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第三章 学園編

第70話 エスカからの手紙

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 無事に学園生活が始まった翌日。学園から帰った私宛てにエスカから荷物が届いていた。その荷物には手紙が添えられており、中にはこう書いてあった。

『親愛なるアンマリア様へ。
 学園のご入学、実に喜ばしく思います。
 愚兄が大変ご迷惑をお掛けしていると思いますが、1年間、どうか我慢して頂けますよう申し上げます。来年になれば私もそちらに留学できる事になりましたので、年末辺りからそちらに出向き、愚兄を抑え込みますので何卒よろしくお願い致します。
 追伸、アンマリア様を見習って、私も魔道具の製作を行ってみました。その試作品がひとつでき上がりましたので、今回送らせて頂きました。使ってみた感想を頂けるとありがたく思います。前世が似たような時期を生きておられたアンマリア様なら、見ただけで何か分かって頂けると思います』

 実にまじめなエスカらしい丁寧な手紙だった。どうやら、アーサリーに関してはエスカもかなり手を焼いているようである。同じ親の元で育ってどうしてこうも差が出るのだろうか。前世の有無という差だけではとても説明できなかった。
 しかし、それよりも気になるのはその本体となる小包だった。かなり大きいようだけれども一体何なのだろうか。
 私は早速その包みを解く。すると、中から現れたのは、とても見覚えのある板だった。
「まあ、これはスマホかしらね」
 私は手に取って表面の黒い板に手を触れる。すると、何やら画面が浮かび上がった。間違いない、スマートフォンである。
(な、なんて事! 日付や時間表示までされてるわ……)
 恐る恐る画面に指を触れて上になぞると、ホーム画面が呼び出された。だけど、使える機能はカメラだけだった。まあこの世界じゃしょうがないか。とはいえ、カメラだけでもあるというのは素晴らしかった。とりあえず、私はチートな魔力を使ってスマホの解析を行った。
 その結果、なんて事はないものだった。エスカのイメージした通りに魔石に魔法を記憶させただけである。それに、私が弄る事を想定してか、魔石に変更が加えられるようにしてあった。うーん、何か見抜かれている気がするわね。
(ふふっ、実にありがたく使わせてもらうわよ、エスカ様)
 私は、自室のテーブルの引き出しに、そのスマホをしまっておいた。家に戻ってからの勉強や、お風呂から食事まであるのだから、今はこれ以上触っている暇はないのだもの。

 ひと通りやる事が終わって、私は自室に戻ってきた。スーラに寝間着に着替えさせてもらったのだけれど、やっぱり120kgの巨体相手にスーラ一人で対応させるのは気が引けるわね。早く痩せなきゃダメね。
 それにしても、あれからというもの、庭いじり以外はあまり魔道具作りにも手が回らなくなっていた。というのも、本格的に将来の王妃に向けての教育が始まったからだ。週に二度ほど王宮に出向き、サキと一緒に王妃教育を受けている。学園を卒業してからでもいいとは思うけれど、こういうのは早ければ早いほどしっかりと身に付くのだ。そのために、11歳になってから週に二度、王妃教育が始まったのだった。
(あーなんていうか、子どもの頃のこういうのって、算盤とかお習字とか思い出すわ……)
 前世で何かと習い事を受けていた私は、確かに厳しい教育を受けるものの、それほど苦痛には感じなかった。体格的には厳しいのは実際なんだけれど、気持ちとしては楽だものね。男爵家のサキの方が見てて本当につらそうだったわ。
 いろいろと思いながら、私はさっきのスマホを取り出した。見れば見るほど本当にスマホである。
 材質を確認してみたけれど、液晶部分にあたるものは板状に引き伸ばした魔石だった。魔力でもってすべてを動かしているようだった。それを包む部分は、魚系の魔物の骨らしい。私が使っていたケルピーの骨と同じ感覚のようだ。それなりに強度を持っていて、それでいて入手しやすい物という事で選んだのだろう。
 それにしてもこのスマホ。いろいろ機能を追加するにも慎重にしなければならないわね。前世の通りなら、メールや電話機能もつけたくなっちゃうもの。そうなると秘密裏に連絡を取り合う事が可能になるので、間者の疑惑を掛けられかねない。信用できる人物に相談するしかなさそうだけれど、はたしてそんな人物など居るのだろうか。
 こういう未知の技術に関しては、両親ですら信用は危うい。私がここまで作った魔道具にはそんなに危険なものはないから大っぴらにしたけれど、さすがにこれはやばすぎる。ともかく、しばらくは内密にしておいて、タイミングを見計らって国王たちに相談するのがよさそうだわ。転生者が前世知識を使って無双する話はさんざん見た事があるけれど、実際にやられると頭が痛いだけだわね。
 思い悩んだ私は、とりあえずエスカに返事を出す事にした。下手にミール王国内でスマホが流通すると、私に間者疑惑が向いてしまうわ。こっちの国王にも試作品を贈るように伝えなきゃ。
 ……なんだかんだでミール王国の兄妹は問題児だという事を認識させられた私。そのせいで気持ちが悶々としてしまい、この日はうまく寝付けなかった。
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