカが耳打ちしてきた言葉に、私はものすごく驚いた。さすがは転生者、そういう事はしっかり行っていたのである。
「あと、水着の製作もしていますのよ。いい布地が見つかりませんでしたので苦労しましたが、そちらも魔法を駆使してどうにか解決している最中ですの」
「それは……とても楽しみですわね」
 私はエスカとがっちり手を握り合った。一国の王女に転生しながらも、エスカって本当にたくましいわね。私も同じ転生者として負けてられませんわ。
 というわけで、文通をする約束をした私たちは、それぞれの馬車に乗り込んで帰路へと就いたのだった。
 本当にいろいろと怒られてばかりのクルス滞在だったけれど、予想以上に収穫を上げられたので私はとても満足しているのだった。
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